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【リレーインタビュー】八島正年+八島夕子

 団欒を描くように Drawing a scene, a pleasant time of life

​ 

聞き手 嶌岡、西尾、高野

2014. 8.29 八島建築設計事務所にて

All pictures by Yashima architect and associates

描かれたいくつものスケッチが紡ぐ
八島正年、八島夕子の空間は
言葉や図面では表現できない味わいをもっている。
独自の設計手法で住宅を手掛けるふたりの
建築の出発点となる原風景(イメージ)とは。

― 原風景をもつこと

――他にはどんなスケッチがあるのでしょうか。


夕子 これは今までよりもっと原風景的なスケッチです。壁が一枚あったらどうなるんだろう、とか。壁があることで向こう側っていう概念が初めてできるな、とか。言葉をそのまま絵にした感じです。


正年 こういう絵も、僕らの中にいつもあるものですね。建築を設計するときに、常に持っているイメージです。


夕子 ふっと浮き上がったり、壁に囲まれたり、屋根の下でくつろげたり、そういった場所が家には必要だなと。言葉で説明してしまうこともできるんだけど、できるだけイメージで伝えたい。


正年 本質的なことだから分かりやすいと思うんです。建築の知識がない人にも伝わる。こういうものはないといけないよね。

 

夕子 ことさらこれが大事だよ、っていうものではありません。この上に何ができるかを考えていくためのものですね。

 

――住み手にも伝わるように描いているんですね。


正年 住み手ってほとんどの場合、建築の専門家ではないですよね。でも、みんな生活することに関しては専門家なんです。いままでずっと生活してきたんだし。プロジェクトによって条件はいろいろだけど、使い手に、感覚的にいいなと思ってもらえたり、無理なく使うことができることを大切にしながら設計をするようにしています。


夕子 住宅を設計する以上は、住まいを支えることが目的だと思うんです。心地よい空間にするには風を通したり、使いやすい空間にしたり。住む方も、その辺りをどうしたらいいか分からないから、私たちに頼んでくださると思うので。


正年 家って住み手が変わったりするし。だれが使っても、いいなって思えるものにしたい。どんな特殊な空間だったとしても、そこが気持ちよく使える。ただ使いやすい家をつくればいいってことじゃないんです。


夕子 そこが難しいですね。自分たちだからこそ、できることってなにがあるんだろう、ということをずっと考えています。

― 出発する場所、かえってくる場所

夕子 大学で設計を教える機会が結構あるんですが、最近の学生はパソコンが身近にありすぎるせいか、早い段階でハードなラインを引いてしまう印象を受けます。それは「ちょっと待って」って思うんです。もっと、自分が何をやりたいのか、何が目的なのか、っていう部分を練っていく過程で、その痕跡みたいのものを溜めておく過程が必要なんじゃないかって。そうしないと、設計が進んだ後に破綻したりしても、戻るところがなくなってしまうんですよ。いい感じで進んでいたはずなのに、少しつまずくと諦めちゃって次の週に全く別の案を持ってこられるとがっかりしてしまいます。もっと、ハードなラインを引く前に考えていたことがあったでしょ?って。自分が考えていたことを溜める作業をしておけば、見かえすものができて、設計のブレはなくなる気がします。


――そういった溜めておくもの、立ちかえる場所が、おふたりの場合はスケッチだということですね。


正年 『彩りの家』(2011) という絵本をつくったことがあります。建築家の書く本って基本的に対象年齢がすごく高いですよね。だから小さい子でも読めて、絵をみて伝わるような本にしたいという思いでつくりました。それは1軒の家を男の子が体験していくお話なんです。大事なところをおばあちゃんに教えてもらったり、自分で気づいたりしながら少しずつ空間の全体像が見えてくるような構成になっています。


夕子 断片的なシーンだけでなく、ひと続きの空間を描きたかったので、ある程度しっかり家を設計しました。読み進めるうちに、男の子と一緒におばあちゃんの家を知っていくようになれば面白いなと思い、絵本の終わりには答え合わせみたいにして簡単な図面も載せました。

正年 絵本なので、絵自体は設計に厳密に描いているわけではなくて、スケールが伸び縮みしている部分があるんです。でも普段こういうピュアなことを実作を通じてはなかなかできないし。現実ではないからこそ、自分たちはいつも設計の中で、こういうことを大事にしていますよ、というのを理想の状態で描けたので、すごくいい機会でしたね。妄想であり、願望であり、理想の住宅です。


――先ほどの「手」や「食卓」の絵だったり、原風景のようなスケッチがいろんな形で散りばめられながら、具体的な空間として描かれた、ということですね。


正年 そういうものを形にしていくと、『彩りの家』に行き着くんです。実際はこんなにピュアにはいかないんだけど。僕たちはいくつ住宅をつくっても、結果的にできる形が違っても、必ずや家はこうだという初心に帰りながら、確認しつつ進んでいきます。出発する場所でもあり、かえってくる場所でもある。そうしていれば今までも、これから先も自分たちの建築を見失わずにやっていけるんじゃないかと思っています。 ( 終)

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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