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【インタビュー】 建築家・宮本佳明

        

 「終わり」のない建築

聞き手:谷重飛洋子、大橋茉利奈、阪口一真、宮原陸
2019.7.30 「ゼンカイ」ハウスにて

建築に欠落が生じた時、その建築は可能性を帯びる。
阪神大震災で生まれた「ゼンカイ」ハウスで設計活動を行っている建築家 宮本佳明氏。
建築に終わりはあるのか、終わらせないために何ができるのか。建築の欠落に挑戦的に向き合ってきた宮本氏に問う。

 

 形を変えて残るもの

 ― 日本の伝統的な木造建築は、掘立柱が腐ってしまうように、欠落と更新を前提としてきた歴史がありますね。

宮本 ― 掘立柱の話が出たので関連して話します。法隆寺の五重塔に心御柱というのがありますよね。あれは空中に浮いていて、ふりこの働きをするといわれています。力学的には実際ふりこのように効いているのかもしれませんが、なぜ中心の柱が空中に浮く状態になったと思いますか。僕は諏訪大社の御柱を見ていて気づいたことがあります。御柱祭りという、山から木を切り出して行う7年に1度の祭りがありますよね。諏訪大社は神社なのですが、四隅に御柱が立っていて神域を形成しています。おそらく塔の原型が御柱のようなものなんだろうなと考えています。ここからは僕の説なのですが、鳥居というのは上の笠木がいちばん重要で、そこが神様の座るような場所、宿る場所であり、それを下の架構が持ち上げているだけなのではないかと考えています。一方、御柱は丸太を持ち上げるのではなくて地面に挿して立てたものではないか。これも神様が宿る場所。でも、これでは腐りますよね。だから裳階というか、屋根を何重にもかけて守ったわけですよ。それが塔の原型だと思います。意味も変わってしまっているのですが、それでもこうして残っていく残り方もあります。「神が宿る」なんて今はだれも思いません。ふりこだと思ったり。それでも構わないから、こういう残り方も面白いなと思います。

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諏訪大社下社春宮 御柱

宮本 ―  いろいろな鳥居、特に東北とか対馬とか中央から離れた場所のものを見ているうちにね、確信したんですよ。東北の震災後に釜石市鵜住居の山の頂上まで行ったことがあります。そこで見た高龗(たかおかみ)神社の鳥居がとてもかっこいいんです。倉方俊輔さんに誘われて見に行った対馬にある多久頭魂神社の鳥居も同様です。これらを見ればもう一目瞭然、笠木がいちばん大事に決まっています。遠野で見つけた鳥居も下はただの構造体ですよね。そして御柱の話に戻るわけですよ。多分元々は神様が宿る木を縦にしたか横にしたかだけの話だと思うんです。鳥居も今は本来の意味が失われています。笠木はどちらかというと装飾のようになっていて、なかには笠木が省略されている鳥居だってあります。でも形を見たら確信できますよね。わざわざかっこ良くなるような木を選んで鳥居を建てていますよね。

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高龗神社(釜石市) 鳥居
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多久頭魂神社(対馬市) 鳥居
遠野市にある鳥居

 ― 京都の町屋なども保存する動きがありますが、宿泊施設などのように本来の使われ方から変わっている例もあります。それでも使っていく方が良いのでしょうか。

宮本 ― どのような形であれ使われながらの動態保存の方がいいですよね。原形がどうとかはあまり気になりません。『「ゼンカイ」ハウス』もそうですけど、使われていることがいちばん幸せなのではないでしょうか。よく学生に言っているのですが、このことを考えるのに、「資材性」という概念が有効です。これは元々レヴィ=ストロースが用いた言葉です。中谷礼仁さんが何かの著書でこう例えていたと思います。バケツは通常水を汲む道具ですが、でも植木鉢にもなり、だれかの頭にかぶせて上から叩くこともできます。これはバケツの形から導き出された資材性を示しています。建築も同じで、よく見ると本来の使われ方ではないですけど、うまい使い方があるという意味で「資材性」という言葉を使います。3回生くらいを対象にコンバージョンの課題を毎年出しているのですが、対象物は自分で見つけさせています。そこでも新たな資材性をどう発見するかがポイントになるんです。
 村野藤吾さんが設計した北九州の八幡市民会館も耐震性が足りず壊されようとしていました。しかし劇場として使われていたときの大空間があることで耐震性が低いのならば、使われなくなったホール空間の中に新たな構造体をいろいろ突っ込んでしまったらいいのではということを考えて、提案しました。劇場を諦めたら途端に新たな可能性が生まれるんですよ。美術館はどうせホワイトキューブを置かないといけないですし、ホール空間内に箱をいっぱい入れたら構造的に強くなると考えました。動態保存ということを考えるとき、コンバージョンもひとつのヒントになると思います。
 空間のカスタマイズの他の例ですと、『クローバーハウス』は壁が鉄板でできているでしょう。施主が鉄板の壁に磁石でものを貼り付けるんです。 「この家は壁が散らかるんです」と言っていました。帰ってきたら服とかぱちっぱちっと貼り付ける。 そういう話を聞くと面白いなと思います。

 

  建築を「解く」

 ― 日本でまだあまりコンバージョンが進んでいないのは、依然として新築を望む声が多いからでしょうか。

宮本 ― いや、まだマシになりましたよ。かつては「コンバージョン」なんて言葉もなければ「リノベーション」なんて言葉も存在しませんでした。少なくとも『「ゼンカイ」 ハウス』のときにはそのような言葉はなく、あの頃は「リフォーム」という概念くらいしかありませんでした。「コンバージョン」という概念が登場したのは、そのしばらくあとじゃないですかね。

 ― その方が、部品は変わっても一つのものを大切にするような、日本の古くからの精神に合っている気がします。

宮本 ― そうそう。それはありますよね。一つ思い出しました。家を「解く」という言い方がかつてあったそうです。解体とはいわずに、家を「解く」。在来木造なので、ガシャガシャと解体するのではなくて、一個一個部材を外していき、また建てなおして移築したり別の建物に転用したりすることもできます。 『「ゼンカイ」ハウス』も、確かどこかで柱材が梁に転用されています。そういうことはありえるんですよ。英語で「解体」は、「demolish」 と 「dismantle」 があって意味が違います。「dismantle」 の方が「解く」に近くて、「demolish」 の方がグシャッというのに近いです。その二つの言葉は使い分けるといいのかもしれないなと思っています。部品にばらしてからもう一回作るのだって資材性ですから、資材性を空間に求めるのか部品に求めるのかの違いです。

 ― それは日本特有ですよね。

宮本 ― そんなこともないです。ローマのコロッセオは石切り場でした。「解く」 とはいわないんでしょうけど、石という物質に資材性を求めたのです。詳しいのが、ケヴィン・リンチの『廃棄の文化誌』1)です。そういう事例がたくさん出てくるのでぜひ読んでみてください。

1) ケヴィン・リンチ:廃棄の文化誌-ゴミと資源のあいだ-, 有岡孝,駒川義隆訳,工作舎,1994

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2020.01 
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2020.11 | 
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