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【インタビュー】 芸術家・野又穫

 空想が語るリアリティ

聞き手=竹山 聖、王 隽斉、加藤 慶、川本 稜、キミニッヒ・レア、田中 健一郎、田原迫 はるか、田村 篤、千田 記可
2016.6.19 京都大学 竹山研究室にて

空想の建築を描き続ける画家、野又穫氏。彼の描く建築は、時に現実の建築以上に見る者を惹きつける。絵に込められた物語性や原風景を読み解きながら、その魅力を紐解いていく。
東日本大震災以降の感情の変化を経て、彼の建築は今何を語るのか。

 

― 形としての感情表現

 
図4 Forthcoming Places-1  (1996)
 
図5 Forthcoming Places-9 (1996)

竹山 また全然違いますけど、終末的なスケールもあって、『風の谷のナウシカ(1984)』のような世界にも繋がってきますよね。

野又 そうですね、等身大という言葉があまり好きじゃなくて、遠く及ばないものや巨大なもの、あるいはくだらないものの方が想像力が沸くし、モチベーションが枯れません。そうは言っても、何の変哲も無い小さなプレハブの小屋を見て、良いなと思うこともあります。逆にそんな普通の光景から妄想を働かせて、それを別の次元に持って行くという意識があると思います。

川本 風景の中に小さく建築が建っている絵が少ないと思うんですが、それは建築だけを見ているということなのか、それとも巨大な様を表現しているのか、どちらでしょうか。

野又 いや、風景の中にある建築を見ているんですけど、それをトリミングして描いているということですね。場の空気を感じることが好きなので、物質として建物単体を見ることはほとんど無いですよね。場の中での気配を十分纏っているので。

川本 風景を描かなくても感じることができるということですね。

野又 そうですね。背景を入れなくても、わずかな陰影とか湿度が十分滲み出ていると思うんです。建築の冷たいところ、転んだら血が出て痛そうだとか、つるつるしているところに僕は馴染めないと感じていて、親和感のあるマテリアルだとか、経年変化したものの方が共感して描けるんですよ。その意味でも、僕の作品は空想ですけど、現実にありそうだと思う人が多いと思いますね。実際に展覧会でも、この建築はありますよね、あの建物ですよね、と言われたこともありますし(笑)。ですから、空想が絶対にあり得ないレベルとは思えません。ふと思い浮かんだ微細な感情を形にしたらこうなりましたとか、世の中で起きた事件をこう解釈しましたというような、それくらいの空想です。例えば、ディズニーのキャラクターのような姿をした幾何形態の絵(図4)があるんですけど、耳の一部がポキッと折れています。これは湾岸戦争のときに、アメリカが世界の正義であるかのようにふるまうことに憤りを感じて、思わず描いてしまった絵です(笑)。

一同 (笑)。

野又 そのものを描くのではなく象徴的にそれらしく、ですね(笑)。以前『フルメタル・ジャケット(1987)』という映画で、敵の街を制圧した後ミッキーマウスの歌を歌いながら軍隊が歩くシーンがあって、何とも言えない気持ちになった記憶も重なっていると思います。そして、アメリカを描いたら日本も描かないといけないと思って、アトムのつもりで描いた絵(図5)もありますね。これには深い意味は何も無いんです。連想ゲームのように描いていって、時々苛立ちを描いてみたり、必要に駆られたような気持ちが形になっていくことが多いですが、隙間に意味から離れた作品を描くこともあります。僕の作風は確立されたジャンルではないので、どこか気概のようなものが必要だと思っていて、握りこぶしをつくって、よしっ、という気持ちで描くことが多いです。そんな気持ちが構造的で建築的なニュアンスを生んでいるのかもしれません。
 発光する建物を描いていた時期もあります。銀座の大通りにPCメーカーがピカピカ光る看板の建物を作っていて、こんなに電気を使っていいのかとびっくりしたのがきっかけです。そんな過剰さを絵にしたいと思って、眩し過ぎる過剰な建造物を描いてみたんです(図6)。この絵では、後ろで花火が上がっていて、無駄なエネルギーを表現しています。絵としての良し悪しではなくて、自分の気持ちを言葉にするときに一番饒舌なのは想像上の建築にすることなので、その結果の形ですよね。

竹山 批判のツールとしての建築ということですが、先端的ではないですよね。例えば、イタリアの未来派のサンテリア(Antonio Sant'Elia)という建築家は、近代のスピードの時代、飛行機や自動車や鉄道がどんどん普及したときに、新しい都市のプログラムとして工場や駅を、あくまで想像の範囲で外観だけを描いていました。それが新しい都市のイメージとして受け入れられたんですが、野又さんの作品にそういったイメージとしての意識はほぼ無いですよね。

野又 僕も未来派の作品や、ロシアのアヴァンギャルドの作品は好きですけど、そうではなくて、家に帰るような、戻ろうという意識の方が強いんですよね。むしろシェルターや隠れ家みたいな、そんな気持ちに近いと思います。

竹山 昨今の建築は機能を重視して作られていますが、野又さんの絵からは人間の生活的な次元ではなく、風がどう吹いているかとか、戦争の予感があるとか、そういったことが伝わってきます。

野又 そういえば、展覧会の図録の中で藤森照信さんが僕のことを“予兆の画家”と書かれていましたね。作品には日常の積み重ねの中で一番気に掛かる部分が出現して来るので、結局いつも予兆みたいなものに引っ張られていく感じがして、自分の中の無意識を意識することが作品に繋がるのかなと感じています。

 
図6 光景-1|Skyglow-V1 (2008)
 
図7 スケッチ 『blue construction-work in progress』より
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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