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【リレーインタビュー】建築家 アタカケンタロウ

 建築から自由になること

​ 

聞き手 竹山、玉井、宮本、鈴木

記録 吉田、西尾、夏目、三浦、江川、森下、阿波野、杉村、鵜川、藤井、嶌岡、吉川

2013年7月2日 竹山研究室にて

建築家へのリレーインタビューとして、前号でインタビューした前田茂樹さんからご紹介いただき、建築プロジェクトだけでなく、パブリックアートやギャラリーでのアーティストとの共同個展、遠野での地域再生プロジェクトなど多岐にわたって活躍されるアタカケンタロウさんに、これまでの作品や現在進行中のプロジェクトも含めてレクチャーをしていただきながら、これからの社会で「建築家」に求められる職能、そしてその可能性についてお話を伺った。

写真11 狭山ひかり幼稚園

 

― 狭山ひかり幼稚園

アタカ これは狭山ひかり幼稚園という埼玉県狭山市につくった幼稚園で、実は僕の母校というか母園なんですけど、もともと建っていた幼稚園の建物が老朽化してきたので、創立40 周年記念で建て替えをすることになったものです(写真11)。もともと建っていた幼稚園は、同じ大きさの教室が並んでいて、それを北側の廊下が繋いで遊戯室があるといういわゆる普通の、集団教育に適したプランでした。そうすると子供にとっては自分の教室と廊下で繋がった遊戯室が園舎内の主な遊び場として認識されて、ほかの教室はほかの人の場所という感じになっていくんですね。でもこの幼稚園はそもそもあまり集団教育をしないで、園児が朝幼稚園に来るとカバンを置いてそのまま走り回って遊びに行っちゃって、場合によってはほかの先生のところで遊んでいたりするような感じで、子供が興味を持って考えた遊びを先生たちが少しサポートするというような方針のところなんです。だからどちらかというと園舎内は園舎全体が遊び場になっていた方がこの幼稚園の普段の活動と合っているなという話になったんです。最初、園長先生は巨大なワンルームをつくってそこに全員いるのもいいなと過激なことを言っていたんですけど、先生たちは教室で帰りの会をするとかご飯を食べるとか、そういう時は子供が集中できる閉じた環境をつくりたいということを言っていました。そこで必要なときは独立した教室にもなるけれど、普段は全体が遊び場にもなるということをどう両立するかというのを考えてつくったのがこの案です。

写真12 教室から園庭をみる

写真13 「大通り」

アタカ 各教室はそれぞれ少しずつ違う形とか違う仕上げになっていて、園庭の方を見るとそれぞれの教室の特徴が現れてくるつくりになっています(写真12)。その教室の中を横断するように通りのような空間が教室をぶち抜いていて、それによって全体が繋がるというようにしています。通りは「大通り」と「こみち」という幅の違う通りが2 本あります。これは「大通り」の方で(写真13)、さっきの教室の特徴が表れている見え方と違って、色んな環境が先の方にずっと見えている街並みのような感じになっています。これは「こみち」の方です(写真14)。全然意図していなかったんですけど、この通りの幅が85cm くらいでちょうど子供が腕を突っ張るとそのまま上がっていける幅になっていてます。半年くらい経った時に幼稚園で一番運動能力の高い男の子がここの間を手と足を突っ張って一番上まで上がってみせてしまって、そうしたらほかの子たちも皆それに憧れちゃって、そんなに元気じゃなかった女の子まで皆上がれるようになってしまったらしいんです。先生たちは最初危険だという人たちと、面白いし子供が育つからいいって喜んでいる人たちとがいて、話し合いをした結果、先生たちが見てる前でだけマットを敷いてやってもいいということになりました。子供が手が届かないと思って書類を入れておく物入れにしていたところとか、小さな換気口がある教材庫にも子供が入って行くようになってしまっています。でもそれも面白いなと思っています。

写真14 「こみち」

 

