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【リレーインタビュー】八島正年+八島夕子

 団欒を描くように Drawing a scene, a pleasant time of life

​ 

聞き手 嶌岡、西尾、高野

2014. 8.29 八島建築設計事務所にて

All pictures by Yashima architect and associates

描かれたいくつものスケッチが紡ぐ
八島正年、八島夕子の空間は
言葉や図面では表現できない味わいをもっている。
独自の設計手法で住宅を手掛けるふたりの
建築の出発点となる原風景(イメージ)とは。

ドローイング: 食卓を包む光のイメージ

― スケッチが生まれるとき

――おふたりの設計の中では、スケッチを描くことがどのような意味をもっているのかについて、伺っていきたいと思います。

八島正年( 以下:正年) 僕も彼女も、美大の出身だから、考えるより先に手が動いてしまうんです。描くことで次のことを考えるというよりは、思ったことやアイデアを文字で書き留めたりするのと同じような感覚です。絵であって言葉みたいな。


八島夕子( 以下:夕子) 手を動かすことで、自分が考えていることが見えてきます。頭の中でずっと考えていても、話をしても、どうなんだろうって。分からないことがふつふつと積み重なってきてしまう。そこで手を動かして、考えていることを全部描いてみます。描くことで「あっ、自分はこう考えていたんだ」っていうのが整理されて出力されるんです。「よし、描こう」「設計始めよう」っていう気持ちで描くのではなく、描き留める、くらいが自然ですね。スケッチにもいろんな種類があるんですが、最初に描くのは、いま言ったようなアイデアを描き留めるためのものですね。


――さらに次の段階のスケッチもあるのでしょうか。


正年 そうですね。設計する前、途中、設計が終わった後、建築が完成した後、僕らの事務所ではいろんなスケッチを描きます。ひとつの設計について描く絵もあれば、自分たちの興味や活動を確認するために描く絵もあったり、様々です。

完成した後に説明や確認の為に描くスケッチもありますが、それはあまり重要ではありません。設計が決まる前のきっかけづくりの絵というか、妄想するための絵というのが一番大事だと思います。「こんなの描いちゃったけど、これはなんだろう?」とか「こんな空間をつくってみたいな」っていう感じで描くんですが、「もっとこうかな」、「こうしたほうがいいんじゃないか」って、ふたりで話しながら考えるための材料になることに意味があります。


――アイデアの種みたいなものですね。


正年 そう、そんな感じだと思います。

開口部のスタディ

― 意志交換のツール

――スケッチはお互いのイメージを共有するものなのですね。

夕子 そうですね。誰かに何かを伝える手段は文章だったりすることもありますが、私たちは文章を扱うのが苦手なんです( 笑)。  


正年 そうだよね( 笑)。僕らの語彙には限界があるので、むしろスケッチのほうが正確に伝わる感じがします。言葉って難しい。言葉の組み合わせや話の順序、そういう部分に縛られてしまう。でも、絵だったら色彩の幅は無限にあるし、表現の仕方も幾らでもある。すごく自由なんです。言葉よりもスムーズに伝わるし、キャッチボールしやすいんです。よりフレキシブルで、可能性もある。だから絵が先にあって、言葉はその後についてくる感じかな。その方がしっくりくるし、楽なんです。


――図面についてはどうでしょうか。


正年 図面も言葉と同じです。線の太さや記号に縛られるから、絵よりも不自由ですね。絵を通してコミュニケーションをとるのが、一番ストレスを感じない気がします。

― 自分たちのイメージ

正年 先にもお話ししましたが、スケッチは、作品を設計する時以外にも描きます。時々立ち止まって、自分たちがやっていることを確認するための絵、活動の指針となるような絵もあります。


夕子 具体的な設計のことよりも、もっと根本的なこと、お互いに確認したり共感できることを描いておくんです。それが第三者にも伝わればいいなっていう思いもあります。その1 枚の絵があれば、自分たちの考えていることが伝わるようなものです。


