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【鼎談】 渡鳥ジョニー×市橋正太郎×柳沢究

        

 定住するノマド、揺れる境界

司会=宇野亜実、高橋温、野村祐司、若松晃平
2022.9.19 京都大学桂キャンパスにて

永田町で都市型バンライフを実践する渡鳥ジョニー氏、アドレスホッピングを提唱し自らも実践する市橋正太郎氏、彼らは非定住の暮らしを実践するノマドでありながら環境づくりにも積極的に取り組んでいる。これまで、ノマドという言葉は主に「現代の遊牧民」と訳され、定住生活と対置されてきた。しかし、そもそも定住と非定住の境界は曖昧なものなのではないだろうか。私たちのほとんどはライフステージに合わせて引っ越しをし、旅行にもいく。技術の進歩や社会の変化は私たちの暮らしや価値観までも変化させており、人間生活が本来含んでいる移動的要素を再考すべきではないか。今回、実際にノマドとして生活している御二方に加え、住経験の研究者で建築家でもある柳沢究准教授を交えて「定住と非定住の境界」というテーマで鼎談を行った。

写真見出し

 

  移動生活をヒントに建築について考える

渡鳥 移動というテーマにおいて建築界で議論が不足していると感じる領域があるか改めて聞きたいです。

柳沢 一つは先ほどちょっと触れましたけど、もう少し移動の頻度が少なくなった住み替えについてです。移動と定住は対立するものではないですけど、意外と明確に区別できるものでもないと思います。それなのに住宅を選ぶとなると、マンションは基本全部同じですし、選択肢が貧しい気がするんです。1人暮らしで言えば、例えば土間があって、庭があって、自然を満喫できるような環境で手頃なものって今はなかなかないですよね。そういった選択肢を増やすようなことが求められてるんだろうなと思っているんですけど、どうしたらいいかよくわからないですね。でもその点は移動生活にヒントがありそうな気がしています。

 

二つ目は、全く違う文化のところに移動しなければならないというときに、そこにどう馴染むかという問題です。例えば難民問題であったり、社会的に解決が求められているんですけど、建築についても答えが出せてないですね。そういう問題についてもバンライフだったり、ホッピングの話にヒントがあるかもしれないです。

渡鳥 僕は新しいテクノロジーをどう転用していくかというところに可能性があると思っています。新しいライフスタイルをつくるという視点で活動されている建築界隈の人はまだまだ少ないと思っています。建築の持つ力はそこにあるんじゃないかと思いますし、分野の境界にこだわらずにもっと外に出ていけばいいのにと思います。


市橋 まちや都市における体験自体の設計も建築の範疇になると思います。ずっとそこに住んでる人との出会いとか、コラボレーションの設計という観点においてのまちづくりは結構面白いと思います。最近面白いと思ったのが、京都で4ヶ月くらい一緒にシェアハウスをしていた香港出身のアーティストが、引っ越す時に日本の家は探しにくいと言っていたことです。そのなかで「Sayonara Kyoto」という外国人だけのFacebookコミュニティでは活発に情報交換がされていて、たまたまそこで家を募集したら、持ち家だけど使ってないから住まないかと融通してもらえたらしいんです。日本でもそういう特定のコミュニティの中で、柔軟なやりとりが行われる空間とか、建築物とかがもっとあっていいんじゃないかと思いました。それは別に海外の人だけじゃなくて、なんなら僕も使いたいし、かつ閉じたコミュニティじゃなくて、開かれたプラットホームであってもいいんじゃないかと思ったりもしています。そういう開かれた空間がまちの中にあると、そこが起点になって、新しいコミュニティが生まれたり、活動が生まれたりするんじゃないかなと期待しています。

柳沢 不動産屋さんに行かないと探せないのではなく、知り合い、友達の中で借りる、借りられるみたいな情報交換がもっとあるといいってことですね。

市橋 さすがに変な人が来るのは困りますが、ある程度価値観が共有できているコミュニティの中だったら大丈夫だと思うんですよね。そこでどう信頼を担保するかに課題がありそうな感じはしています。

