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【インタビュー】音風景研究家・サウンドスケープデザイナー 鳥越けい子

 都市を聞く、風景を聴く

聞き手=高野、嶌岡、西尾、渡辺 

2014.8.5 大分県竹田市「瀧廉太郎記念館」にて

 

瀧廉太郎は言った...「音は眼でとらえることができる」
視覚から受け取る情報の中には、私たちが気づいていないことがあるかもしれない。無意識の知覚に目を向けてみよう。鳥越けい子氏がその設計の際に参加した、大分県竹田市の「瀧廉太郎記念館」を
訪問する。実際に音風景を体感しながら、音から広がっていく世界について伺う。

― 竹田という場所

廉太郎を育てた音風景を追体験する庭

高野 記念館の設計にあたって、サウンドスケープの立場からどのようなアプローチをされたのかを伺えますか。


鳥越 記念館全体の設計は当時熊本大学の教授でいらっしゃった建築家の木島安史さんの監修で、私はその依頼を受けて庭の設計を担当しました。この家が記念館になったのは、瀧廉太郎が12 歳からの2年半ぐらいのあいだ、実際にここに住んでいたからです。特にそういう場所じゃなくても、記念館をつくることだってできるでしょ。でもここは、父親の仕事の関係で日本各地を転々としていた廉太郎が、10 代前半にようやく「自分の故郷ができた」と思った場所。将来は作曲家になろうと決心する少年の感性を育んだ、まさにその場所です。


高野 瀧廉太郎が作曲家になるきっかけになった場所であることが重要なのでしょうか。


鳥越 サウンドスケープでは、こうした場所性、場所の持っている意味をすごく大事にする。デザイン的にも、単純に同じ音を再現することではなく、「だれが、どこで、いつ、どのように聞いた音か」ということを伝えることにポイントがあるんです。旧宅を記念館にするなら、当時ここで彼が毎日どんな音を聞いていたんだろう、と思いました。ですから、来館者の人たちが廉太郎を育てた音風景を追体験できるような庭づくりを、そのデザインのコンセプトにしたんです。


高野 少年の瀧廉太郎が聞いた音を、どのように再構成していくのですか。


鳥越 もっとも、音は形にとどまらない。建物は残っていても、瀧廉太郎が小さいときに聞いていた音は、同じようには残っていない。そういうときには、聞き取り調査や文献調査が有効です。つまり、瀧廉太郎が日々聞いていた音を発するもの、つまり" 音のアイテム" を洗い出していって、それを従来型の庭のデザイン手法の中に落としていく。そのようにして、瀧廉太郎が聞いていた音風景を凝縮することで、それをシンボリックに追体験できるような新たな庭をデザインしたわけです。

「瀧廉太郎記念館」外観
飛び石と下駄
溝川

― 飛び石と下駄

高野 アイテムに落とし込むというときに、具体的にはどういうことを考えて素材やデザイン手法を決めているのですか。


鳥越 例えば庭にある飛び石。当時この辺のこどもたちは裸足か下駄だったんですって。廉太郎の場合は下駄で飛び石の上を歩いていて、来館者がその音を追体験するためには、いろいろな工夫が必要でした。普通はスニーカーとかハイヒールを履いてくるでしょうから、まずは記念館の入り口で履物を脱ぐ。そして、下駄を履いて庭に出るようにしました。そのとき、ソックスとかストッキングでは、鼻緒がある下駄は確かに履きにくい。そこで「なるほど当時は裸足だったのか」と気づいてもらうこともできる。


高野 不便な鼻緒の方がむしろ良いということですか。


鳥越 近代のデザインというのは機能性を重視するけど、むしろ不便であることや大変であることで何かを問いかけてくるデザインがあったっていい。そうして下駄に履き替えて、庭に出れば、飛び石の音がしますよね。その石の種類も、なるべくその地域の庭に昔から馴染んだものを庭師の人に選んでもらいました。

高野 その他にはどのようなことをされたのでしょうか。


鳥越 裏山に続く石段があるんですけど、あれは庭を改修している途中で出てきたものなんです。出てきたってことは、廉太郎も裏山にあがっていったときにここを通っていったはずだから、これはそのまま生かしました。庭の奥にある井戸も、改修中に出てきたんです。「ああ、じゃあこの井戸に響く音も瀧廉太郎は聞いていたんだ」というように、旧宅復元のプロセスで決めていったことも少なくありません。今は井戸として使っていないけれども、ヴィジュアルとしてとっておけば井戸につるべが落ちる音を想像したり、少年時代の廉太郎が井戸をのぞいたら、きっと「あーっ」って叫んだはず、と思うじゃないですか。そのように彼が体験した音風景を、新しい庭のデザインの中で再編集していきました。また、調査から分かったこととして、「縁の下にはキツネの親子が棲んでいて、庭に出て来たキツネに油揚げをあげる係は廉太郎だった」といったエピソードは、看板に書きました。彼は動物好きだったから、新しい庭にも小鳥たちがくるように、実のなる木を植えるなどしたんです。

記念館のサウンドスケープを竹田のまちに拡げる工夫
『瀧廉太郎と竹田の音風景』前出,p.10-11 より)
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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