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【インタビュー】 左官職人・奥田 信雄

         建築家・魚谷 繁礼

 伝統の境界を塗り替える

聞き手=潮田 紘樹、千田 記可、得能 孝生、原 泉
2017.6.19 奥田左官工業所にて 

京都で京壁を復元し再現することを一筋に追い求めている奥田信雄氏。
同じく京都で建築作品を数多く手がけている魚谷繁礼氏。
二人のこだわりや考えに迫り、いかにして手を取り合い空間をつくりあげていくべきかについて伺う。

― 技術を知る

潮田 様々な職業の方と関わることが多いと思いますが、技術を活かし魅力を伝えるために意識していることはありますか。

奥田 僕が最も大事だと思うことは、一つの仕事に関わっている職人さんが互いに配慮を欠かさないことです。設計者が図面に二寸五分の丸太の口径を描いたときに、寸法は合っていてもそれより細く見えるような柱をつくる大工もいます。お茶室の小間などは寸法よりも細く見える柱を使うからです。同じ寸法でも人や空間によって仕上がりは異なるということも計算に入れて工務店は大工を選ばないといけないと思います。工務店が職人の癖に配慮することも大切です。

魚谷 確かに設計者が職人を選ぶということはあまりないですね。僕も一緒に仕事をする左官屋さんのほとんどは工務店が選んだ方です。

奥田 昔は建築をつくっていく上で左官屋ももっと設計に関わっていたのですが、今は工務店が中心になっています。だから、左官屋としては与えられた費用の中で失敗のない仕事をしなければならないという状況でして、挑戦的で画期的な仕事というのはまず見られなくなりましたね。

 一つの仕事を進めていく中で制約が多くなるほど思い通りの仕事をするのは難しいように感じます。

奥田 大工の仕事をいかに引き立てるかが左官屋に求められる役割の一つなのですが、実はここが私たちの仕事の一番難しいところだと感じています。大工は図面を見て設計者のつくりたいイメージを汲んで、それに沿って建築を組み立てていきます。要するに、大工がつくった建築をうまく活かすということが、設計者が考える空間をつくっていくことに繋がります。私たち左官屋が様々な要望を持って細部の設計にまで指示するようなことがあれば、その仕事が成り立たなくなります。僕は土壁をまっすぐ塗る技術を磨いてきましたが、自分の思うように塗れば良いということは決してないのです。設計者によっては少し丸みを帯びた壁を要求することもあります。それでもやはり、左官屋が口を出す前に、設計者の意図に沿って仕上げることが大事なのです。そのためにも大工の技術をいかに美しく、間違いのないように見せてあげるかということが私たちの最大のテーマだと思っています。

魚谷 自分の思うように塗ってくれと言われても左官屋からしたらそれはそれで困るわけですね。設計者は多分土壁をまっすぐ塗ることの苦労を知らずに、まっすぐなのは当たり前だと思っているところがあるかもしれません。だからこそ、そのような曲がった壁を要求し、奥田さんの持つ優れた技術をあまり理解できていないのかもしれません。漆も元は平滑にツヤを出す技術ですが、上手すぎるとラッカーのようになってしまうので、少しムラがあった方が手仕事っぽくて良いという人もいますね。

奥田 設計者が求めるような丸みの帯びた壁を塗っていたこともあったのですが、今では土壁をまっすぐムラなく塗る技術が一番大事だと思って日頃から努力していて、嬉しいことに同業者などからその技術を評価していただいています。今となっては、自分の中では、よりまっすぐに塗った壁こそが美しく大事であると確信しているので、その信念がぶれることはありません。設計者の意図を汲みながらも自分の中で信念を持つことは大事だと思います。
 
魚谷 京都の左官屋が素晴らしい仕事をされているのは、そのような信念を持っているからでしょうね。他の地域では必ずしも京都のように上手く土壁や漆喰を塗ってくれるわけではありません。地域によっては土壁や漆喰を塗れる左官屋さんを工務店に探してもらうことから始めなければならないこともあります。

