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【リレーインタビュー】建築家 アタカケンタロウ

 建築から自由になること

​ 

聞き手 竹山、玉井、宮本、鈴木

記録 吉田、西尾、夏目、三浦、江川、森下、阿波野、杉村、鵜川、藤井、嶌岡、吉川

2013年7月2日 竹山研究室にて

建築家へのリレーインタビューとして、前号でインタビューした前田茂樹さんからご紹介いただき、建築プロジェクトだけでなく、パブリックアートやギャラリーでのアーティストとの共同個展、遠野での地域再生プロジェクトなど多岐にわたって活躍されるアタカケンタロウさんに、これまでの作品や現在進行中のプロジェクトも含めてレクチャーをしていただきながら、これからの社会で「建築家」に求められる職能、そしてその可能性についてお話を伺った。

― タカハギハウス

アタカ 次はタカハギハウスという、僕にとっては2軒目の住宅です。これは成人した女性が3 人で住む住宅です。予算から考えていくと、個室をそれぞれが持って共有部もあってというような、いわゆる普通の住宅のプランを目指すと、3 人で一緒にいる共有部がかなり小さくなっちゃいます。いろいろインタビューしてみると、仕事から帰ってきたら3人が一緒にごろごろテレビを見たり、本を読んでいたり、食事を一緒にしたりしていて、それほどひとりぼっちになりたいという瞬間はなくて、どちらかというと3人で過ごしている方が長いということがわかりました。そこで、共有部を重視したようなプランにするにはどうしたらよいかと考えて、共有スペースと個室を一緒にしたような空間を3セットつくって、キッチンを加えてロの字型にするプランを提案しました。3人しかいないので、一人ずつがそれぞれの場所にいれば、それが全部個室だとも捉えられるし、2人以上が集まったら共有部だって言えるように、そのときの居方でプランの名前の付け方が変わっていきます。

このときはとにかく設計し始めの頃で、いろんなことを疑ってかかろうと思っていました。本当に直角な必要があるかどうかとか、コンセントとかスイッチのレベルを同じ高さにしていく必要があるのかとか、いろんなことをとにかく大きい模型をのぞいたり、現場に立ってみたりして、そこにいる人の視点でデザインするということをできるだけ優先してやって、建築を一から見直してみようと思っていました。プランを良く見るとコーナーが直角じゃないんですが、街を歩いてみると道も建物も直角で構成されていないことが結構多くて、集落とかもちょっと角が甘かったり角度が少し振れて建っていたりするのが居心地の良さに貢献しているんじゃないかと、そういうルーズさみたいなものを導入したいなと思っていました。

(左)写真1 天井

(右)写真2 リビング

あとはせっかく3つの共有部ができるので、それぞれ場所の差異をどういうふうにつくっていくかということで、天井の特徴のピークがそれぞれの場所の真ん中らへんにあって、そのまま次の変化につながっていくというようなことを考えました。特徴はあるけど、ひとつながりで、どこまでが特徴の範囲かは分からないという、そんな天井です(写真1)。全体は基本的に真っ白く塗って、壁・床・天井の分節を目立たなくしています。その上でいろいろな仕上げのスイッチやコンセントプレート、照明の吊り元、開口の枠、什器なんかを、場所ごとに関連性を持つようにレイアウトして、一歩進むごとに空間が特徴づけられていくような感じを目指しました。例えばリビングになっているところはコンセントプレートとか照明の吊り元とか、窓枠とかが全部木でできていて、小さな仕上げが集合してなんとなく木質な雰囲気になるということをしていました。壁の下側は、一段降りたところにラワン合板を張っているんですけど、境目にラインができちゃうとほかの小さい木の仕上げの存在感が薄くなってしまうので、グラデーションにして少しぼかそうかなと思って塗装を上からエアブラシで吹いています(写真2)。今の話をそのまま外観にして、彫刻のマケットみたいな感じになるように、壁も屋根も全部FRPで、防水兼外装にして白く塗っています。隣の家からみると庭の延長に不思議な地形が生まれている感じです(写真3)。

