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【インタビュー】イムラアートギャラリー代表・井村優三

 文化と経済の交差点で

聞き手 鈴木・上村
記録  西尾

2013年6月26日イムラアートギャラリー京都にて

 

京都で若手アーティストを数多く手がけるイムラアートギャラリーをたずね、国内外の美術界で辣腕を振るう井村優三さんにお話を伺った。

― ジパング展について

井村 昨今の日本のアートシーンは、数十年前に比べたら断然盛り上がっていると思うのですが、それもアメリカの現代アートを押し上げてきた力の強さには到底及ばないと、私は考えています。アメリカは1950年ごろに国が芸術支援策をおこして、何十万点もの作品を何万人という作家から買い取って、支援したんです。国家がアートシーンを引っ張って文化をつくった。文化があるところは世界でも立ち位置が高くなるということをアメリカは分かっていたから、芸術に投資したんですね。対して日本では、文化的な活動と経済的な活動は分離しがちですよね。ですから、ギャラリーというものが文化と経済の両方を一手に担う存在であると、ギャラリスト達が自覚することで開ける地平もあるのではないかと、そういう意識は以前からもっていました。私が最初にジパング展を発案して、ミヅマさんと一緒にやりましょうって話になったときは、結構画期的だったんですよ。あれは学芸員などが一切入らずにギャラリストが開いた展覧会なのだけれど、ギャラリーでの個展のように絵を売ることを目的にしたものではありませんでしたからね。

― 「世界の中の日本」の芸術

鈴木 海外でのお仕事も多いかと思いますが、日本の外から見た日本の芸術についてのお考えを聞かせていただけますか。

井村 世界中の方が認識している日本美術というのは、中世、特に江戸期のものですね。例えば古伊万里や柿右衛門のものなんかは、東インド会社が輸出してヨーロッパに行き渡ったので。琳派、古伊万里、柿右衛門、蒔絵、印籠。そういったものは世界中の人が持ってる。しかし、近代がすっぽりと抜けている。平山郁夫や東山魁夷といった日本でおなじみの作家が世界では全く出回ってないんですね。それはなぜかといいますとね、横山大観とかが当時流行ってたときに、一番始めに美術を取り扱い始めた百貨店は高島屋さんなんだけど、百貨店が『海山十題』などの横山大観の美術品を売ったその売り上げはすべて国に収まったんです。成熟した国ではあり得ないことだけど、当時は国とアートというものが密着していたんですね。それに対して国は、「あなたは日本美術の発展に貢献してくださいましたので、国は文化勲章を授けましょう」と言うんです。「先日まで高額な価格がついていた絵を、文化勲章頂いたので更に高い価格、価値にしましょう」、「私は学長も歴任しましたので、お値段を上げさせていただきましょうか」と。
近代の日本はそういうドメスティックなシステムのなかで美術が回っていて、そんな習わしがずっと続いてました。バブルがはじけて、リーマンショックを経験して、国内の経済が行き詰まったときに日本はようやく気がつくんですね。美術品を買い支える人が国外には誰もいなかったことに。日本の一品を世界のオークションに出しても、海外の人からしてみたら、「誰これ?」「この作品はどんなコンテクストに乗っているの?」「日本人はまた花鳥風月なんて描いてるの?」ってね。そういう状況だから値段がつかなくて、売れずに終わっていきますよね。国内で勝手に価値を定めても、そんなことでは世界マーケットでは通用しない、ということに気がつき始めたというわけです。

今、私は、日本美術の近代の空洞をうめて、江戸期から現代アートまでを接続してみせることはできないだろうか、と考えているところです。2015年に開催される京都国際現代芸術祭「PARASOPHIA」でも、琳派から現代まで、ここにくれば日本美術のすべてが見える! という展覧会をやったらどうかと思っていました。世界のトップアーティストの作品を持ってくるのもいいけど、それには何十億ものお金がかかりますよね。だったら、まず自国にあるものを提示するべきで。その際に、過去のすばらしい作品と関連づけて琳派から現代アートにいたるまでの様々な作品を横並びに展示したらどうかと。そういったものが一同に介すためには、京都市が現代のものまで展示していける場所を持つことが必要不可欠です。土地が無いのであれば京都市立美術館の地下を掘る、とかしてね(笑)。大きな美術館が現代の作家の作品をきちんと収蔵しているということは、自国の文化や芸術を大切にしていることを世界にアピールすることにもなりますから。
昨年、オーストラリアのシドニーにあるニューサウスウェールズ州立美術館でのグループ展では、近代日本デザインのパイオニアとして広く認められている神坂雪佳を中心に、俵屋宗達や尾形光琳を初めとする17世紀から19世紀の琳派の画家達の作品が紹介され、神坂雪佳の展示セクションの次に琳派の流れを汲む現代の作家として、山本太郎くんの作品が紹介されました。再来年2015年は琳派400年の年です。日本ではない海外で、このように琳派が現代に脈々と受け継がれ、続いていると認識されているということは、世界に通用する価値を得ることになるんです。文化的資源としての日本の現代アートを世界に打ち出していくためには、新しい琳派という潮流をつくっていくということがここ、京都を拠点に現代に生きる作家を紹介していく上で、ひとつの道筋になるのではないかと考えています。

 

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2020.01 
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