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【リレーインタビュー】

 小林一行+ 樫村芙実 / TERRAIN architects

 そこにあるもの、そこにはないもの

​ 

聞き手 嶌岡、キム

2015.8.25 TERRAIN architects 事務所にて

 

構想した建築を実現するためには、様々な人の考えや敷地の条件とぶつかりながら、それらを紡いでいくことが必要不可欠だ。
発展途上国という人種も価値観も異なる場所で、建築を建てることは容易な作業ではないだろう。
しかし、TERRAIN architects の建築はどこか、他者でありながら「そこにしかできないもの」を構築しているように感じられる。
アフリカ・ウガンダでのプロジェクトを通して、彼らの考える他者との関わり方、建築の在り方を探った。

― ヴァナキュラーなもの

― ガラスの使い方やプランの構成など、近代的な言語も使われていますよね。「そこでしかできない」ものでありながら「そこにはなかったもの」という印象を受けます。


小林 そこに普通にあるものに対して「もっとこうすれば良いのに」と思う要素を設計の段階では考えました。そこにあるものを否定しているわけではないのですが、現地の一般的な住宅はレンガ造で、窓が少なくて暗いです。だから現地の人たちは木陰で活動していたりして、家の中は寝るときだけしか使っていなかったりもします。室内だけれど明るい光の中で活動できるように、という箇所にガラスを使いました。近代的な言語を使ったり、特殊な建築にしようという意識はなくて、そこにあ
る気候なり、地域にあるものをもっとポジティブに感じられる場所にしたかったんです。この煉瓦壁の配置自体も、南に湖がある関係で、南北方向の風が心地良いことがわかって、その風をこの施設を使う人たちが享受できるように決めました。
もっとヴァナキュラーなものを想像していた、と言われたことがありましたが、形式的な「土着的なもの」を目指すのではなくて、そこにあるものの中で、快適で居心地の良い場所をどうしたらつくれるか、というプロセスで考えています。

樫村 日本もそうだと思うのですが、かつてつくられていたヴァナキュラーな建築を現代につくることってすごく難しいんです。職人さんの数や、昔使っていたものと同等の材料を集めるのは非常に大変で。アフリカでも僻地に行けば、いわゆる私たちが本を通して目にした「土着的」な倉庫や住戸は残っているんだけど、それをこの敷地でやるのは再現になってしまうし、住み手にも受け入れ難いんですよ。現地の状況を探っていくと、スチールもコンクリートも身近な存在なんです。だから、形式的な「そこでしかできないもの」を持ち込むことは実は不自然なことで、今回はこの構成が自然だったなと思っています。

現場で積まれたレンガのテクスチャ

― 国境を行き来すること

―― アフリカの都市化に伴って、さまざまな変化もあると思います。

小林 僕が初めにウガンダに行ったのは、2002 年です。当時も「AU dormitory」の敷地周辺に住んでいまいしたが、交通量と人口はここ10 年で急激に増えています。緑一面の丘だったところが住戸だらけになっていたりとか。目に見える人口の増加や経済の変化に対して、インフラとか、色々なものが追い付いていない、という状況もあります。スマートフォンを持って、インターネットで情報を得て、人の意識は変わってきているように思います。同じような住宅がどんどん建っているし、自家用車、スマートフォンという経済的な豊かさの象徴を求めていて、均一化された価値観だけがどんどん成長している印象はあります。でも確かに、いまの日本の都市部よりも人々に「活気があるという感じはします。


―― アフリカと東京を行き来することで、その差を感じることや新しい発見はありますか。


小林 アフリカに居る期間が長いときは、ウガンダ人の感覚に近づいてくることを自覚することがあります。僕もだんだんウガンダ人マインドになっていく。例えば向こうの現場から、東京とスカイプを使って打ち合わせしたりすると、僕は現場寄りの感覚になってきて、「レンガ一つ積むのにも、こっちは大変なんだよ!」って言ったりすると、樫村からしたら「そこはもっと頑張ろうよ」って言われたりして( 笑)。
住んでいる場所で感覚に違いを感じることはありますが、日本であろうと、ウガンダであろうと基本的には現地に居る人の意見を優先して考え方とか物の見方を尊重するようにしています。でも、現場に居る方はいろんな状況が見える分悩むんですよ。だから、なぜそれを悩まないといけないのかを掘り下げるようにしています。結局、現場に居る人間の方が、ディテールや部分的なことだけではないまわりの状況をわかっているので。逆に現場から離れていると、客観的に別の視点から考えて解決できるときもあります。

―― 逆に向こうからは、日本での仕事を客観的な視点で見れているのでしょうか。


小林 そうですね。日本では当たり前の場面でも新鮮に感じられます。僕らが建築を始めてから当たり前のように使われている施工法や材料でも、実際に現場で見ると、「こうすれば良いんだ」「こう指示すればウガンダの職人さんでも実現可能だな」という風に考えさせられます。あとは、いままで日本の建築が積み重ねてきたものの尊さや、建物が立ち上がってくる過程がよく見えるようになりました。


樫村 あと日本は選択肢が山のようにありますよね。ウガンダで材料を探すときは、選択肢がとても少ないんですよ。日本だと値段から素材からサイズからピンからキリまであって、そんなに沢山の種類が必要なのか、って疑問に思うこともあります。


―― それが逆に不自由というか、制限になってしまうと。


樫村 そうですね。いま一番流通しているもの、一番良いとされているものもいずれ変わっていくし、何が本当に適正なのかを考えるときに、選択肢の多さは、それを難しくする原因でもあるように感じます。


小林 どれを選択するのか、その能力が試されます。


――現地の学生についても、東京とは差がありますか。


小林 都心部だけで言うとどんどん東京に近づいているんじゃないかな。現地の大学では、建築学生に教えることって、それこそ使うレンガの数を計算したりとか、職業訓練的なことが多くて。空間とかデザインの議論がなかったのが、最近は少しずつ増えてきている感覚はあります。


樫村 現地の建築学生とは、ワークショップもしました。東京藝大の学生とウガンダのマケレレ大学の建築学生がチームになって移動式のキオスクを設計・制作する、というワークショップです。ウガンダの道端にはインフォーマルな露店がたくさんあって、それは建築的にすごく面白いんですよ。

7 日間という短い期間ですが、制限の多い土地で、建築をつくるとはどういうことなのか、そのプロセスを体感することがコンセプトでした。


―― どのようなものができたのでしょうか。


樫村 材料が少なくて、道路も舗装されていない状況で、その問題に対して建築的にどう立ち向かうかを試されるんです。その解答としては、日本の学生もウガンダの学生もかなり共通しているな、という印象でしたね。当然、話をするときもスケッチや模型がでてきて、建築をつくるプロセスとしては「AUdormitory」で感じたことを再確認できました。日本人であろうがウガンダ人であろうが、建築に対する姿勢や考え方に共通することが多いことは、興味深かったです。

「AU dormitory」( 第一期工事後)

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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