【インタビュー】 写真家・ホンマタカシ

 ニュートラルな写真 

All photos by T akashi Homma
聞き手= 大西、西尾、嶌岡 2014.7.18 

o+h の事務所にて

 

確かな視点によってとらえられた写真がともすれば見過ごされてしまいそうなのは、誰もが探したくなる密かな魅力の気づきに満ちてなお、そこにある空間の誠実な記録だからではないだろうか。人、建築、環境、すべてをフラットに写しながら、それらに境界などないことを教えてくれるホンマタカシの写真、その後ろ側にある一貫した姿勢とは。建築家・大西麻貴とともに伺う。

《倉敷市庁舎 講堂 、丹下健三》 2013 年

― 変容する写真

――竣工写真のような既存のイメージに影響されることはある
のでしょうか。


ホンマ 竣工写真みたいなものは僕にとっては単なる資料で、特に影響は受けることはありません。建築家の意図どおりに撮る竣工写真を撮っている人たちって本当に真面目でいい人たちだなって思います(笑)。
それでも『新建築』が何周年かで写真展か何かやりたいから「アーカイブを見て相談にのってくれ」と頼まれて見に行ったんですけど、たとえばオリンピックのころまで遡ると、空撮とかもあって結構面白いと思いました。当時はつまらない竣工写真だったのかもしれないけど、まわりの環境が写っていて、それが今とは全然変わっているんです。そういう写真の変容ということもあるから、やっぱり撮っておいた方がいいのかなとも思います。


大西 ガウディが亡くなったときのサグラダ・ファミリアの写真が残っていて、それはまわりに何もたってなくて、塔が三本くらいだけあるんです。今のサグラダ・ファミリアを見るとまわりがバルセロナの街になっているから、全然違っていて、すごくびっくりしました。あれだけ長い期間建設していると、まわりが変わってしまうんですね。

― 写真でしかできないこと

《広島平和記念資料館 、丹下健三》 2013 年

ホンマ 建築を撮るときは、一つにはまわりの環境を含めた風景として撮りたいということ。そして空間の話で言うと、自分が気持ちいいなと思うところを写真にしたいと思っています。
説明するのは『新建築』の人にお願いしておいて。
現代建築を撮るようになった最初のころに、建築家と一緒には行かないほうがいいんだなと気づきました。その建築のことを全部説明してくれるから。少なくとも僕が撮る場合は彼らの意図とは関係なく自分がいいと思ったところを撮る。それこそデジカメで誰でも撮れるわけですから、僕がその上からまた撮る必要はないですよね。
建築家の意図した空間のよさに共感できないわけではないです。ある種のねらいがあって建築をつくっているわけですから。もちろん説明を聞いてなるほど、と思うけれど、でもそれを写真で可視化するのって難しいんですよね。だから写真は写真独自のよさを使った方がいいと思う。


――「写真独自のよさ」とはどういうことなのでしょうか。


ホンマ あくまで建築は三次元で、写真は二次元だから、その中で建築家が思ったことを一発で写しこむっていうのはやっぱり難しい。それよりちょっとした部分でも、「すごくかっこいいな、かわいいな」と思う部分だけを撮って残りの全体は想像してもらったらいいんじゃないかって、僕は思うんです。


大西 ホンマさんの本『たのしい写真―よい子のための写真教室』(2009) を読んだ時に、「写真でしかできないこと」とか、ある技術があってそれでしかできないことみたいなことが形として表現されたときに、写真が変わっていっているのかなという感じがしました。建築の場合も、ふつうに建築をつくってもなんとなくできてくるんですけど、建築でしかできないことってなんだろうって考えて、それが形になってあらわれるときに変わっていくのかな。モダニズムがでてきたときもそうだと思うんです。


ホンマ 「自生性」のことを言うと、建築もそういったことってあると思っているんです。僕はいま吉村順三さんが設計した集合住宅に住んでいるんですが、メゾネット式になっていて階段をトントンと上がっていくと、そのコーナーの上に、1m 角くらい四角いトップライトがあるんです。それってもちろん採光のために作ったと思うんだけど、階段あがって暗いと嫌だから。でも僕がそこに住んですごくいいなと思ったのは、雨の日なんですけど、そこのトップライトのところだけに雨の雫の音が聴こえるんです。それがすごくきれいな音で。でもたぶんそのことは吉村さんも気づいてなかったと思う。当たり前のことだけど、建築って行ってちらっと見ただけじゃわからないですよね。何度も何度も見ないとわからない。もっというと住まないと分からないですよね。
そういう建築家の気がつかないところで建築が自生していくようなこととか、勝手によさが内蔵されていたりするとか、それを発見することが僕みたいな写真家の仕事なんじゃないかと思っています。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2018.10 | 112p
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インタビュー:米沢隆
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