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【インタビュー】 舞台芸術家・松井るみ

 フェイクが彩る世界 

聞き手=大須賀 嵩幸、岡崎 祐樹、加藤 慶、田原迫 はるか2016.6.15 

株式会社センターラインアソシエイツ 事務所にて

 

幼少のころから現在まで、一心に演劇という世界を探究してきた松井るみ氏。
数々の作品を手掛け、第一線で活躍する彼女にとっての舞台美術とは。
また、似て非なる存在である建築との間には、どのような可能性が眠っているのか。今後の展望について伺う。

― 舞台美術の図面表現

松井 これが舞台セットの平面図と断面図です。我々の図面の描き方って、建築の図面の描き方と違って独自のやり方があるから、建築の人が我々の図面を見るとよくわからないと言われてしまうことが多いんです。

岡崎 建築の図面に比べて情報が多いと思います。施工図に近いのではないでしょうか。

大須賀 この図面は、建築学生に見せたら反響が大きそうですね。舞台という空間に対する見方が変わると思います。

松井 なるほど。それは良いですね。

加藤 演劇に関わる方は、この図面を見ただけで3次元の空間を想像できるのでしょうか。

松井 人によりますね。舞台美術を仕事にしている人は想像がつくと思います。例えば、演出家はそれが得意な人と苦手な人に分かれますね。そのための模型です。誰もが同じレベルで理解できる、こんなに便利なツールはないと思います。初期の稽古では実際の舞台セットを使えるわけではないので、代わりに模型を見せて、役者の方に立ち位置を確認してもらうこともあります。
 

 
『8月の家族たち』 平面図(部分)
 
『8月の家族たち』 断面図(部分)

― テクスチャ-にこだわる

田原迫 舞台美術のデザインの中で、どのような工夫をしていますか。

松井 日常生活で使っているものは、いつも何でも使っています。ペットボトルみたいなものが、使い方によっては化けるんですよ。

加藤 僕たちも、模型を作る際には身近なものでうまく見せられないか、いろいろと挑戦します。

松井 建築模型って、白くてあっさりしているイメージがあるんです。そうでもないのでしょうか。

加藤 テイストによりますね。抽象的な表現がしたい場合は白模型を選ぶこともありますし、逆にジオラマのようにリアルに作り込むこともあります。舞台にはそういう使い分けがあるのでしょうか。

松井 完成模型は必ず着色しますね。テクスチャーにもすごくこだわります。


田原迫 建築でも、変わった素材を使った模型でスタディをすることはよくあります。例えば、最近では藤本壮介という建築家が、ペットボトルを潰したものやポテトチップスを重ねたものに人間の模型を置いてしまえば建築になるかもしれない、という提案をしました。舞台美術の世界では、そのようなことが模型ではなく実物大で起きているのですね。

岡崎 思考回路の方向が逆なのかもしれません。建築はイメージコンセプトからトップダウンでデザインされていていることが多いんですね。今のお話を聞いて、舞台美術ではテクスチャーからボトムアップしていくという印象を受けました。

松井 確かに我々は、色や肌触り、テクスチャーを先に考えるかもしれません。

田原迫 テクスチャーにこだわっているからこそ、空間に性格が色濃く出るのだと思います。下から上、上から下を何回も繰り返していけば、お互いにもっと面白いものが作れるのではないでしょうか。舞台美術の手法を何かしらの形で建築に取り入れてみたいですね。
 

 
『8月の家族たち』舞台模型

― 美しい嘘

田原迫 舞台美術と建築の違いをどのように考えていらっしゃいますか。

松井 一番の違いは、舞台美術では嘘をつけるというところにあると思います。吊物バトンというものが舞台の上にあって、大道具や小道具を吊り上げられるんです。『8月の家族たち』では、家の梁もバトンで吊っています。建築を空から吊るということはできませんよね。でも、我々はそこで嘘がつけるんです。バトンを使ってどのような空間を作ることができるか、いかにうまく嘘をつけるかが、知恵の見せどころですね。

大須賀 嘘をつけるということは、建築を設計する側からすると羨ましく思います。もし、建築で嘘をつくとすぐにニュースになってしまうので。建築は、しっかりと地面に接して、それだけで構造的に持たないといけないんです。一方で、舞台美術は、永久ではなく一瞬の美のように思えます。その儚さが空間の魅力を増幅させていて、例えるなら花火のようですね。
 

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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