写真3 屋根

宮本 ディテールについては最終的にはどういうタイミングで考えたり決定したりするのでしょうか。

アタカ 重要なディテールや仕上げは工事の中でも後ろにずらせるだけずらして、最後は本当にそれを取り付ける直前まで考えていますね。模型でもずっと検討します。模型を1/ 20か1/ 30くらいでつくって、わりとリアルな仕上げをプリントして貼っていくと、出来たときのスケール感がほぼ想像できます。だからまずは模型で出来るだけシミュレーションをして、素材もどんどん張り替えていきながら、そこに立ったときのことを想像して、わからんなーとか、どうしようかなーとか、延々と悩みます。スイッチの位置とかも最初に図面に書いておくんですけど、最終的には実際に現場でコンセントのプレートとかスイッチとかインターホンとかを全部紙でつくって貼ってみながらあちこちから眺めて決めています。ただ小さい建物だと良かったんだけど、大きい建物だと大変で(笑)。


鈴木 大きい模型で考えるというのは実務で設計するようになってからですか。それとも学生時代からやっていたのでしょうか。


アタカ 実務を始めてからですね。とくにタカハギハウスをやったところから大きい模型をつくりだして、照明器具からスイッチプレートから全部つくりました。この頃はやたらと暇で、スタッフと2人でずーっと模型をつくったり仕上げの張り替えをして撮影したりしていました。「そこほんとに直角でいいの?」みたいなことをいちいち突っ込んでたんで全然設計が進みませんでしたね(笑)。大学の課題で設計する建物は、照明器具のレイアウトとかスイッチのレイアウトの話をしたりしたら多分先生に怒られるでしょう。やりたいことは1つに絞れとか。僕もそう言われて育ちました。でもそういうことも1回知らなかったことにしたら、実はもっといろんなところにデザインの可能性は満ち溢れているんじゃないかと。工事が始まってから新しいことを思いついてももう予算は決まっていて工務店にはやってもらえないことが多いから、自分たちでも施工するんですよ。卓球のラケットのラバーだけを買って来てそのツブツブの面に蛍光ピンクのアクリル絵具を塗って、版画みたいに押し付ける仕上げを開発してみたり(笑)。一度白く塗った上にこれをやると、網点のピンクの下地に白が見えてて、重ねた作業が視覚化されます。たとえば窓枠はいろいろな仕上げをしているんだけど、それもただ素材が替わっていくんじゃなくて、白い壁をくり抜いて違う中身が出てきたというところと、プラスターボードをはがしたら下の階層がもう1つ出てきたというような表現をしているところと、白い粘土を成形したように見えるところと。そのちょっとしたディテールの違いで、建物がどういうふうに構成されているのかとか、どういう順番で全体を組み立てていったかとかが読み取られていくから、単に表面の壁紙を変えているというのとはちょっと違う空間の現れ方や変化になるんじゃないかということを考えていました。

― シャノアール研修センター

(左)写真4 シャノアール研修センター

(右)写真5 アプローチ

アタカ これはシャノアールの研修センターという、千葉県市川市の、周りが倉庫と工場ばかりの埋立地につくった建物です(写真4)。シャノアールという喫茶チェーンの会社が高層ビルに本社を移すにあたって、本社ではできなくなるメニュー開発のテストキッチンやコーヒー豆の焙煎、店舗の営繕などの部門を集約した施設です。もともとコーヒー豆の焙煎工場を先代の社長がつくろうと思って買った広大な土地だったので、ゆったり平屋で建っていて、半分くらいは芝生や植栽になっています。前面の道路から正門を入ると正面に庭園を管理するための農作業小屋が見えます(写真5)。そこに向かって少しなだらかな坂を上っていくと、道が右に折れてそこに本体の建物が見えてくるというアプローチになっています。ここはもともとテニスコートだったんですけど、その舗装をはがしたアスファルトや、土の中から出てきたコンクリートのガラ、建物の基礎をつくるときに出た根伐土などは、全量を場外搬出しないで敷地内で使い切るように考えながらデザインをしています。外構デザインは、ランドスケープデザイナーのプランタゴの田瀬理夫さんという方がやっています。田瀬さんはもともとその場所にあるものをできるだけ捨てないで、あるいは外からなるべく持ち込まないでデザインを考える方です。植物も、普通ランドスケープデザインの人たちは園芸用の改良品種を使うんですけど、そういうものも使わないで、できるだけ在来のその地域に生えている植物を使って造園するということを30年くらい前からずっとやっています。周りは工場地帯で、緩勾配の家型をした建物が
たくさん建っていて、だいたい全部スケールアウトした大きな建物なんですが、ここでは全体を住宅スケールの小さなボリュームに分解して、なおかつ周りの建物のかたちを参照して、それらが集合したようなシルエットになっています。隣が鉄鋼の工場ですごく大きい音がするので、研修施設は周りに4 つコンクリートの棟を建てて、その真ん中に大きな屋根をかけて中心に穴をあけて中庭にするというような構成になっています。