――それは建築空間のスケッチではないのですね。


正年 例えば、この「手の絵」( 右上図) は、生活すること、家って何なんだろう、っていうことを問いかけながら描いたものです。家って、簡単に言ってしまうとシェルターですよね。太陽から身を守ったり、風を防いだりできる。でも、それだけではありません。その中ではいろいろな人が居て、いろいろな事が起こる。音楽を奏でたり、ゆったり眠ったり、食事をしたり。家というのはそういう場所で、それは必ず人の「手」によってつくられている、という感覚ですね。


夕子 だから「手をかざす」ことでその下に空間がつくられて、その周りで人がいろいろな活動をしていくというイメージを描いたんです。少し明るくて風が抜けそうなところには活動的な場所ができたり、奥の静かな少し暗くなったところには、ひとりで休んだりゆっくり話し合える場所ができたりする。

初めからそんな場所があるわけではなくて、何もなければ光は均一に落ちてしまうけれど、「手」があれば、いろいろな場所ができる。抽象的ではあるけれど、そういうことをふたりで確認しながら、絵にしているんです。この絵から見る側が何を読み取るかはそれぞれだと思うけど、少なくとも言葉で表現するより、感覚的に想いが伝えられる気がします。


――実際に設計も、そうしたイメージの共有が出発点になっているのでしょうか。


正年 プロジェクトが同時にいくつも進行していると、建主は勿論違うし、敷地や予算などもそれぞれが異なる条件で設計することになります。でも、建物の大小や用途にかかわらず、設計を解く上での自分たちの姿勢はぶれないようにしたい。

プロジェクトによっては、条件が厳しく、なかなか答えが見つけられない事もあります。そういう時にこの絵を見て、「これが大事なんだよなぁ」って、自分たちの進むべき方向を確認します。


――迷ったら、このイメージにかえってくるんですね。他にもそうしたイメージはあるのでしょうか。
 
正年 最初にお見せした食卓の絵も、僕たちにとってすごく重要なイメージのひとつです。生活の中で一番大事なのは「食べること」だと思うんです( 笑)。食事は一人よりみんなでしたほうがいい。この絵みたいにこんなに多いとどうなるのかな、なんて考えながら。テーブルの上にたくさんご飯がのっていて、そこが少し照らされると、なんかいいですよね。

― 変わっていく役割

夕子 独立したての時は、ふたりで設計を考えるにしても、言葉で議論するだけでは分からなかった。でも実際に手で描いて見せることで、自分の持っているイメージをダイレクトに相手に伝えることができたんです。「それってこういうこと? じゃあ、こうかな」みたいな、そんなことばかりでした。


正年 当時はものをつくったことがなかったし、自分の頭の中を整理するときに模型や絵が必要で。自分で図面を引いても、とりあえずそのパースをおこしたりして、「ほんとに大丈夫かな」っていう確認作業をするためにも描いていました。


夕子 処女作「ファンタジアの家1」(1995) をやっていた頃は、スケッチをFAX でやり取りしていたのを覚えています。

 

正年 それが20 年くらい前かな。僕らが学生の時は磯崎新やピーター・アイゼンマン等、ポストモダンの建築家の勢いがあり、プレゼンテーションもすごいものがありました。でも表現技術はまだまだアナログだったから、結局は手で描かなくちゃいけない時代だったんです。だからみんな自分が納得する絵を描いてプレゼンテーションしていました。説得力のあるすごい絵で。そういう時代の中で、「僕たちも負けてられない、小さくてもこんなにパワーがあるんだ」って。建主を説得するという意味でもあったけれど、自分たちのモチベーションを上げるためにも、一生懸命に描いていましたね。


夕子 時間だけはあったからね。 


正年 でも、その時と今では描くことの意味も、スケッチの役割も少し変わってきたんじゃないかと思います。独立して15 年たって、一定のところまではスケッチしなくても、空間をある程度イメージできるようになったし、スケール感や光の扱い方も、だんだんとわかるようになってきたんです。そうすると、絵の役割も少し変わってきました。

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