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加藤 最近のお仕事について教えてください。


柏木 オーストラリアでは、住宅と店舗の設計が多いです。なるべくオーストラリアでしかできないような設計をしたいと思っています。というのは、気候が良いんですよ。雨が多いとか空気が乾燥してるとか、気候は建築の形態を決めてしまう要因だと思うんです。日本だと、高温多湿で雨も多いですし、乗り越えなければいけない与条件は多いでしょう。でも、オーストラリアではそれがあまりシビアではないので、いろいろなチャレンジができます。せっかくそのような環境にいるので、内部空間と外部空間が一体になったような建築を模索している最中です。
の関係について考
えています。普通、そこには明確な境界がありますよね。建築があれば、その余りがランドスケープになる、というような。そうではなくて、建築とランドスケープの境界がはっきりとわからない、自然と一体になった住宅が都会でできないか、というプロジェクトを進めています。もう一つは、室内にいたときに、外部との境界の先にも内部空間が続いているんじゃないかという錯覚を覚えるような住宅。都会の限られた土地の中で、境界が制約条件にならずに、逆に広がっていくようなイメージです。町家の坪庭の ある住宅では、建築とランドスケープように、外部のちょっとした物を取り入れることで空間の認識を変えていくということを考えています。

加藤 オーストラリアの特殊性や日本との違いはどのようなところにあるのでしょうか。


柏木 日本だと、施工者のほとんどは日本人ですよね。だから、言葉の面で困ることはないじゃないですか。オーストラリアは多民族国家なので、例えば施工者が皆違う国から来ていたりするんですよ。大工さんは中国人で、左官屋さんはまた違う国の人で、というように。それぞれが、その国特有の作り方というものを持っているんです。だから、これは普通こうやって作るんじゃないの、というように、日本の感覚でやっていると合わないということはあります。やっぱりその人たちの作り方をある程度尊重するような納まりにしないと、なかなか良い仕事をしてもらえなかったりしますね。そういうときはより作りやすいデザインに変えなければいけないのですが、できるだけ僕らはそういうことをしないで済む工夫をしています。例えば一部を工場で作って、現場で作るものを減らすとかね。そのようにすることで、施工者の技術や言葉、コミュニケーションの問題というのは、ある程度乗り越えていけます。だから、どうしてもこれは現場でやらなきゃいけないことなのか、違うところで作って現場に持っていける内容なのか。同じゴールに対しても違うやり方で考えられないかということを、常に模索していますね。

 

 

【リレーインタビュー】建築家 柏木 由人

 一筋の航路の先に Full Steam Ahead

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traverse14 号から始まったリレーインタビュー企画。

17 号では、柏木由人氏がTERRAIN architects からバトンを引き継いだ。
自らの本能を信じて建築の道へ。そしてさまざまな出会いに導かれて海外へ。
オーストラリアで活躍する彼に、今の日本の建築はどのように映るのか。
建築家になった経緯から、代表作『同志社京田辺会堂』の設計を通して、

彼の建築への思いを探った。

聞き手=王 隽斉、加藤 慶、川本 稜、キミニッヒ・レア、田中 健一郎、田原迫 はるか、ハミルトン 塁

2016.6.22 京都大学 竹山研究室にて

― 海外で建築を設計するということ

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近作『Seatondale House』
シドニーにある3つの住宅がランドスケープと一体となった3世帯住宅

ハミルトン シドニーで仕事をする難しさについてお聞きしたいと思います。


柏木 外国で仕事をすることの一番の難しいところは、違う価値観のなかに自分が生きているということだと思っています。今まで知らず知らずのうちに染み付いてきた日本人としての考え方は、ずっと海外にいてもやはり抜けないんです。でもこの考え方を、本当の意味で共感できる人は世界に1億人くらいしかいないわけですよね。そこを気づかせてくれるような、問いかけをしてくれるような人がいたら良いな、ということで、事務所にも異なるバックグラウンドを持つ人に働いてもらうようにしています。オーストラリア、中国、インドネシアなど、全員出身が違いますね。自分の環境に、あえて相反するものや異質なものを作ることで、違うものが生まれる可能性があると思っています。

 いろいろな設計をしていると、どうしても迷いが生じて考えがぶれてしまうときがあります。自分たちのテーマがよくわからなくなってきたり、とかね。そういうときに一人でいると、どうしても思考が凝り固まってしまう。そこで、もう少し客観的に見て、ぶれを指摘してくれる人がいることはすごく大事だと思ってます。軌道修正し合える関係を事務所内にもつことで、作品に一貫性を持たせて作っていけると考えています。


 作品ごとの状況に応じて作風が変わる建築家もいますが、あれは相当器用じゃないと、自己分裂を起こしてしまうと思うんです。冷静に乗り越えられる人はそれで構わないのでしょうが。僕は自分のスタイルがぶれないようにすることに集中したほうが、少ないエネルギーで済むような気がしています。自分の立ち位置がはっきりするんです。これは結構重要なことだと思います。

近作『Pokolbin House』
33,000 坪の敷地に建つ住宅
近作『HunterValley House』ワインの産地ハンター・バレーにある貸し別荘

加藤 現在、日本にも事務所を構えていらっしゃいますが、今後の活動拠点についてどのように考えていますか。


柏木 どちらも並行していきたいと思っています。異なる状況を自分の中に作ることで、そのバランス感覚を保つシステムを持っておきたいんです。どちらかにシフトすると、知らず知らずに偏って、本来の自分の信念と違う方向に行ってしまう可能性があるのではないかと思います。今、国際化がどんどん進んでいて、日本人としての立ち位置しか分からないのでは世界では全くやっていけない、そういう時代になってきていると感じています。もし世界の50億人の感覚を自分のものにできればチャンスはいっぱい転がっているのに、日本人の感覚だけで世界と関わっていてはできることがすごく限られてくる、そう思いませんか。建築家としての僕の信念は、自分の扱ってるテーマがどれだけ人間にとって必然的なものなのか、どれだけ多くの人が共有できるかどうか、ということなんですね。ただ、日本の建築が現在取り組んでいるテーマを全人類が理解できるかというと、そうでもないわけです。だから、それを信念として貫くには、やっぱり日本だけでは難しいのかなと。そういう意味で、海外に身を置いて50 億人と繋がる感覚を日々感じながらリアルに生きていくというのは、大事なことだと思っています。オーストラリアで毎日違う国の人たちと関わっていると、常に感覚を揺さぶられるようで、自然と50 億人の単位というものを体感できる気がしていますね。

近作『Cammeray House』
シドニーにある2世帯住宅
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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17
特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
interview:
project:
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15
18
interview:
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essay:
2017.10 | 112p
インタビュー:五十嵐淳
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
インタビュー:野又穫
2016.10 | 128p
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
interview:
project:
essay:
16
interview:
project:
essay:
中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
2015.10 | 96p
インタビュー:石山友美
14
interview:
project:
 
essay:
2013.10 | 120p
特集:アートと空間
松井冬子,井村優三,豊田郁美,
アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
​竹山聖,布野修司,小室舞,
中井茂樹