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潮田 現代では、真っ白な壁で仕上げている建築を目にすることが多いですが、白い壁と土壁に共通点はあると思いますか。

魚谷 現代建築においては、白い壁で抽象的に仕上げ、おさまりにおいてどれだけ線を少なくできるかが重視されることが多いですね。それにより、例えば開口部を大きくとって景色を見せながら、その開口部とその周囲の壁とが対立することなく調和するようにします。おそらく、それと同じようなことが真壁と土壁で構成される建築にもあるような気がします。

 実際には土壁のどのようなところに現れているのでしょうか。

魚谷 『陰翳礼讃』註1のような話になりますが、明るい空間よりも暗い空間の方が魅力を放っていることがあります。そのような暗い空間をつくろうと思ったときに、塗装で暗い色を塗ると少しわざとらしい感じがしますが、土壁を使うと自然な仕上がりになります。白い空間をつくる際も、ペンキのローラーの跡があるよりは鏝の手の跡があったり少しムラがあったりする方が自然で味わいがあるのではないかと思います。土壁や漆喰を伝統的なものにとどめず、現代建築にも応用していけばもっと魅力的な空間ができるのではないでしょうか。

潮田 現代建築というと鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築を思い浮かべるのですが、木造以外の構造にも土壁を使うことはできるのですか。

奥田 今では鉄筋コンクリートでできた茶室などでよく見かけますが、実はそのような構造の方が丈夫な土壁ができるというメリットがあります。鉄筋コンクリートなどの構造では水分が多く籠って土が乾きにくくなります。乾きにくくなればなるほど丈夫な土壁ができるのです。しかし、乾くのに時間がかかればその分色上がりがよくありません。その仕事を早く仕上げなくてはならないときは扇風機や除湿器を使うこともあります。そこのバランスをコントロールするのが難しく、そのような構造体に土壁を塗るのは慣れが必要になりますね。

 

【インタビュー】 左官職人・奥田 信雄

         建築家・魚谷 繁礼

 伝統の境界を塗り替える

京都で京壁を復元し再現することを一筋に追い求めている奥田信雄氏。
同じく京都で建築作品を数多く手がけている魚谷繁礼氏。
二人のこだわりや考えに迫り、いかにして手を取り合い空間をつくりあげていくべきかについて伺う。

聞き手=潮田 紘樹、千田 記可、得能 孝生、原 泉
2017.6.19 奥田左官工業所にて 

― 現代建築における土壁の可能性

奥田左官工業所にある試行錯誤を重ねたたくさんのサンプル
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― 京都の魅力

西都教会内外観。
上部の窓から礼拝堂に光を取り込む。
イタリアのスタッコを使用した礼拝堂内部
京都のグリッド状の街区形成

 長い間京都で仕事をされていますが、京都の魅力はどこにあるとお考えですか。

魚谷 僕は碁盤目状に生成された街路街区に京都の魅力があると思っています。京都の街区は正方形や長方形の形をしていて、町家が通りに面して建てられたため、街区中央部には余った土地ができます。その土地を庭などに活用したり、街区の中央へのアプローチのために路地が挿入されました。このような土地をどう扱い、都市をどう良くしていけるかを考えた上で、建築をつくることにとてもやりがいを感じています。

奥田 僕が思う魅力は、町家の空間と京都の人々の色彩感覚です。京都の町家空間には人間が本来感じる安らぎがあるようです。というのも、人類の最初の安住の地はほら穴の中で、周囲を土で覆い動物に危害を加えられないようにしていました。土で囲われた洞窟の中は人間にある安らぎを与えていて、土壁で囲われた町家空間はその雰囲気と似ているのだと思いますね。また、そうした美しい空間で暮らすことで京都の人々は色彩感覚を磨き上げてきました。これも京都の魅力の一つで、壁の色や聚楽土の色、また伝統的な染色技術などの発展に繋がりました。

魚谷 そのような伝統的な技術をもった職人さんと仕事ができるのも京都の魅力に感じます。京都では自分が意図している空間に対して材料や職人、大工がしっかり応えてくれます。ずっと京都で仕事をしているとそれが普通に感じてなかなか気付かなかったりもするのですが、他の地域で仕事をしてみてはじめて実感することもあります。


奥田 その通りだと思います。でも、魚谷先生のような設計者の立場から職人や大工にしっかり仕事を任せていかないと、技術が衰えてしまい、そのような魅力は引き継がれません。

魚谷 確かにそうですね。今は良くてもいつまでこの魅力が続くかわかりません。重要文化財の修復やお茶の世界からの需要があってどうにか引き継がれている気もします。

1)小説家、谷崎潤一郎の随筆。可能な限り部屋の中を明るくしていた西洋の文化に対して、日本ではむしろ陰翳を認め、その中でこそ、日本の美意識、美学が現れ、芸術が生み出されると主張した。

潮田 今までで一番思い入れがあるのはどのような作品ですか。

奥田 実は宗教関係の建物が多いですね。そのような仕事は多くの信者さんの願いや思いがあります。なので、それにしっかり答えようと思うと、使いたい材料や実現させたい質感が頭に浮かんできます。それを実現できる機会にもなるからですね。

 予算内に収めるために妥協されたことはありますか。

奥田 それはありません。妥協したら作品として成り立ちません。おかげで経済状況は良くないですね。でも、そのような問題を考えずに仕事をしようと意識しています。その方が集中できて最高の作品づくりに繋がっていると思います。集中できる環境があるかはやはり重要ですね。さらには、ある程度自分の技術を維持できるくらいに仕事をして、その中で反省する時間をしっかり設けて、次に臨むというのが一番良いですね。仕事をするたびに毎回反省会をしています。帳面などに現場名や仕事内容などを全部残すようにしています。試行錯誤は欠かせません。

魚谷 僕は西都教会における光の計画に思い入れがありますね。礼拝堂からは窓が見えないのですが、光だけが入ってくるように設計しました。壁はツヤがあまり無いように見せながら、実は光をよく反射させるにはどのような素材を使えばよいか試行錯誤を重ねましたね。様々な漆喰を取り寄せて、設計意図に合った素材を選ぼうとしたのですが、漆喰の種類の多さに驚きました。

奥田 本当にたくさんありますよね。どのような漆喰をお選びになったのですか。

魚谷 そのときは、イタリアのスタッコ註2を使いました。大理石を含んでいて見た目はそれほどツヤがないけれど、一番理想的に光をよく反射していたので。実際、この教会の壁を横から見るとじんわり光を反射しているのがわかります。そして夕焼けのときはその壁どうしが夕日を繰り返し反射させ、堂全体がほのかに赤く染まります。このように素材の特性を十分に活かした設計をしようとサンプルをたくさん集めて選んでいますが、左官屋と協力して欲しい質感の仕上げを一緒につくったりしていけたら面白いですね。そうすると設計の幅も本当に広がりますね。

― 作品をつくり上げるために

2)化粧しっくいとも呼ばれる、骨材、結合材、水からなる建築材料で、壁や天井の表面仕上げとして塗ったり、装飾としても使う。基本的に屋内に使うものを漆喰(プラスター)、屋外に使うものを化粧しっくい(スタッコ)と呼ぶ。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
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2017.10 | 112p
インタビュー:五十嵐淳
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
インタビュー:野又穫
2016.10 | 128p
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
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16
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中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
2015.10 | 96p
インタビュー:石山友美
14
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2013.10 | 120p
特集:アートと空間
松井冬子,井村優三,豊田郁美,
アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
​竹山聖,布野修司,小室舞,
中井茂樹