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【インタビュー】画家・松井冬子

 ダ・ヴィンチの彼方をめざして

聞き手 竹山・阿波野・上村・玉井・夏目・吉川・吉田

記録  杉村・鵜川・江川・鈴木・嶌岡・西尾・藤井・三浦

2013年5月14日 竹山研究室にて

 

古典的な技法を用いて、生きていく「痛み」あるいは「狂気」を見る人に感じさせるような作品を描き、注目を浴びてきた画家、松井冬子。
彼女にとって、アーティストとして生きていくこととは何なのか。
そして美術館とはどのような場所なのか。
アーティストとしての原点から、作品に込める思い、理想の展示空間のイメージまで、話を伺った。

― 展示について

阿波野 個展の会場の構成は美術館の方と決められるのですか。

松井 最初はそうでしたが、結局大まかには自分で決めています。その中で、構造の問題や裸で見せられる作品と見せられない作品など、細かい問題に関しては学芸員さんにアドバイスをいただきますね。セクション分けまでは自分で決めてしまって、細かいところを相談して決めていきました。

阿波野 横浜美術館は広そうだけどセクションに分かれていて、かえってやりやすかったと聞きましたが。

松井 私の中では、自由という名の自由はないと考えています。制約があるからこそ自由がある。人間は制約があるほうがいいと思うんですよ。取っ掛かりがある方がやりやすい。でも場合によるかな、めちゃくちゃやりにくいのは大変かな。

阿波野 松井さんが見てきた美術館の中で印象に残っているものはありますか。

松井 えーっと、ちょっと考えますね……今思い浮かんだのが、まずルーブル美術館。ルーブルはとにかく大きすぎて、全部見るのに3日はかかるので、目的をしぼらないと出かけるのに決心が必要。他には…東京国立博物館がぱっと見は大きいけど回ってみると意外と小さいので、ちょうど1日で見て回るのにいい大きさで、さらに建築の古さが心地よさにつながっているとか、東京都現代美術館は3階ぐらいに分かれていて時々迷うけれど、スカッとしていて空間を大きく取った展示が多いので美術館に来たなという印象があるとか、イタリアのウフィッツイ美術館は作品も美術館も1日いると充実感が得られる。身近な美術館で好きなのは盆栽美術館! 盆栽美術館は適度に盆栽に見合った美術館という感じですかね。盆栽に囲まれてちょっとわかった気になった所でちょうど終わるみたいな(笑)。見せ場がちょこちょこあって、最後はスッキリ終わる。
 

― コンテンポラリーアートとしての日本画

玉井 では、日本画にあった展示とはどのようなものでしょうか。作品は軸装されていて、床の間にかかるものというイメージがあるのですが。

松井 自宅で楽しむにはそれでいいのかもしれないけど、美術館となると別になりますよね。床の間を作ってしまうと、古美術にしか見えなくなってしまう。私の作品は、技術としては日本画だけども内容はコンテンポラリーだと考えているので、それは避けたい。ある企画で床の間に飾る、というのならいいのですが。

玉井 軸装などは日本画のフォーマットとして捉えているのですか。

松井 そうですね。日本画の技術を用いて、新しいものを提示している、ということを表現するためにわざと軸装するという感じですね。私が描く前には軸装で描く人は全然いなかったんですよ。平山郁夫先生が日本画界のヒエラルキーの頂上に君臨していて、厚い和紙に油絵のように盛って描くと言うのが新しいとされていたんですね。でも私の中では、それは当時は新しかったかもしれないけど、今はそうではないという考え方が予備校時代からずっとありました。じゃあ、新しい表現というのは何だろうと考えた時に、内容を新しくすることで新しいものにしていこうと。日本画というのは私にとってはただの技術として割り切って捉えています。
 

― 個人美術館を建てるなら

阿波野 もしご自身の個人美術館を建てるなら、どのような美術館がいいでしょうか。

松井 私、建築の知識がないんです。このあいだ中東に旅行に行ったので、遺書を書いたんです。「もし個人美術館が建つようであればこんなのが欲しい」という小さな計画を書き記して。恥ずかしくて言えないですが(笑)。私としては日本のお蔵に愛着があるんです。というのは私の実家にお蔵が4棟あって、それは厚い漆喰の壁の下側になまこ壁が通っているような。中は暗いけど2階の上の方に窓があいていて。悪い事してよく閉じ込められたからか、お蔵というものにすごい愛着があるんです。基本的にはシンプルにしたいので、なまこ壁のない四角いキューブで、美術館をシンプルに作ってほしいという事を書いたりしました。中もすっぱりとして、ガラスケースなしで作品がかかっているということぐらいでしたね。

阿波野 敷地はどういった場所がいいでしょうか。

松井 山の斜面とかいいですね。

阿波野 それはやはりご自分の育った土地に関係しているのでしょうか。

松井 そうですね。静岡県周智郡森町という山の方に育ったんですけど。森町という名前なぐらい、80%が山なんですよ。やっぱり山とか森とかがすごく好きですね。さっきの「建築が描かれていない」というのもそういう事だと思うんです。山に育ったから有機的、自然で具象的なものが好きで。

阿波野 蔵は閉じ込められるものですからね(笑)。

松井 でも、蔵って漆喰の壁で有機的、温かいイメージなんですよね。最近の美術館みたいに「スパーン」「カツーン」「固い」「怖い」「冷たい」みたいな感じは特にないので、蔵は怖くない。そういうモダンな建築というものが森町のような田舎にあるわけもなく、見たこともない。

上村 例えば京都に建てるとなったら観光客や海外の人も来ると思うのですが、訪れる人にはどのように見て欲しいですか。

松井 集団ではあんまり入って欲しくないですね、私の美術館には。1人で入ってきてほしい。1人で考え事が出来る、1人1人が「ここは私だけの場所」と思えるようなところがイメージですかね。理想の美術館の入り方としては、1人で何時間も楽しむっていうのが理想の形だろうなとは思います。
 

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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