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【リレーインタビュー】 建築家・米澤隆 

笑い顔、怒り顔、泣き顔、多義的な顔を持つ建築のゆくえ​

聞き手=角田 悠衣、河合 容子、菱田 吾朗

2018.7.7 米澤隆建築設計事務所にて

ttraverse19で6回目を迎えるリレーインタビュー企画。

「彼は言葉を大切にしています。自身の思考をものすごいスピードで言葉にして発します。言葉が顔をつくる。そして顔が思考を表し、建築をつくる」という推薦文を添えて、五十嵐淳氏が米澤隆氏にたすきをつなぎました。「同時多発的」「多義性」「拡張身体」などの言葉をもちいて様々なファクターから、

自身のプロジェクトを再解釈しつつ「建築と顔」について語っていただきました。

― 異種共存性

米澤 — 次に「同時多発的建築」のもう一つの側面である「異種共存性」という観点から、京都市伏見区に設計した『公文式という建築』を紹介します。公文式というのは日本中どこにでもある学習塾なのですが、特定のビルディングタイプを持っていません。住宅、オフィスビル、あるいは飲食店などを拠り所に他のプログラムを様々に取り込んで、公文式は存在します。自主学習を重んじるためにその運営形式は非常に柔軟な一方で、開校日が少なくそれだけで運営するのは経済的に厳しいという特徴があります。それゆえ何かにパラサイトしドッキングすることで初めて成立し、また寺子屋のようにまちに寄り添った存在だと言えます。

 敷地の南側は2m上がったところに通学路である幹線道路が接していて、そこから見ると屋根だけがピョコッと顔を出した形でこの建築は存在します。この道路から屋根の中に直接入っていくことができて、そこが主な学習の場となります。対照的に敷地の北側には古い町家が残る閑静な住宅街が広がっています。そのまちなみと連続するようにしつらえられた開放的な土間空間は、俳句教室、ステンドグラス教室、英語教室といった地域のためのプログラムが展開される場となります。土間空間には大きな木のテーブルが、屋根空間には大きなガラスのテーブルがそれぞれの中央にあります。このガラスは屋根空間の文脈からはテーブルですが、土間空間の文脈からは光を通したり上階を見上げたりする大きなトップライトとも捉えられ、このような多義的なあり方が二つの空間をつなぎ合わせる「間」をつくりだしています。この間がハブとなることで学習の場としての屋根空間とまちの人々の拠り所となる土間空間が、独立せず相互補完関係にある一つの建築を成しています。

 こうして、歴史のある京都のまちなみに公文式という学習塾のメカニズムを読み込みながら、新たな地域拠点のタイポロジーを生み出しました。

2公文式という建築_屋根部分がわかるもの.jpg

主な学習の場となる屋根空間

3公文式という建築_素材の関連性がわかるもの.jpg

上層階の床から下層階のテーブルへと連続する仕上げ

—この作品に代表されるように急勾配で特徴的な屋根を持つものが多いですが、それは建築の象徴性、つまり都市の中での「顔」も担保しているのでしょうか。

 

米澤—僕は屋根をデザインすることにより建築の顔をつくることができ、さらにそれが周囲へと波及しまちなみをもつくることができるのではないかと考えています。建築の初源的な機能として風雨をしのぐということがありますが、古来より屋根というものにはその土地特有の気候、素材、技術といった条件が反映され、そこから生活や文化が生み出されてきました。しかし現代では技術が進歩し素材の流通がグローバルになったために、屋根のデザインがその土地の条件を離れ自由になりました。そのような状況において、屋根というものを現代のライフスタイルから捉え直そうとしています。建築において空間体験、空間構成を切り替える要素としては壁が代表的ですが、屋根に勾配を与え内部空間に反映させることで天井高に変化が生まれ、体感、上下階の断面的なつながり、空気や光の流れをデザインすることができます。つまり屋根はその勾配だけで空間体験のストーリーを変えやすいということです。『公文式』では小屋裏を垂直方向へと意識が向くように天井を張らず現しにして、屋根なのか壁なのかわからないほど急勾配で天井高が変化させています。下の階は逆に天井高を2.1mに抑えて、水平方向に意識が向くようにしているんです。あえて上下で体験を変えているから、上ると開放されていき、下ると潜り込んでいくような感覚を与えます。屋根が持つ景観としての顔のつくり方と、そういった内部での空間体験を同時に扱っています。

17公文式という建築(外観の写真)02.jpg

まとまりのあるグレーの外観

—全体を一つのボリュームとして見せるかのようにグレーで覆っていますが、そこに意図はありますか。

 

米澤—実を言うと、外装はSDレビューの段階では白色で提案していたんです。ですが設計期間中に京都で新たな景観条例ができて、屋根を瓦と同じ色で切妻にしなければならなくなりました。景観のルールってまちのことを内実から捉えてコントロールするというよりも、条文を満たしつついかに制度のキワをつくかといったことも引き起こしている気がします。例えば、よくある陸屋根の先端にだけ庇をつけるなんていうのは、本当に意味があるのでしょうか。京都は古来より時代変遷の先頭に立っていて、その時代の最先端が集積してできているといえます。もちろん歴史的なまちなみというのは尊重する必要がありますが、もっと解像度を上げて考えていかないと形骸化してしまいします。京都のまちは全く異なる時代のものが混在している「同時多発的な点」に深みがあり面白さがあるのです。

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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20
2020.01 
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小椋・伊庭研究室
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2020.11 | 
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ABOUT
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2018.10 
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2021.11 | 
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高野・大谷研究室
西山・谷研究室
布野修司, 古阪秀三, 竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究, 小見山陽介,大橋和貴, 大山亮, 山井駿, 林浩平
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