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【インタビュー】 写真家・ホンマタカシ

 ニュートラルな写真 

All photos by T akashi Homma
聞き手= 大西、西尾、嶌岡 2014.7.18 

o+h の事務所にて

 

確かな視点によってとらえられた写真がともすれば見過ごされてしまいそうなのは、誰もが探したくなる密かな魅力の気づきに満ちてなお、そこにある空間の誠実な記録だからではないだろうか。人、建築、環境、すべてをフラットに写しながら、それらに境界などないことを教えてくれるホンマタカシの写真、その後ろ側にある一貫した姿勢とは。建築家・大西麻貴とともに伺う。

《ペトロルステーション 、アルネ・ヤコブセン》 2002年

― 循環する制作

――建築を撮ることから他の制作に影響してきたことはあるのでしょうか。


ホンマ 写真って何でも撮れるというわりには、細分化しているんです。建築写真とか、料理の写真、ファッション写真、航空写真みたいに。僕はそれはナンセンスだと思っています。建築やり始めたときからモデルの子や子供とかをわざと入れて撮ったりして、建築を撮ることと他のことを混ぜていきたいんです。


大西 建築を撮っているのか、まわりの風景を撮っているのかがわからないみたいに見えますよね。


ホンマ それはすごく意識しています。有名な建築から何が見えるか、反対から撮るというのも僕の中でのコンセプトとしてありますし、塚本さんや貝島さんと話している中で、一つの建築をズームバックしてみる、まわりの環境まで考えてみる、ということにすごく影響を受けました。彼らに教えてもらって、今でも僕の学生とかにも言うのは、「観察と定着」ということです。いろいろリサーチや勉強をして、ものをつくる。大体そこで終わってしまうのがふつうだと思うんですが、それを循環さ
せる。ものをつくった後に、また考えてリサーチしてまたつくる。一連の作業を循環させてやっていくと写真もすごくよくなるんです。
たとえば僕の学生で養護施設をずっと撮っている子がいるんです。その子は大学で写真ではなくて、社会学や介護とか養護施設のことを勉強した人なんですが、それで写真を撮り始めて、またより社会のことを調べたりする。そうするとまたいい写真が撮れるようになる。それがどんどん雪だるまのようになっていくといいなと思っています。自分自身もちょこちょこ教えているんですけど、全部が自分自身のリサーチというか、自分の役に立つような講義の内容にしています。だから僕の中から一方的に何かだして、自分が消耗して終わりみたいにならないように、必ず僕も何かを受け取れるようにしているんです。

― 「建築写真」にないもの

――ホンマさんの建築写真にはどこかリアリティを感じます。


ホンマ それは僕がずるい立場にいるってことだと思います。『新建築』のような既存の竣工写真があるから僕の写真が違ってよく見えるというか。


大西 建築を作っていると、なんとかして敷地境界を超えたいっていうか、与えられた境界の中で切り分けて建築を考えるのではなくて、もっとそれがなかったらどう作るんだろうか?ってことを考えてみたいんです。ホンマさんの写真にはそもそもそうじゃないものが写っているっていうか、超えていると感じます。


ホンマ 「丹下健三 伝統と創造 瀬戸内から世界へ」( 香川県立ミュージアム、2013 年) のときに過去の丹下さんの写真も結構みましたけど、いい写真あんまりなかったですね。工事中の写真や石元泰博さんの写真で何点かいいのはありましたけど、あとは本当に撮らされていて、あまりよくなかった。

僕は最初からコールハースの『ジェネリック・シティ』なんです。それって建築のことを考えているんだけど、それこそ荒木さんのまちの写真が入っていたりとか、つくる過程みたいなことや存在する理由、その周辺みたいなことが他の写真で入っているんですよ。だから僕が考えるのは、ある一つの建築のカタログみたいなのをつくることになったとすると、竣工写真があってもいいんだけど、そのまわりの風景写真が同じ分くらい入っていても、いいんじゃないかなと思うんです。そういうことってされないじゃないですか。でも僕は基本的にそういったところからアプローチしているんです。


――竣工写真のような写真が建築を高めてきた流れの中で、そこにないものをホンマさんの写真ははっと気づかせてくれるのかなと思うのですが。


ホンマ そう言ってくれると嬉しいけど、やっぱり最初からずるしているんですよね。みんながやってきたところに出してる。でもそれはなんの世界にもあると思うんです。

たとえば同じ比較になりますけど、以前に雑誌で『あまちゃん』(2013 年) の能年玲奈さんを撮ったんです。女優とかタレントを撮るときってすごいんですよ。マネージャーとか編集者とかがたくさん来て、こう撮れ、ああ撮れって。「これは絶対だめ」とか、なぜかわかんないんだけど、「口の中見せちゃいけない」って。変に管理社会が行き届いているんです。だからたぶんほとんどのカメラマンは事務所に怒られないように撮ると思うんです。最初から萎縮しちゃったり、それか媚を売ったりして。でも僕はまったくそういうことは気にしません。能年さんを撮ったとき、ヘアメイクをし終わった担当の人がベッドに腰掛けていて、逃げられなかったから「写んないな」と思って座っていたんだけど、わざとその人の肩まで入れて、男の人がいるって感じさせるような写真を撮ったんです。それは事務所NG だったけど、編集者が頑張ってOK にしたんですよ。それが結果、評判がよくって。建築を撮るときもまったく同じことだと思っています。

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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