(左)写真6 柱

(右)写真7 事務室

アタカ これは庭から歩いてきて建物の中に入ったところです(写真6)。中庭に面して、屋根を支える柱が12本建っているんですけど、この柱の色がこげ茶→茶→薄茶→白というふうにグラデーショ
ンになっています。一度に数本ずつしか見えないので、ほとんど気づかないぐらいの変化です。柱の周りにある家具とか壁とか建具とかの仕上げはそれぞれ近くにある柱の色を参照して決めています。だから一周していくと全体に連続はしているんだけど、インテリアとか家具の雰囲気は、徐々に、いつのまにか変わっていくというふうになっています。柱の色を周りの何に適応していくかというのも、それぞれの場所でちょっとずつ変えていて、必ず家具とか建具がその色になっていくということ
ではありません。例えばこれは一周してきた事務室のところで、柱の色は白に近くなっています。この部屋はコンクリートの打ち放しも、うっすら白くしていて、全体に白いもやがかかったような感じになっています(写真7)。

― ハスハウス

写真8 ハスハウス

アタカ これは東京の田端という場所につくった集合住宅です(写真8)。敷地がどちらかというと東西方向に長い形状なので、そちらに引きを取って、東西に抜けたトンネル状の空間を横に4列、縦に5層積んで20本つくっています。そのトンネルの1本に住んだり、1.5本に住んだり、2本に住んだりしてプランのバリエーションをつくるというような賃貸の集合住宅です。住民が変わるたびに全面塗り替えをするのは大変なので、コンクリートの打ち放しにできるところはできるだけそうしてほしいと言われたんですけど、天井や断熱をしている壁はプラスターボードを張って白く塗装をしていて、そのままやると天井や壁面の変わり目と仕上げの変わり目が一致してしまって、要素を組み合わせてつくっているように見えちゃうなと思いました。
そうするとコンクリートのボリュームからトンネルをくり抜いたような感じではなくなってしまうので、ここでもグラデーションの塗装をして、天井の白い塗装を少し壁の方に下げてきて、徐々に粗い白い点の集合に変わってコンクリートの地肌が見えてくるというふうに、境界をぼかしています(写真9)。5 階はオーナーの住宅です。ここは全体がルーズにつながった開放的な感じを目指していて、全てのスペースがリビングの延長のようなプランです。だから下の階とは構成が違うんですが、4 列のトンネルのデザインを援用するような仕上げを考えようと思って、建具の鏡面を家型に貼ってそれが反射しあって筒状に抜けているように見えるようにしたり(写真10)、シルクスクリーンの木目の版をつくって白い壁にボールトの形に刷ったりしています。表面的な操作で下階の骨格的な特徴と関連付けようとしています。

(左)写真1 天井

(右)写真2 リビング

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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18
2017.10 
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20
2020.01 
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2020.11 | 
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竹山研究室「オブジェ・アイコン・モニュメント」
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2021.11 | 
インタビュー:藤江和子
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山岸剛,後藤連平,
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ダニエル研究室
高野・大谷研究室
西山・谷研究室
布野修司, 古阪秀三, 竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究, 小見山陽介,大橋和貴, 大山亮, 山井駿, 林浩平
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