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【インタビュー】映画監督・石山友美

 境界なき群像の行方

聞き手=高野、嶌岡、キム、ハミルトン、田村、今村、岡崎、西尾
2015.7.20 神戸アートビレッジセンターにて

 

社会とは群像である。そして境界も存在しない。建築を学び、映画監督として活躍する石山友美氏。
建築と映画、いわば2 つのレンズから様々なものを捉えてきた彼女にとって、表象するべき対象とは何なのか。映画監督になった経緯から、監督作「だれも知らない建築のはなし」の制作・構成の過程を通して、「建築に何ができるのか」「社会とは誰か」を問う。

― 建築から映画へ

―― 映画監督になられたきっかけを教えてください。

石山 もともと東京の日本女子大学で建築設計を学んでいたんです。女子大だったので工学部がなくて、家政学部の中にある住居学科に所属していました。建築を学ぶ事はとても楽しく、将来ずっと携わっていくんだろうと思いつつもそれがあまりに自然すぎて。心のどこかでもしかしたら違う何かがあるのではないか、という思いもあったんです。卒業してから磯崎新アトリエに就職したんですが、2年で辞めて、アメリカ留学を決めました。たまたまもらえた奨学金があって、それだったら行ってみようか、という軽い気持ちだったんです。

アメリカの建築学科では大量の本を読まされます。理論が占める割合がすごく大きいので、いくら設計がうまくてもそれをちゃんと説明できないと良い評価は貰えないし、どれくらいディスカッションに貢献したか、ということも評価に反映される。そ
れはすごく新鮮な気がしました。一方で、アカデミズムの構図は日本とほとんど同じで、やっぱり学閥というか派閥があって、どの建築家の弟子筋かというのは、とても重要なファクターであり続けてしまう。そこでちょっと違うなと思ってしまったんです。

アメリカではまずUC バークレーに行ったのですが、しばらくすると、近くのサンフランシスコやオークランドというバークレーの隣町でいろんな人に会ったり話を聞いたりする方が面白くなっていきました。バークレーという場所は1960 年代に公民権運動が起こったように、左翼的ですごくリベラルなところです。でも実際私が行った2004 年頃には、60 年代の命をかけるリベラルというより、特に大学関係者は裕福で、自分たちは安全地帯にいて、そこでワインを飲みながらリベラルであることを語ろう、みたいな風潮になっていました。本当にリベラルな事ってここでできるのか?という疑問と、建築のアカデミズムに対する反発が重なって、結局学校を辞めちゃったんですよ。この頃から建築ではなく、街の中で人間がどう生きているのかという社会学のようなものに興味が移り、ニューヨーク市立大学の都市デザイン学科に入りました。そこでのデヴィッド・ハーヴェイとかマーシャル・バーマンとか都市理論をやっている先生の授業がとても面白かったんです。なかでもジョアン・コプチェクという、スラヴォイ・ジジェクなどと一緒に映画の本を書いていた先生がいました。彼女の「都市と映画」という授業は、50 ~ 60 年代のアメリカのいわゆるB 級映画を見て、映画の中からどういう風に都市が描かれているのかを見ようというものでした。それが本当に刺激的で、映画から街を見ることで豊かな都市の情景みたいなのが立ち上がってくるんだな、見えてくるんだなというのを知ったんです。それがきっかけで映画にのめり込んで、その延長で自分も映画をつくってみたいなと思い始めました。

―― 映画の撮り方はどうやって学ばれたのですか。

石山 建築は、職業訓練がしっかりしていますよね。要は多くの大学に建築学科というものがあって、時代を経て洗練されてきたアカデミックなカリキュラムが相当浸透しているんです。
でも映画はまだ、そうじゃない。もちろん映画学科がある大学も多くなってきましたが、非常に新しい分野なので、確立されたカリキュラムがしっかり敷かれている訳ではありません。それに今はデジタルで撮影、編集ができるので、独学で学んだ後、個人的な広がりをベースに映画をつくっていく事も可能な時代になってきました。私の場合は、実際に映画をつくってみようと思ったときに一人じゃ出来ないので、一緒に撮る仲間、録音スタッフであったり照明スタッフをつかまえるために、夜間やっている映画の専門学校にまず行きました。

―― 映画として都市を写すことに関心があったのですか。

石山 もともと興味の矛先が建築から都市、都市から社会へと変わっていき、それらの表象の方法の一つとして、映画に可能性を感じたんです。都市とはなんなんだろうと考えたときに、突きつめると街並みではなくて人なんですよね、私にとっては。いろんな映画を観て、私が惹かれるのは、やはり人物が生き生きと描かれている映画です。登場人物を魅力的に表現するために空間を演出していくわけですが、場合によっては作家が意図せずに写り込んでしまった空間が逆に人物を魅力的なものにする場合も多々あることに気づいたのです。そこから、映画の観方も、自分が向かう方向性も、それまでと違うものになりました。

―― 「作家が意図せずに写り込んでしまった空間」とは具体的にどのようなものでしょうか。

石山 撮影スタジオでつくられてない、インディペンデント系のB 級映画だからこそ、作家が意識しないところで写り込んでくる都市の姿というのがあるんですよ。ハリウッドのような予算があるメジャーな映画であれば、ある一つの街並みぐらいならスタジオでつくれてしまいます。でも、B 級映画だとそれができなくて、実際の街で撮ることになります。すると、図らずとも見えてくる都市の姿が写っていることがあります。たとえば、授業で取り上げられていてすごく面白かったものに、フィルム・ノワールという50 年代頃のアメリカで多く作られていた、主に探偵が主人公の犯罪映画群がありました。都市犯罪というもの自体が都市化と密接に関係していて、そしてアメリカだからこそ不特定多数の人たちの中に人種、階級などの問題があって。そういうものがストーリーの中にも組まれているし、写り込んでくる実際の都市の姿からも同時に読み取れることで、全体的な描写が魅力的に見えてくるんです。

―― フラットに対象を写すということでしょうか。

石山 フラットに何かをみつめることが果たして可能なのか、という問いは別にありますが、意図的に感情移入を強制するような演出は観ていてシラけてしまうと思います。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2020.01 
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2020.11 | 
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布野修司, 古阪秀三, 竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究, 小見山陽介,大橋和貴, 大山亮, 山井駿, 林浩平
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