奥田 そうなってしまったのは、左官屋が少ないということもありますが、一番の要因は、左官屋のアピールができていないからだと思いますね。昔は家の壁の仕上げを左官屋にしてもらうことも珍しくなかったのですが、今では大半がクロス貼りで、左官屋が一般住宅の壁の仕上げを任されることがなくなってしまいました。そのような状況の中で、僕らも先輩方も左官屋の技術をアピールしてきませんでした。これが大きな要因ですね。京都以外の地域では土壁というと土が塗ってあれば良いのですが、京都では土壁の質を求められるので左官屋個人の本来の技術が試されます。だから、京都では他の職人よりいかに自分が優れているかを示すことに努力を費やしてきました。切磋琢磨する環境が京都の土壁の技術進歩につながったのかもしれませんね。ある意味恵まれた京都の環境で向上した技術を認知してもらうためにも自分を示すということが大切です。左官屋を理解していただけるかは、いかに自分の技術に自信を持ちそれを示すことができるかにかかっています。

― 自分を持つ

潮田 今後、我々学生が設計を考えていく際、大事なことは何だと思いますか。

魚谷 建築は材料があって初めて出来上がるものなので当然材料を知らないと設計できないのですが、難しいことは実務をしながら覚えていったら良いのかもしれません。それよりも、そういった伝統的な材料や技術によりつくられた空間に数多く触れることが大事だと思います。幸いそのような建築が京都にはたくさんあります。

奥田 職人になる人は頑固であるべきだと思います。僕がやってきたことは、最も優れた性能を有した明治末期の土壁を京壁のスタイルとして復元し、再現することです。何か新しいものを編み出す力がとても大事な仕事をしていながら、そのような創造性は僕に欠けていました。それでも左官を50年続けることができたのは、強い気持ちがあったからだと思います。自分の信念を曲げないでほしいです。

― 左官屋と建築家のこれから

 左官屋と建築家という職業の今後について、お互いどのような期待をされていますか。

奥田 僕は京都で左官屋をしているからこそ、京壁の基本をもっと勉強したいと考えている全国の左官屋のために、勉強の場を提供することを怠ってはいけないと思っています。土に使われる防腐剤の変化や藁の変化や、それによる土壁の味わいをしっかり勉強できる場を設けることが、京都で京壁を塗っている我々の役割だと思います。土壁を勉強するのなら京都に来ていただきたいですね。

魚谷 今後そのように左官という職業が広く認知されていくためにも、まずはそのような技術を将来にわたって残していく必要があります。しかし、ただ残すといってもその残し方が重要です。伝統的な技術は今では特殊なものと考えられていますが、現在僕が使っている土壁や漆喰などは身近なもののように感じています。特殊なものとしてではなく、もう少し当たり前のものとして認識されて残っていってほしいですね。そういった伝統的なものを残していく上で、奥田さんのようなトップランナーの方は絶対に必要だと思います。だからといって、左官の世界を敷居の高いものとするのではなく、むしろ誰もが気軽に楽しめるものであっても良いのではないでしょうか。トップを走り伝統を守り抜いている世界と、気軽に楽しんで土壁を塗る世界とが上手く繋がればすばらしいと思っています。例えば、サッカーではJリーグのようなプロの世界がありますが、子どもたちが遊びとして楽しむこともできます。このように、特殊な世界ではなく、誰でも楽しむことができる世界があって、奥田さんにはその中でのトップランナーでいてほしいですね。そして、ただ昔の技術を残すだけではなく、新しい技術を皆と一緒に築き上げていく存在であってほしいと思います。

潮田 我々学生としても、やはり伝統的なものに関わるのは緊張しますし、敷居が高いと感じます。そのような伝統的な世界を当たり前のものとして残していくために、建築家が果たすべき役割はあるでしょうか。