竹山 壁に手の跡がついたりして面白いかもね。汚れるのが。

アタカ 外に素足で行って戻ってきた子がそのまま上るので足の跡も付くし、微笑ましいというか、それもいいなと。壁の間には建具が入っていて、建具を引くとそれぞれが教室として独立して使えます。それぞれの教室が何かやっているときは外のデッキを通って遊戯室まで行くことが出来ます。外観は以前の幼稚園の外観を踏襲しつつ、大屋根の下にいろいろな空間が抱え込まれているようにしました。園の中で子供たちがそれぞれ個性を発揮して遊びまくっているというのを外観が象徴していていいんじゃないかと。でもどちらかというと外観は後で決めています。設計のときは最初にプランや内部の構成のことを先行して考えていて、中央に遊戯室がきて一番天井が高くなっていて、そこから両端に天井が下がっていく、それを外観上はどのようにデザインに反映しようか、という順番で考えていました。外装はレッドシダーという木です。庇が全然出ていないんですけど、レッドシダーを使って湘南の海沿いの一番過酷な条件のところに住宅を建てているメーカーがあって、そのメーカーの一番古い住宅が40 年経っても一回も貼り替えていなかったんですね。庇が出ているものと出ていないものも見せてもらったんですけど、出ていると色が変わらないところと、変わっていくところがまだらになって汚らしくて、むしろ全部雨に濡れてしまうのがいいということで、こういう形になっています。構造は、屋根面が緩い勾配の屋根になっていて、それを支えるように下からトラスを組んだり方杖をつけたりしています。ただ好きな形を与えているわけではなくて、骨組みとの関係を考えながら、仕上げの対応を変えていくことでそれぞれの部屋の特徴を変えていくということをしています。ここの外構デザインもプランタゴの田瀬さんがやっています。建物を根伐りした土の量を計算してマウンドに使ったり、既存園舎の基礎のコンクリートガラを砕いて全部捨てずに場内で使いきるといったように、そこにあるものをできるだけ活かす方針でやっています。もちろんもともと生えていた樹木はほとんど残しています。その上で新しく植える植栽は、この地域に昔から生えている植物の中で実のなるものを選んで植えています。地域固有の植生というのはどんどん失われつつあるわけですが、ここからまたこの地域固有の植生である「武蔵野の雑木林」が広がっていく、そういう種になるような場所に敷地全体をしていくということを考えています。

― パブリックアート

写真15 『DROP』

アタカ これは『DROP』という作品で、パブリックアートのプロジェクトで初めて実現したものです(写真15)。大阪の千里中央駅の再開発でできた超高層マンションの足元で、文化センターとの間の細長い広場にあります。駅から千里ニュータウンへの動線にもなっていて人の行き来がすごく多いところに、パブリックアートでもありベンチでもあるようなものをつくって、人が滞留するような場をつくるというプロジェクトです。周りは超高層の建物なんですけど、敷地は地下一階で少し暗い場所にあります。そこで丸っこい水たまりのような形をした7台のベンチをつくって、天板をアクリルにして空の明るさを反射することで広場に明るさをつくり出すということをまずは考えました。そのうえで、たくさんの通り抜けていく人のための表現を何か考えようと思って、これはこの映像を見ると水の波紋がふわっと広がって消えていくというような模様が見えると思うんですけど、「歩いている人にだけ波紋が広がって見える」という天板をつくりました。これは絵葉書とかおまけのシールとかで、角度が変わると絵柄が変わるっていうものがあると思うんですが、それと同じレンチキュラーシートというものを使っています。絵葉書とかは裏から印刷した紙を貼ってつくっているんですけど、そうではなくてシートの裏に直接印刷することで透明感がある天板の中に模様が出てくるようなことができます。しかもシルクスクリーン用の鏡面インクという、樹脂板の裏側から印刷すると鏡面になるインクを使って印刷しているので、波紋の模様が鏡のようになっていて、空の色や木々の緑とかを受けて反射しています。プロジェクターとか液晶モニターを使ったデジタルな表現に一瞬見えるんだけど、そういう環境を反射するような鏡面の素材はデジタルでは再現できないものなので、少し不思議な物質感があるし、ちょっと不思議だなと思って立ち止まると波紋の動きも止まる。自分が動き出すと動く、戻ると戻ったりというようなかたちで何か驚きを与えるようなものになっています(写真16)。

写真16 波紋

玉井 パブリックアートと建築では意識的にアプローチを変えたりするということはあるのでしょうか。

 

アタカ 問題に取り組む姿勢としては多分ほかのアーティストの人に比べたら建築をやっているのと変わらないやり方で、つまりコンテクストと条件を聞いてそれをどう解決するかという建築的な姿勢でやっています。ただ建築を設計するときよりは、それ自体が図になってもいいと思っているのと、建築ではあまり1つのアイディアが建物を決定づけるかたちで出てこないようにしたいと言いましたけど、そういう意味でいくとパブリックアートの方は決定的な1個のアイディアでやっちゃってもオーケーということに自分の中でしているかもしれませんね。そこが違うくらいかな。

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