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【インタビュー】画家・松井冬子

 ダ・ヴィンチの彼方をめざして

聞き手 竹山・阿波野・上村・玉井・夏目・吉川・吉田

記録  杉村・鵜川・江川・鈴木・嶌岡・西尾・藤井・三浦

2013年5月14日 竹山研究室にて

 

古典的な技法を用いて、生きていく「痛み」あるいは「狂気」を見る人に感じさせるような作品を描き、注目を浴びてきた画家、松井冬子。
彼女にとって、アーティストとして生きていくこととは何なのか。
そして美術館とはどのような場所なのか。
アーティストとしての原点から、作品に込める思い、理想の展示空間のイメージまで、話を伺った。

「世界中の子と友だちになれる」(東京藝術大学卒業制作 2002)

― 場の空気とモチベーション

阿波野 今回お話を伺って、すごく建築学科と近いものを感じます。僕達の場合は、案を先生や友人達との対話を通してつくり上げていくっていうところがあって。その辺りがアートとの違いなのかな、とあらためて感じました。

松井 確かに、そうかもしれない。多分、絵画とかだと、東京藝大も完全に放任で、月に1回先生方にできあがった作品を見せて講評していただく、という感じ。それが大体学部の3年まで続いて、あとは学部の4年以降は「勝手にどうぞ」みたいな感じですよね。ですから遊ぼうと思えば無限に時間があるように感じるかもしれないけれど、学ぼうと思えば時間が全く足りないと感じる。先生方に聞きに行けばしっかりと教えてくださるので、本当に迷ったときは先生に聞きに行きますけど。友達同士で話し合うってことはまずしなかったですね。

竹山 敵だからね。

松井 敵…まあ、そうですね(笑)。

阿波野 先生の言葉の中で心に残っているものはありますか。

松井 時々あるかな……東京藝大の先生って本当に放任すぎて、あんまり残る言葉がないんですけど、予備校の時の先生の言葉のほうがずっしり残っていて。今でも窮地に陥ると、「描けばいいんだよ!」みたいな言葉が今でも浮かんでくる。藝大に入る前の予備校の時点って、基礎を積み上げる時期だから、テクニックに関することが多いんですよね。藝大入っちゃうと、哲学的な、コンセプトの方へいってしまうから、窮地に陥るときって大体テクニックだったりする。コンセプトは自分で考えて答えを出すってことになってくるので、予備校の時の先生の言葉のほうが思い浮かぶのかもしれないです。東京藝大の意味っていうのは、藝大に入ってそこに本気度の高いクラスメイトがいるっていうことが、モチベーションを保つのにつながっていくから、そこが大事なのであって。先生ももちろん大事なんですけど、場の空気ですかね、一番大事だったのは。クラスメイトで話さなくても、気合がひしひしと伝わってくるから、モチベーションが一番大事だと思います。
 

― 他のアーティストとの関係

阿波野 竹山研究室での個人美術館プロジェクト1で、アーティストを選ぶときに、学生の多くは、松井さんと同世代、70年代生まれのアーティストを選んでいました。先日ギャラリストの井村優三さんに話を伺ったときも、この辺のアーティストたちは同じ展覧会などで同じ時期に活躍していた、とおっしゃっていましたが。

松井 そうですね。(リスト2を見ながら)ここに出てきている、三瀬夏之介さんと町田久美さんは私が初めて展覧会をした1年後くらい(2006年)に、「MOTアニュアル」という東京現代美術館でのグループ展に一緒に参加しました。キュレーターの方が選んできた作家を展示するという形で。三瀬さんは京都でしょ、町田さんは確か多摩美だったと思うんですけど、つまり全然接点はないわけです。でもキュレーターの人がこの作品同士を集めて展覧会をしたらおもしろいだろう、っていって集めてきたのが展覧会になって、それが話題になって、ということなので、特に同世代同士で盛り上げていったという感じではないですね。自然とできていって、キュレーターの方がチョイスすることによってまとまってくるという感じですか。まとまるというか、方向性がちょっと見えてくるという感じなんじゃないですかね。社会の空気っていうのが見えてくる。

上村 例えば「幽霊」というテーマだと西尾康之さん、「痛覚」だと小谷元彦さんや鴻池朋子さんなど、ある種類似したテーマをもった作家さんも同じ世代にいっぱいいると思います。そういった方々の作品を見て、共感する部分などはありますか。

松井 例えば、西尾さんの幽霊をみた時に、確かにモチーフは幽霊なんだけれども、自分の表したいこととか、やりたいこととは明らかに違うことが作品を見ればわかる。内容が全く違うものなので、ただモチーフが同じく幽霊だった、というふうに捉えています。ですからたとえモチーフが幽霊でなくても、もし共感することがあれば、たぶん共通点を感じることができると思うんですよ。美術家として見た時に、ある作品が、作品の質としていいものだとわかることと、そこに個人の気持ちとしてシンクロするかしないか、というのはまた全然別のこと。学芸員的な見方と個人の見方は別なんです。
 

― アーティストとして生きていくこと

阿波野 アーティストっていう仕事には底が見えない、ずっと飛び続けられるっていう話をされていましたね。震災後にチャリティーオークションをされたり、大きな個展を開かれたりすることを通して、アーティストとして社会に何ができるのか、ということを今現在はどうお考えなのでしょうか。

松井 美術家の仕事って、やっぱり「社会に対してもの申す」ことですかね。もの申すというか、社会に対する問いかけをする、ヒントを出すってことだと思います。作品はコンセプトを持って作っているので、引っかかる人はそこに食い付いて、さらに追求して自分の中で思考が膨らんでいく、そのヒントを与えられるっていうふうに考えるんです。あるいは美術館って、私の中ではある種の宗教的な、神聖な場所だったりするんですね。例えばクリスチャンの人がチャペルに行ったりする感じとほとんど同じで、美術館に行くと何かしら作品があって、問いかけをさせられる作品がある。そこに行くと自分自身で「これはどういうことなんだろうか」っていう問答が始まるわけですよね。そこってやっぱり神聖な場所になっているので、そういう意味で美術家、美術家はどうか分からないけれども、美術館そのものが神聖な場所であるんじゃないかなっていうふうに考えたりしています。
 

― 世界史に残るという使命

阿波野 藝大生にとって卒業制作は特別なものなのでしょうか。

松井 もちろんそうですね。学部4年間でやってきたこと、自分が今まで何をやってきたかの証明になるわけじゃないですか。自分を発見することにも繋がってくるし。登竜門かと言われれば……ギャラリストが見ているという噂もありますが(笑)。それ以前に、自分がどれだけ今まで力を注いでやってきたかっていうことを示す、マスターピースを作ってやるっていうモチベーションがあるかどうかだと思います。一生に一度あるかないかの、そこで死んでもいいぐらいの気持ちでやる。世界で活躍したいとかいう野望はもちろんあるけれど、何よりも、誰にも負けないいいものをつくりたいっていう気持ちだけですかね。
大きなことを言えば、卒業制作が世界史に残る作品であることを望みながら描くんですよ。当然、それまでに世界の作品をどれだけ見てきたか、どれだけ学んできたかも含まれています。これまで良い作品は沢山あるけど、それを超える、より良い作品をつくらなければならないという、使命がある。登竜門とか小さいレベルじゃなくて絶対その上に行く。野望がありすぎますよね(笑)。

竹山 モナリザから始まっているから仕方ないですよね。

松井 ダ・ヴィンチが基準なんです。目標は一番高く、世界の頂点を基準にするべき。世界で一番を目指す気持ちで制作しなければいいものはつくれないと思います。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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