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【リレーインタビュー】

テキスタイルデザイナー・コーディネーター 安東陽子 

  境界をつくる布地

聞き手=岩崎遊野、木地佑花、清岡鈴、山井駿

​2022.9.13 安東陽子デザイン事務所にて

 

 

―被災地での経験

 

ーー安東さんは2011 年に独立されていますよね。

はい。震災は私にとってかなり衝撃的な出来事で、それを機に会社を辞めています。

大きく関わったというわけではないのですが、それまで自分で作っていたいろいろなレースの生地や、

汚れがあったりして普通の商品にならないような生地を機屋さんから手に入れて、それらを持って被災地に行きました。

ーー具体的には被災地でどのような活動をされたのでしょうか。

被災地で、避難してきた方たちが体育館で過ごすのを初めて見た時に、避難場所の悲惨さを痛感しました。それがきっかけになって、照明デザイナーの岡安泉さんと一緒に「間仕切りプロジェクト」を立ち上げました。テキスタイルに関しては、厚い生地だと完全に視界が遮られてしまうので、それは辛いと思いました。私は少し半透明ぐらいの方が良いと思ったので、そのような生地をワイヤーとクリップで設営できるようにしました。

被災地には行きましたが、実際知らない所の行政では何もできなかったですね。居心地が良いと、皆がここを出なくなると言われたりもしました。私は建築家や行政のもとにおいて仕事が成立してきたというのもあり、こういう「個人で何かを成し遂げる」ということは、なかなか難しいなと感じましたね。

一方で、テキスタイルは建築側が動くよりも早く被災地に対してアクションを起こせるということもあり、やって良かったかなと感じる面もありました。こういう経験が私のスタートなのかもしれません。

ーーそのような状況のなかで考えられた、半透明のテキスタイルとはどのようなものでしょうか。

これまで布を2 枚重ねるなど様々な方法でカーテンを作っていたのですが、やはり半透明の生地には別の力があると思っています。普通は被災地の集団避難施設だと、「プライバシーを守ること= 不透明」のようなイメージがありますよね。もちろんトイレ・着替える場所などは不透明でないといけませんが、全てが不透明になってしまうことはとても怖いことだと感じました。

やはり人との関係は割と半透明で、人影が見える、ちょっといる気配がある、というぐらいがちょうど良かったりするときもあるんですよね。だから人と人を「仕切る」というのは、何かを繋げるような役割になるのではないかとあらためて考えましたね。

間仕切りプロジェクト_安東陽子デザイン事務所.JPG

間仕切りプロジェクト

​©︎安東陽子デザイン(Yoko Ando Design)

ーー被災地で他に何か感じられたことはありますか。

被災地での取り組みでは、こちらの要らないものを提供するとダメなんですね。良いものをちゃんと提供しないと失礼に当たると思うんです。被災もしない普通に暮らしてる人たちが、普通の感覚でいてはダメだと感じましたそういった意味で、やはり「取り急ぎの支援じみた支援」というものはいらないと思います。こういうときこそ、様々なアプローチでアクションを起こせるデザインはとても大事なんです。

それは贈り物と同じことだと思います。提供する側の思いはそこにあるっていうことを、きちんと伝えるのが大事ですよね。例えば柳沢潤さんと取り組んだ南相馬のみんなの家では、放射線で子どもが外で遊べないということで、中に砂場がつくられています。ここでは、綺麗な色のレースをパッチワークしています。普通にパッチワークするのではなく、ちょっと重ねたりすると、ぐっとかわいくなってテキスタイルに様々な表情があらわれます。ちょっとしたささやかな操作は、思いを相手側に伝えることに繋がると思うんです。

 

 

―変化するテキスタイル/変化する空間

 

001_©️繁田諭 (Satoshi Shigeta).jpg

かまいしこども園/平田晃久建築設計事務所

​©︎繁田諭(Satoshi Shigeta)

 

