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――髙橋さんは船のことを好きですか。


あまり好きではないですね。というのも好きになると適当にやってしまうからです。技術屋が好きと言うといいものはできません。例えば、設計事務所を開いて自宅を設計することはとても難しいように思います。わかりすぎるからです。自分がその中に入り込んでしまうから。つまり、客観的に見るということが重要なのです。好きほど云々と言いますが「好き」という考え方が違います。逆に、建築は私にとって客観的に見ることができます。「こういうことができないんだな」「こういう考えなんだな」と。だから、他の皆さんからは斬新に見えるのだと思います。造船の立場からしたら簡単な話です。一言で「鐃鉄(ぎょうてつ)」や「嵌合い(はめあい)」などと言っていますが、皆さん分かっているようで分かっていません。興味があって建築を勉強し始めると終わりだと思います。興味と実際とは違いますからね。


――実家でも大学でも船が身近にあったのにもかかわらず、それでも船に興味がないのは不思議に思います。


小さい頃から船を身近に見てきたからではないでしょうか。どんなことでも身近にないから興味が湧きます。山の人間は海に、海の人間は山に興味が湧くように。けれども、他に飛び出すには体力が必要です。体力のある若い時期に飛び出してみることが大切です。ほとんどの場合、「こういうことがやりたかったんだなぁ」と気づいた時には6、7 割は終わっています。先生に教えてもらっても、頭で分かることを勉強しないと意味がありません。少ない知識で最大限の発想をしないといけません。勉強というのは、自分の考えたことと実際を比べることであって、調べることではありません。


――教えてもらうだけでは駄目なんですね。


「つくる」ということは簡単な知識でできますからね。ただ、ところてんのような繰り返しの仕事は、1 年経つと慣れてしまい、それ以上の工夫のしようがなくなります。ベテランになると、腕を磨きようがなく、頭打ちになってしまいます。同じものを同じようにつくるとそういうことになるのです。そうならないためにも、次にものをつくるときに、「今度はどうしようか」、「どのようにつくろうか」と考えることが学習だと思います。同じことをするだけでは慣れてしまい、向上心や向学心はなくなります。新しいことにチャレンジするから、考える必要が出てくるのです。面白い仕事は「飽きない仕事」、「考えながらできる仕事」です。設計も現業も同じで、考えられる仕事が一番楽しいと思います。一からやることは大変だけども、一つの仕事で6、7 割は今までの知識が役に立つ、残りの3 割に面白さを感じます。

 

【インタビュー】株式会社髙橋工業 代表・髙橋和志

 人のもの真似をしていくと枯れていくんだ

 

造船技術を建築に活かす、それを実現することで建築家の数多くの作品を完成させてきた髙橋和志氏。異分野技術の融合を果たしたのは、彼自身の、ものづくりへの姿勢、仕事への思い、生き方が可能にしたのだろう。彼の目に映る建築の姿は、我々の目に映るものとはすこし違うのかもしれない。

聞き手= 古阪、鵜川、杉村、藤井、西尾、玉井 

2014.8.2 宮城県気仙沼市、髙橋工業本社工場にて

― ものづくりに対する姿勢

――建築家はどうあるべきだとお考えでしょうか。


「どうあるべき」といったことは考えていません。建築家がいない場合でもゼネコンがきちんとつくれば、それでいいと思います。「建築家」と言っても、その多くは「○○設計事務所」です。発注は個人ではなく、会社である事務所に対して行われます。その代表がたまたま建築家であるだけです。行政や民間などが、個人に直接頼むわけではありません。工事を請け負う会社にだって建築家はいます。でも、建築家と付き合っていると、たまに飽きてきます。「飽きる」といっても、その人の分野にはもう関わらない、という意味ですが。結局、建築家は他人の依頼で自分のつくりたい建築を実現しようとしているから、そこに苦労が付きまとうのは当たり前です。建築家はそのような苦労をしなければなりません。そういう苦労を私はするつもりはありませんけどね。


