―元西陣小学校活用プロジェクト2『西陣ベースメントTRIAL』
博士後期課程3回生 山口直人

・京都市学校跡地活用問題
京都市の小学校は明治2年に全国に先駆け建設された。普通教育だけでなく学区単位の自治のための空間として設計されており、地元の自治活動は少子化に伴い廃校となった後も小学校を拠点に行われている。そのため、学校機能を失ったからといって、安易に解体してよい空間ではない。小学校跡地の所有者である京都市は、その活用を推進している。ここ数年でいくつかの学校跡地活用に民間業者が参入したが、従来通りの地元住民の自治を尊重した活用案の提言は簡単ではない。
・地元住民主導の学校跡地活用検討を目指して
神吉研究室の学生が西陣地域住民福祉協議会による学校跡地活用委員会に参与して7年になる。京都大学学生メンバーは、「西陣ベースメント」を跡地活用の1つの検討材料として提案したその翌年、平成28年度から、西陣ベースメントTRIALと題した空間体験型活用実験イベントを企画・運営している。
「西陣ベースメント」は次の4つのコンセプトを持つ提案である。①現校舎は基本耐震補強、補修をして活用、②地元の利用を継続させた展開へ挑戦、③「小学校」としての空間に価値を置いた最小限の内装改修、④「学び」を基本とした教室単位の多様な使われ方。西陣ベースメントTRIALの目的は、学校跡地活用委員会の活動や「西陣ベースメント」の考え方を、普段お話しできない地元住民の方々に向けて検討材料として発信し対話する場をつくることである。元西陣小学校の教室棟を会場とし各教室の設えを実際に変化させることで、「西陣ベースメント」で述べるところの教室棟の多様なモザイク的活用イメージの、体験を通した共有を図っている。
・西陣ベースメントTRIALの成果
西陣ベースメントTRIALは昨年度4回目を迎えた。継続的に実施する中で、教室の様々な活用イメージを実現することができている。地元住民をはじめ、京都市内外の関心のある方々、ドイツドルトムント工科大学、バンコクタマサート大学の教員・学生と跡地活用問題を共有し合う上で、実際の建築を会場としていること、各教室の設えを実際に変化させることは効果的にはたらいている。
西陣ベースメントTRIAL#4では、敷地内隣接の本館や教室棟他教室の地元利用、グラウンドの少年野球利用等が会期と重なり、個々の教室単位に留まらない敷地スケールの活用イメージを垣間見ることもできた。
・おわりに
これらイベントは発信力があるため、跡地活用委員会の活動として大事なものとなりつつある。一方で、学校跡地活用委員会の主な活動は、定期的に積み重ねられている議論の場にこそある。今年度に入り、一部の役員に留まらない地元住民の積極的な会議への参加も見られるようになった。元西陣小の将来を考える地元住民の輪も広がりつつあり、これからの展開に目が離せない。

現存する西陣小と、
過去4回で実現した活用の様子