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カンポン・アクアリウムにおけるフィールドスクール
修士課程2回生 小坂知世、修士課程1回生 大橋茉利奈

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写真1)カンポン・アクアリウムから臨む海の景色

 2016年4月、ジャカルタの「カンポン・アクアリウム」*(以下K.A.)という超密集市街地が州政府による強制撤去に遭った。ある日の早朝から始まった約1ha・230軒におよぶ撤去はその日の夕方には完了、K.A.は更地となり、約710人が一日にして家を失った。

 カンポン(kampung)とは、インドネシア語でムラという意味の言葉。ジャカ ルタには「都市カンポン」が点在しており、カンポンは自然発生的に形成される超高密な居住環境からしばしばスラムだと思われがちだが、実態は隣組制度や相互扶助のシステムを持つれっきとしたコミュニティである。また路地にブルーシートの 「セルフビルド庇」がせり出したり、木にたくさんの鳥かごが吊り下げられていたりと、環境を自らのモノにする「住みこなし力」を至る所で感じることができる。

 州政府の体制が変わり2018年3月には仮設シェルターが建設された。シェルターそのものは簡素だが、壁の増設や軒下への溢れ出しなどに見られる住民の「住みこなし力」は今でも健在である。

 現在ジャカルタの都市・建築コンサルタント集団であるRujakを筆頭に、住民のためのボトムアップ的な再建が動き出している。2018年9月にはRujakと神吉研究室でK.A.にてインターナショナルフィールドスクールを開催した。

 参加者は K.A. の住民、Rujak のスタッフ、日本学生、 一般参加など合計 20 人であった。各グループに K.A. の住民、日本からの参加者が必ず加わるように4 チームに分かれた。最終日のK.A.住民達へ向けたプレゼンテーションを目標に、近隣のカンポンのフィールドワークや関係者によるレクチャーが6日間行われた。

 プレゼンテーションのテーマは与えられず、各チームがテーマを自分達で設定した。テーマ決定に主催者側の意向が介入することはなく、参加者達が現地で肌で感じたことや問題意識をテーマにすることができた。

 チームではK.A.の内部の人間と外部の人間が一緒に議論し、協働した。外部の人間である私達は内部の人からカンポンに住むことの意味を学び、現実の問題に触れることができる。外部から来た私達も与えられるだけではない。外の人間から見たカンポンにある無数の魅力-カンポンを取り囲む海の風景、路地に現れる露店空間、お手製の庇の下での井戸端会議-それらを言葉にすることでK.A.住民達は自分達の故郷の魅力と問題点に自覚的になっていくことができる。

 最終プレゼンテーションではアイデアをデザインや図で示し、インドネシア語で住民達に発表を行った。かたちになったアイデアを見ると住民達も意見を出しやすくなる。そこで気になる箇所に付箋を貼ってコメントをしてもらい、住民達の興味がどこにあるのか、どんな意見持っているのか、を可視化することができた。

 2019年9月には第2回フィールドスクールが行われる。撤去から3年が経ち、シェルターから恒久的な住居の着工準備が進む複雑な情勢の中、私達は住民達と一 緒にこの地に未来を描きにいきたい。

 *ジャカルタ北部スンダクラパ港付近に位置するカンポン・アクアリウムは、古くから続く海を望む漁村である。またインドネシアがオランダ植民地だった時代、ジャカルタは東インド会社の重要な貿易拠点だったため、カンポン・アクアリウム周辺の旧市街地には現在でもオランダ近代建築が遺っている。撤去当時のジャカルタ州政府はオランダ近代建築に関連した観光地整備計画を掲げ、土地の不法占拠を理由にカンポン・アクアリウムを含 む周辺カンポンの強制撤去を断行したのだ。

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写真2)撤去直後の様子

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写真3)従来のカンポンの様子
 

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写真4)現在のK.A.シェルターの様子
 

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写真5)プレゼンテーションの様子

 2018年11月には太田によるダイアログ 手法でのK.A.調査を行い、より解像度の高 い撤去前後の住民1人1人の主観的な思い出や意見を聞き出すことができた。
 

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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