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【インタビュー】映画監督・石山友美

 境界なき群像の行方

聞き手=高野、嶌岡、キム、ハミルトン、田村、今村、岡崎、西尾
2015.7.20 神戸アートビレッジセンターにて

 

社会とは群像である。そして境界も存在しない。建築を学び、映画監督として活躍する石山友美氏。
建築と映画、いわば2 つのレンズから様々なものを捉えてきた彼女にとって、表象するべき対象とは何なのか。映画監督になった経緯から、監督作「だれも知らない建築のはなし」の制作・構成の過程を通して、「建築に何ができるのか」「社会とは誰か」を問う。

― 社会とのつながり方

―― 社会における建築家の役割というのは、映画の中でも大きなテーマになっていましたね。

石山 伊東さんと安藤さんが「社会に貢献しなきゃだめだ」っていうシーンがありましたが、わたしはそれは強迫観念みたいに感じたんです。もしそれを日本社会が要求しているんだとしたら、すごく貧しい社会だなと思っていて。その話をジェンクスにしたときに、「建築なんて小ちゃいんだぞ、建築ができることなんて何もない」と言われました。率直に溜飲が下がる思いがしました。世の中にはいろんな人がいるし、一人の力でなんとかなったら逆に怖いと思うんです。社会ってそんなに単純じゃないですよね。単に複数の個人が集まって形成される足し算の結果だけが「社会」ではないわけで。コミュニティとか、つながるとか簡単にいうけれど、簡単であるはずがないし、そもそも、それが「社会」にどう貢献しているのだろう?っていう疑問はある。あまりに「社会のために」という風潮が強くなりすぎると「社会なんてどうでもいい」って思う人がいても良いと思うくらい。ちゃんと考えてみた上でそう思うなら、ってことですけど。

―― 最近では「建てない建築」という考えもでてきました。

石山 社会に貢献せざるを得ない時代になって、それが必要なのはわかるけれど、一方でとんでもない建築が建つのを見てみたいという欲望もあると思うんです。それは天秤にかけることではないんですよ。建てない建築というのは今までのハコモノとしての建築に対しての一種のアンチで出てきているものだと思います。私はそういった動きを否定している訳ではありません。アンチとして出て来たものがこれから洗練されていき、今の時代に合った建築の生まれ方やプロセスの下で、それでも驚くような新しい建築を見てみたいと思っているのです。

―― これからも建築家は必要とされると思いますか。

石山 建築が滅びることは絶対にないので、そういう意味では建築家も必要ですよね。だから騒ぎ立てることはないのかな。ただ、その「在り方」は随分と変わっていくと思います。それこそ教育を変えてかなきゃいけないとか社会のシステムを変えてかなきゃいけないという話になるけれど、ジェンクスが言うように、自分はそこに市民の一人として参加したらいい、そんなに思い詰めなくていいんじゃないかなって思う。映画の中での伊東さんの「批評としての建築になんの意味があるのか…」という言葉もありましたが、あれは若い人は変に影響されちゃだめです(笑)。伊東さんのあの言葉は、伊東さんが歩まれて来た50 年くらいの日本社会、日本建築の歩みのなかで出てきた、とても深い意味のある言葉です。しかし、その背景を無視して、表面的な字面だけをとって「じゃあ批評するのやめよう」っていうのは全然違う。今回の映画は見る人によって驚くほど反応が違うんですけど、出演者のだれに寄って見るかで変わってくるんです。出演者みんなが違うことを言っているから、それぞれの言葉を真に受けて聞いていると絶対に破綻してしまう。そこは見る人に委ねていますし、わたし自身も明解な答えがあるわけではないです。でも、そういうズレの中に自分の答えが、答えっていうかヒントがあるのかな。それくらいの軽い感じで見てもらえればいいかなと思っています。歴史だってそれくらいのものだと思うし、絶対的なものってないですよね。

「だれも知らない建築のはなし」より©Tomomi Ishiyama

― 今、建築にできること

―― 今後撮りたいものはなんですか。

石山 やっぱり都市を撮ってみたいです。真っ正面から撮ったことがないので長いスパンでいつか撮りたいな。人間関係の中から都市が見えてくるものにしたいですね。でも酷いことを言ってしまえば、写す価値のある人って少ないと思うんですよ。そういう意味で今回の映画は、みんなそこにいるだけで魅力的だったから楽でした。全体の構成とか膨大な情報をどうまとめるのかというのは苦労もしましたが、基本的に、そこに映っているものが魅力的だったので。映画は、結局そこなんですよ。被写体が魅力的であれば、他がどんなヘタクソで未熟であっても、どうにか成立するんじゃないかと思います。こんなに言葉が豊富な人たちというのはあまりいないと思いますし、その言葉やしぐさ、表情の一つ一つが本当に魅力的なんですね。それはやっぱり社会的な責任をもって戦ってきた人たちだからこそだと思うんです。なんで磯崎さんは人が仕事がないっていう話を笑いながらでしゃべっているんだろうとか、アイゼンマンひどいこと言ってんなとか。それも含めてキャラクターなんですよね。

―― 今、建築にできることは何だと思いますか。

石山 私は建築業界から映画業界へ移ったけど、どちらも資本主義化されていて、最終的に一個人ができることってなんだろうという問いになるんです。答えはそんな簡単ではないし、誰に聞いてもそう言うと思うんですけど、これが答えですよっていうのは言えないですよね。でも、好奇心を持ってまずは何かをアウトプットすることが重要ですよね。例えば、皆さんがやっているこの雑誌だって、これからいろいろな展開が考えられるし、大きな可能性がありますよね。70 年代にはいろんな雑誌が
できたんです。『TAU』とか知ってますか? 4 冊ぐらいしか出てないんですけど、すごく面白くて。あと植田実さんがやっていた『都市住宅』っていう雑誌とか。ビジュアルも含めてすごくカッコイイんです。内容も重要ですが、どうにか人に読んでもらおうという努力と、成果が本当にすごい。機会があれば読んでほしいですね。

―― 他の分野にも開いていくことが大切なのですね。

石山 そうですね。色々な分野から吸収することって、必要って以上に、すごく楽しい事です。映画に携わっている今だからこそ、建築での教育というのはいろんなところに生きてくると感じています。「建築っていうのはイタリアでは花嫁修行だ」って磯崎さんが昔おっしゃっていたのですが、実際イタリアに行ってみると建築学科が巨大で、何千人もいるらしいんです。建築学科に所属していた学生が皆建築業界で働いていくわけではなくて、意外な職業の人も建築卒だったりしますし、映画監督からデザイン関係、革職人なんかもいたりします。幅広くインプットすれば、同じようにアウトプットできるってことですよね。建築という専門性の高い分野のなかでも、設計するプロセスから学ぶこと、社会との繫がりを見ること、いろいろな建築を見て体験すること、歴史から学べることもある。出演者たちの、巨匠というかスーパースターたちの言葉からも吸収できることはたくさんありますよね。若い人だったら「うるせえじじいだな」って思うかもしれないですけど(笑)。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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