これは平田晃久さん設計のかまいしこども園です。いくつかの建物が集合していて、テキスタイルは、建物の内部と建物の外壁とか、色の関係で作っています。内壁や外壁にはグリーンとピンク、ブルーと水色などの色がついていて、内部の間仕切りには両壁面の色を組み合わせた生地を使い、窓には、外壁で使用している色と内壁で使っている色のテキスタイルを二重に重ねた生地にしました。「水色とグリーン」だったら、水色とグリーンのレースにそれぞれにして、内と外、そして空間を繋ぐ仕組みにしています。

017_©️繁田諭 (Satoshi Shigeta).jpg

かまいしこども園/平田晃久建築設計事務所

​©︎繁田諭(Satoshi Shigeta)

ーーこの写真を見た時に、一見建築になじむようにカーテンをデザインされたのかなと思いました。

でもそれよりは、建築との相乗効果として何かもっと「場所を良くしていこう」という姿勢を感じました。ただなじませるのとは違うということも意図されているのでしょうか。

そうですね。いろいろな部分がうまくバランスの取れた、考えられた位置にあって、なんとなく建築と繋がるというか…何か「ルール」をつくるようにしています。建築のルールは、素材によっては少し強くなりすぎてしまうときがあるのですが、カーテンだとルールに則っても意外と柔らかくなったりするときが多いですね。

ーー揺らいだりするからでしょうか

そうですね。ある色で作っても、それが1日中同じ色には見えないんです。やはり天気のいい日と雨の日とでは見え方が変わりますし、光は朝と昼ではまた別の角度で入ってきますよね。そういうお日様のサイクルによって見え方が変わるところは、テキスタイルのもつ柔らかさの特徴だと思います。ずっと同じ見え方だと、何かそれ自体が強いものや主張になってしまいますが、テキスタイルは周りのいろいろな条件によって変わっていきます。それは空間が変わることにも繋がりますし、もちろんテキスタイル自身も変化します。両方のお互い様というか、それが良いなと感じることはありますね。

八戸市美術館_安東陽子デザイン事務所.jpg

八戸市美術館/西澤徹夫建築事務所  PRINT AND BUILD  森純平

©︎阿野太一(Daichi Ano)

 

ーー八戸市美術館では、テキスタイルによって空間の使われ方が変化しますよね。

そうですね。入り口を入ってすぐの所に、ジャイアントルームというものがあります。そこから進んで行くと少し小さい展示スペースがある構成です。ここには、ジャイアントルームを全部仕切れるくらいの大きなカーテンをつくりました。そして、カーテンのジョイント部分はそれぞれスナップで取り外しができるようになっています。さらに、フックや留めるためのベルトがあり、カーテン同士が繋がったり、取り外しできたり結構いろんなことができるカーテンなんですね。実は家具ともジョイントでき、うまく合わせると部屋ができたりもします。

ーー面白いですね。

オープニングイベントではそ のカーテンを用いて、地元の人と一緒にワークショップで作った作品を、ピアノとダンスと共に表現するということをしました。イベントにお招きしたピアニスト、アーチストでもある向井山朋子さんは、空間をすごくうまく使いこなすパフォーマーなんですよね。西澤徹夫さんと私含め設計者チームは「このカーテンはこんな風にできます、あんな風に使えます」と美術館に提案していましたが、本当にこんな使い方をしてくれるのかと少し不安にも思っていました。それが実際には、フレキシブルに使ってくれていてとても感激しました。

やっぱり実際つくるだけじゃダメだと感じますね。使ってくれる人が一緒に空間を体験してくれないと、本当の意味で空間が生きてこないと思います。

 

ーー建築を考えるときも、「誰にとって良い場所にしよう」とか、「誰がここでどういう動きをするのだろう」といったことを考えてつくるのがとても大事だと思っています。

テキスタイルでもその点は同じなのでしょうか。

そうですね。厚みやパターンもそうですけど、空間としてのテキスタイルのあり方と共に、「人が使うためにどうすれば良くなるのだろう」といったことは常に考えています。人が集まるため、楽しんでもらうためのデザインの考え方というのはとても大事で、そこは建築そのものの考え方と近いかもしれませんね。

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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