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――会社を立ち上げたきっかけは何ですか。


私の家系は代々続く船大工の棟梁でした。しかし、70 年代の漁業海域の縮小やオイルショックの影響を受け、取引船主の相次ぐ倒産により、1985 年に家業の髙橋造船もやむなく廃業してしまいました。しかし、食べていかなければなりません。その場合、自分の得意分野で生きていくしかありません。どんな分野でもスキルの上に立ったやり方しかありません。私の場合、会社が倒産した、雇い主がいない、自分の能力で生きなければならない。さぁどうするという時に、自分には船の技術しかない、ただそれだけです。その年に弟と二人で協力して、船の修理と鋼構造物工事を目的としたこの会社を立ち上げました。


――造船から建築へ参入したきっかけは何ですか。


1994 年にオープンした気仙沼市の「リアスアーク美術館」の建設に関わったことです。独創的で斬新な設計で、入り口の壁に大きく湾曲した鋼板がデザインされていました。これは建築ではコスト的にも技術的にも難しいとされていましたが、造船技術で一般的な「鐃鉄(ぎょうてつ)」を応用してつくり上げました。その後も、仙台の「せんだいメディアテーク」の建設等にも参加しました。

 

【インタビュー】株式会社髙橋工業 代表・髙橋和志

 人のもの真似をしていくと枯れていくんだ

 

造船技術を建築に活かす、それを実現することで建築家の数多くの作品を完成させてきた髙橋和志氏。異分野技術の融合を果たしたのは、彼自身の、ものづくりへの姿勢、仕事への思い、生き方が可能にしたのだろう。彼の目に映る建築の姿は、我々の目に映るものとはすこし違うのかもしれない。

聞き手= 古阪、鵜川、杉村、藤井、西尾、玉井 

2014.8.2 宮城県気仙沼市、髙橋工業本社工場にて

― 株式会社髙橋工業について

― 造船からみた建築

――造船と建築の考え方の違いは何でしょうか。


基本的には材料力学や構造力学の考えを応用するだけで、設計者としては同じです。船は海が相手、建築はやっぱり人が相手。技術的な点で大きな差はありません。

 

――海に浮かぶ船は沈む、陸に立つ建築は壊れる、この違いは大きいように感じます。


固定するから壊れるのです。だから、壊れやすいのは陸(おか)です。「軽くする」ということがものづくりの一つのポイントです。陸の建築は重くても沈まない、つまり許容度を大きくつくり過ぎます。その点に関して、建築の設計者と議論したことがあります。例えば障子紙をのりで貼ること、これは意匠と構造と材料が組み合わさった形です。ところが、その設計者は小さい格子に障子紙を張り付けるときに、画鋲ならまだしも、一寸釘、二寸釘で打つような方法をとろうとしました。それは合理的とは思えません。おそらく部分で設計するからそうなるのでしょう。そう文句を言っていたら建築家の石山修武さんに「船のことはあなたがよく分かっているが、陸のことは建築の人に任せなさい」と言われてしまいました。しかし、建築基準法がどうかは知りませんが、常識的に考えて、間違っているものは間違っていると思います。そういうやり方は好きではありませんね。


――建築のものづくりで不思議に感じるところはありますか。


意匠家や構造家がいることです。意匠家の中には、まるで絵を描くことをデザインだとする人や、また構造家の中には図面の上ではものを作っていますが、実際の鉄の重さを知らない人がいます。質感・量感を肌の感覚でわからない人間が構造設計をするのは難しいのではないでしょうか。数字と実際が一致しないのだから。昔のように電卓やそろばんでやっていればいいですが、今は計算ソフトを使ってインプットとアウトプットをするだけで、中身が分かっていない事務所さえあります。でも、どういう設計をするのかも、その人の生き方なのだと思います。あと、建築で面白いと感じるのは模型をつくることです。造船で模型をつくることはほぼありません。完成したものの模型をつくることはありますが、打ち合わせでつくることはありませんね。

――建築の場合、発注者に理解してもらうために模型をつくりますね。


発注者の性格が少し違います。客船に乗る人に「こういう設計でつくります」と言う必要はありません。発注者であるのは船のオーナーや乗組員で、彼らは素人ではありません。だから、プロがプロを相手にするから子供だましはできません。建築の場合、知識の少ない発注者に説明することが多いため難しいのだと思います。建築の発注者は、自分が理解したいために模型を求めますね。プロ同士なら要らないはずです。船の場合は実物、モックアップをつくることはありますが、使い勝手の異なる模型をつくったところで意味がありません。


――船の設計は全部一人で行うそうですが、建築の場合、全部一人で設計できる人はいないですね。


建築の場合、大工でもつくるのは柱と梁の軸組だけ。指物や神棚、欄間、彫物までつくることができれば大したものだと思います。昔の棟梁は全部つくっていたようですが。船の場合、例えば配管はほぼ全ての工程を自分の造船所で行うのが当たり前です。建築では配管をあとで考えるのですよね。45 度とか、90度とか、パターンが決まっているからだと思いますが、船の配管にはカーブがあります。あと、建築はパイプをねじ込むから途中で交換ができませんが、船は修理できるようにフランジをボルトでとめます。そういうところも違います。配管でいえば、雨水、飲み水、汚水、油圧、電気など様々にありますが、私は全部一人で設計した経験があります。一人でできるようになるまで、学校卒業してから20 年ぐらいでしょうね。


――建築は何十年経っても全部できるようになる人はほとんどいません。


デザインや意匠といった、建築家には建築家なりのやり方があってもいいと思います。でも、それは設計とは違うように思います。つくれるものをつくるのが設計ではないでしょうか。だから「設計家」ではなく「建築家」なのだと思っています。そういう意味で建築家の方は、個性が強いですね。


――建築を設計する時、与条件を最初に考えることが多いです。


場所と敷地、大きさ、プログラムなどから考えます。つまり自分が決めたことではなくて周りの条件や情報から決めていることになっていますね。それなら話は簡単です。設計でなくてインタビューなんですから。船の場合はそんなことは考えません。北洋に行くのか地中海に行くのかインド洋に行くのか、マグロかカツオか、それだけです。誰が考えたって、太平洋に行く場合は何ノットで行く必要があるかは決まっています。自分で歩いて旅をするとき、東京に行くか、仙台に行くかでリュックサックの中身は違います。3 日か1 ヶ月かでも。どこに行くかで決まる話です。マグロを獲って利益を得て、次も獲ろうとするならどれぐらいの魚を獲るのかといった最適設計が必要になります。それによって最低限の乗る人が決まってきて、自ずと魚のスペースとか船のスペースなどが決まってきます。

髙橋工業本社工場の外観
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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
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中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
2015.10 | 96p
インタビュー:石山友美
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インタビュー:野又穫
2016.10 | 128p
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
interview:
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2017.10 | 112p
インタビュー:五十嵐淳
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
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2013.10 | 120p
特集:アートと空間
松井冬子,井村優三,豊田郁美,
アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
​竹山聖,布野修司,小室舞,
中井茂樹
19
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essay:
2017.10 | 112p
インタビュー:米沢隆
池田剛介, 大庭哲治, 椿昇, 富家大器, 藤井聡,藤本 英子
倉方俊輔,高須賀大索,西澤徹夫
竹山研究室「驚きと喜びの場の構想」
平田研究室「建築が顔でみちるとき」
布野修司,竹山聖, 金多隆, 牧紀男, 柳沢究,小見山陽介