魚谷 僕も敷居が高いと思っていました。しかし、実はそうでもないのかもしれません。設計者は敷居が高いと言わずに、もっとそういった伝統的な世界に触れたら良いのかもしれないですね。そして興味を持てばもっと勉強すればいい。それは建築家に限らず君たち学生にも言えることだと思います。伝統技術の世界では勉強不足だと門前払いされるような雰囲気が漂っていて、それが少なからず現代の若い人を伝統嫌いにさせている要因だと思います。難しいことはよく分からないけれど、とりあえずやってみようと思えると良いですね。

奥田 そのためには、今後の後進の育成にも気を配らないといけないと思いますね。実は左官業界の中でも半年で一人前の左官屋として世の中へ送り出そうという動きがあります。そのような考えもあると思いますが、一人前の職人になるには最低15年はかかります。さらに良い評価をもらうためには20年は努力しないといけないと思います。そのような修行に耐えることができる我慢強さがあるかないかを判断していくことは大事ですね。同じ職人を育てるという意味でも左官屋と建築家は全然違いますね。僕がよく知っている工務店では最初の5年間は掃除ばっかりするらしいです。しかし、その間に大工が仕事をしているのを自分で見て勉強するんですね。技術を一から教えるのではなく、職人がどのように仕事に取り組んでいるのかを見て勉強することがものづくりの世界の中で大事なことでもあります。
 
 職人の世界ではやはり厳しい修行の期間は必要ですよね。そのような修行を重ねて左官屋は技術を身につけると思いますが、その技術を活かすためにも建築家はどうあるべきでしょうか。

奥田 私たち左官屋の仕事を正当に評価してくださる方が増えることを期待しますね。そのような方と一緒に仕事をしているとやりがいがあります。

魚谷 僕が左官屋の仕事を正当に評価をするためには、まだ経験不足ですね。僕が仕事を始めてすぐの頃は、もろもろの都合でクロスしか使えなかったり、自分でペンキを塗ったりしていたこともありました。そこから塗装が使えるようになって、最近になってようやく漆喰や土壁をという選択肢を知った。それでようやく漆喰や土壁にも様々な種類があることが分かってきました。そうなるといつかは奥田さんのような技術を持った方に仕事をしてもらいたいと思いますし、単に依頼するだけではなく、自分のつくりたい壁のイメージをしっかり共有してもらって塗ってもらえるようになりたいと思いますね。こういった様々な段階を楽しめるのも京都で仕事をすることの面白さだと感じています。

奥田 そうですよね。町家の改修現場などをよく見かけますが、土壁ではなくペンキなどで仕上げていることもあります。あまり良いとは思えないですね。やはり土壁の文化を勉強してそれを考慮して改修するべきだと思います。それに対し、私たち左官屋も常に舞台に上がって仕事をしていて、全て見られているという意識を持って取り組まないといけません。そういった意識のもとで丁寧に仕事をして、お客さんにその丁寧さを理解していただけるようにアピールしないと評価につながりません。職人ではなく、ある意味営業マンにならないといけないときもありますね。

魚谷 自分の仕事の良さをわかっていただくことが必要なのは建築家も職人さんも皆同じですね。伝統技術に関しては、今では自分の仕事の良さをしっかり伝えている人があまりいなくて、古い物が良い、自然素材だから良い、というような思考停止したような魅力の伝え方になってしまっているように感じます。そうではなくて、伝統とか自然とかに頼らず、純粋にものそのものの良さをアピールしてもいいのではないかと思います。

奥田 その通りですね。一番の理想は、魚谷先生のような立場の方に、仕事をしている中で職人を発掘していただいて、その方を表舞台へ上げていただくことだと思います。若くて熱心な方はたくさんいますのでそういった方に仕事の機会を与えていただきたいですね。現場で優秀な技術者や優れた材料がどんどん少なくなっている現状では、それが必要不可欠だと感じます。また、建築家の人には怖がらずにもっと土壁を使っていただいて、様々な職人を見てほしいです。そして土壁が過去の仕事にならないように我々左官屋も努力していきたいと思います。

潮田 左官屋と建築家がお互いにどのように手を取り合うべきか、そして今後どのような将来を思い描いているかを聞くことができ、とても興味深かったです。ありがとうございました。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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