 

  定住と非定住の境界

ーー本鼎談につきまして、境界という言葉を聞いて何を考えられたかを伺いたいです。

柳沢 今日鼎談をするまでは移動と定住の違いについて考えていたんですけど、話を聞いてみて、線をしっかり引くというよりは、そこは曖昧でもいいから、移動的な生活と定住的な生活を横断したり、行ったり来たりすることがすごく大事であるということに気づきました。移動する暮らしそのものがいいというよりも、今までと違う環境に身を置くことによって得られる発想だとか、あるいは移動したことによって得られる新しい人間関係や情報だとか、移動による行動の自由度の拡大だとか、そういうとこに価値があって、定住はそれを成熟させる環境なんだろうなと思いました。

 

そして今日の議論を通して、定住と非定住の両方があるのがいいんだっていうのがすごくよく分かりました。僕はてっきりお二人が移動生活派で私が定住派でという議論をしなければいけないのかと思っていたんですけど、意外に移動してたけどその頻度が結構ゆっくりになってきたりとか、実は移動したくなかったりとか、ライフステージによっても今は移動しなくてもいいかとかあるんですね。定住と非定住は対立するものではなく、行ったり来たりする関係なんだとあらためて認識しましたね。

渡鳥 選べるってことがいいですよね。

市橋 そもそも選択肢が無いのがおかしいという憤りから始めたことですからね。移動生活が好きなんでしょとか、家をもたないことがいいと思ってるんでしょって言われるんですけど、そうではなくて、暮らしに柔軟性をもつことが一番重要であって、そこさえ保てればどっちに振れようがいいんですね。今先生がおっしゃられたことと一緒でグラデーションが存在するので、定住と非定住のどちらかのポイントを選ぶのではなくて、その間のどのポイントをその時に選ぶかという考え方になればもう少し生きやすい世の中になると思っています。

柳沢 今日の話で、インドを訪れた時に知った、バラモン教の教えにある人生の4つの期間との関連性もあるのではないかと思いました。四住期と言って、一つ目は学生期。二つ目が家に入って子どもを作ったり、子どもを育てたり、財産を蓄えたりする家住期。三つ目がそういうしがらみから一切離れて林の中で自由に生きる林住期。最後が死ぬ前にフラフラする遊行期です。4つあるんですけど、移動する生活はその林住期に対応した生活スタイルに当たるのかもしれないと思いました。だから移動か定住かという選択じゃなくて、人生のある期間にそういう生活をするという面でもすごく意味があると思います。社会全体で見ると、社会全体に新しい知識持ってきたり、知識の循環を促したり、そういう風通しをよくする役割をおそらく果たしているんでしょうね。 

渡鳥 今日は定住と非定住の境界について話してきましたが、僕は何らかの境界は現れてくるものだと思っています。そもそも人間は言葉にしなければ物事を認識できません。ですので、今の移動とか定住といった既存の分け方ではなく、弁証法的に新しい領域みたいなものが出てくるんだと思います。

 

だからずっとふわっとした言葉でやってきたことがいつか何らかの形で定義されることになると思っています。遊牧から定住への移行とともに地面に固定された建築が人類史に生まれたとして、今また遊牧に戻ると考えたときにそのような建築はいらなくなるのかというと、そうはならないでしょうし、だからこそ新しい領域が定義されて発展していく可能性があるのだと思います。ライフスタイルで言えばそれはもしかしたら移動と定住を合わせる「動住」のような言葉で括られるのかもしれない。僕らはずっとそういった新しい領域を模索し続けてる実践者なだけなんです。

注釈 12pt(必要であれば)

インタビュイー紹介英語 15pt

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2017.10 
インタビュー:五十嵐淳
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2020.01 
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2020.11 | 
21
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平田研究室「建築が顔でみちるとき」
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2021.11 | 
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山岸剛,後藤連平,
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ダニエル研究室
高野・大谷研究室
西山・谷研究室
布野修司, 古阪秀三, 竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究, 小見山陽介,大橋和貴, 大山亮, 山井駿, 林浩平
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