――建築家にもいろんなタイプの人がいますよね。


とても洗練されている建築家や、人間味のある建築家など様々な方がいらっしゃいますね。市民や行政を巻き込んで建築を形にする建築家もすごいと感じますが、こうと言ったら聞かないタイプの建築家に私は魅力を感じます。また、建築家の先生の下にいる人は、その建築家のタイプに似るような気がします。自分で商売始めても、結局元のところと同じスタイルになります。大手の設計事務所にいたといっても、3 年以上はいない方がいいと思います。染まってしまうから。どんな商売でもそうです。もっと自分で自由にやりたいなら、3年ぐらいで他に移ったほうがいいと思います。そうでなければ、自分で設計しているのか、その建築家の考えで設計しているのか分からなくなってしまいますよ。

――大学卒業後、仕事を始めてから考えることも多いと思います。


そもそも、大学を出たてのような人間が客先に出るべきではないと思いますが、大学にいる間に社会に出ても挨拶などをきちんとできる人になるべきです。私が他社さんと打ち合わせをするときは、その会社の名前や、バックなどは関係なく、聞く人本人の姿勢を見ています。相手に聞く気がないなら途中で帰ることさえあります。聞く姿勢は大切なことです。社会に出て、勉強が必要になって初めて身に入ることもあります。教えられた知識なんて役に立ちません。私も大学院から帰ってきた時に会社が倒産して、さぁ家族を養わなければならない、となって、やっぱりピリッとしました。技術屋ですが、最初に勉強したのは法律です。人と同じ分野で戦うためには、同じルールを知る必要があります。最初は憲法、それから商法。建築基準法や造船法が、法律のどのランクにあるかを知らなければなりません。でも、法律はあとからでも読めば勉強できます。数学とか物理とか技術は、すぐ読んだら分かるものでなく、積み重ねで身につくものです。それと、体力もあった方がいいでしょうね。


――仕事に対する姿勢で大事なことは何ですか。


仕事は真面目にやるべきです。「真面目」とは、「誰のために」ということです。「一生懸命頑張っています」と言う人いますが、それは誰のためかということです。二言めには皆のため、他人のため、とか言いながら、自分のためにやっているようにも見えます。それを使い分けるのが悪いのです。震災でたくさんのボランティアの方が来て下さりましたが、中には自分がやりたいのか、誰かを助けたいのか、それを勘違いしている人もいました。誰のためにやっているかが大切で、自分のためなら自分のためだけにやればいいと思います。ある力量がつけば、それは人のためになります。力量がついていないのに、皆にお世話になりながらボランティアをしても無駄です。真面目にやるということは、自分のためか、それとも他人のためか、どちらかです。あいまいな使い分けはよくありません。

― 求める建築家像

― 学生に向けて

――学生に向けて一言お願いします。


大学にいて、頭だけ磨いていてもダメです。スキルを磨いて、知識を得たなら、3 割は外に出す、広く社会に活用することが大事です。頭の中にあってもただの図書館であって、知識を蓄えるよりもその出し方が重要なのだと思います。自分の持論が支持されるところで戦うなら、誰も批判する人がいません。ところが塀の外で戦ったことがない人は、外に広めようとしても自分の話したいことが通じません。そういった面では大学では実戦が足りないのだと思います。また50 代後半になって、生き方を変えるようなことなんて無理です。しかし、仕事なんていくらでもあります。つまり「どのように生きるか」が重要であって、どんな仕事かは関係ありません。今まで親の脛をかじってきたのだから、社会に出たら親に返すのは当たり前です。それで自分のためだとか、他人のためだとか、仕事の大切さが分かるのです。そうすれば段々と生きるための方法論を考えるようになります。「こんな生き方でいいのか」、「この会社でいいのか」と。そこまできてやっと成長したといえるでしょう。そうすれば、また勉強したくなって今の会社よりもっといい場所があるように思えてくるでしょう。

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
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2017.10 | 112p
インタビュー:五十嵐淳
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
インタビュー:野又穫
2016.10 | 128p
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
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中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
2015.10 | 96p
インタビュー:石山友美
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2013.10 | 120p
特集:アートと空間
松井冬子,井村優三,豊田郁美,
アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
​竹山聖,布野修司,小室舞,
中井茂樹