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【エッセイ】 牧 紀男

 「建物の解体」

​ Building Demolition

― 壊すことをシステムとして組み込む

 一度建てた建物を使い続けることを是とし、スクラップ・アンド・ビルドを否とするのが建築分野では一般的である。しかし、先述のように地方都市では「スクラップ」ができないという問題が発生しはじめている。災害後には「公費解体」という建物を取り壊す制度が存在するのであるが、通常時には取り壊し費用を確保する術はほとんど存在しない。その結果として、経済的な観点からは維持・更新が難しい建物は、使われることもなく残らざるをえない。古い建物が残ることは良いと考える向きもあるだろうが、地域の安全性(防災・防犯)という面からみると問題であり、中心市街地の敷地に存在する建物であり、取り壊して新築、耐震改修をしてリノベーションできれば地域の活性化に寄与することができる。地方都市の中心市街地が使われないビルで占められるという状況は決して健全ではない。災害時だけではなく、通常時の仕組みとして建物を解体(スクラップ)するような仕組みについて考える必要がある。

 オフィスビルの事例ではないが解体することを建物の維持管理システムの中に組み込んだ建物も存在する。その建設について大きな議論があった下鴨神社の参道に面して建設された区分所有のマンションである。50年の定期借地に区部所有マンションが建設されており、50年後には建物を解体して敷地を更地して返却することとなっている。そのためこのマンションでは通常の修繕積立金に加えて、建物の取り壊し費用を、購入時の費用と毎月積み立てで確保している。物件の概要書3 によると解体のための費用として、購入者は解体準備金(月額) 3,540円〜4,340円、解体準備一時金(引渡時一括)471,400円〜579,100円を支払うこととなっている。

 壊すことが難しい、社会的な側面から見るとほぼ不可能であろうと考えられる建物として区分所有の超高層マンションが存在する。超高層建築の解体事例としては大手町フィナンシャルセンタ、赤坂プリンスホテル他の事例がある。解体費用は不明であるが、膨大な金額が必要となることは想像に難くない。単一の所有者の場合、解体という意思決定は費用さえ確保できれば可能であるが、区分所有の建物の場合、全員同意が必要となる(ただし、政令指定地震の場合は4/5で取り壊し決議可能)。野澤4 が『老いる家崩れる街−住宅過剰社会の末路−』の中で指摘するように、多様な人が住む超高層マンションでは様々な問題が発生し、ほぼ合意は不可能であると考える。将来的に超高層マンションが取り壊されず、住む人も少ないまま放置されるという事態が発生することは想像に難くない。被災して壊れれば「公費解体」ということになるが、取り壊すのが難しいと考える建物には建設時から壊すことについても考えておく必要がある。

― ビルド・アンド・スクラップ

 内田祥士は『営繕論:希望の建設・地獄の営繕』5 においてスクラッブ・アンド・ビルドではない、既存の建物を使い続けている建築のあり方について書いている。日本で建物を使い続けていく上での「建物の最大の劣化要因」として地震をあげ、営繕して使い続ける建物の条件として「耐震性の確認」という義務が果たされていること、新耐震基準が満たされていることをあげる。筆者も先述のように古い建物が利用できるのであれば利用しつづけることが重要であると考える立場である。しかし、ここで議論したいのは、使い続けていくための前提条件である耐震改修を「できない」・維持管理を「できない」・「営繕」が「できない」建物の問題である。

 日本の建築を考える場合、内田も述べるように地震ということを抜きにしては語ることができない。日本では災害がスクラップ・アンド・ビルドを行い都市更新の契機となっている側面も無視できない。阪神・淡路大震災から10年が経過したときに、古い木造が多く大きな被害を受けた地域は災害が無ければ高齢化が進行することが予想されていたのであるが、災害により古い住宅が壊れ、そのあとにマンション等が新築されそこに若い世代が転入してきたため、災害が無かった場合と比較して地域の人口構造が若返っているような事例が見られる6(図3)。災害がスクラップ・アンド・ビルドを果たした例である。しかし、東日本大震災の被災地の状況は異なっている。津波で建物は流され、そのあと再建するための土地が整備されたのであるが家が建たない空き地が多く残っている(写真3)。

 過去の災害から学んだスクラップ・アンド・ビルドの成功体験、そこから派生した社会としてのスクラップ・アンド・ビルドという仕組みは、少子高齢化・人口減少社会を迎えて終焉を迎えようとしている。特に地方都市においては業務系の建物需要が少ないため「ビルド」が起こらないのに加えて、その維持管理も難しい状況が発生している。スクラップ・アンド・ビルドという仕組みは、スクラップ→ビルド→スクラップ→ビルドという循環で成り立っているのであるが、「ビルド」の後の循環が断ち切られ建物が「スクラップ」ができない(「スクラップ・アンド・ビルド」モデルの中で、当然、維持管理して使いづけられるのが良い)という状況が発生している。人口減少社会を迎え、スクラップ・アンド・ビルドから次のシステムへ移行するためのステップとして、災害を待つことなく「スクラップ」ができるような仕組みを考える必要がある。

図3 阪神・淡路大震災、若返った地域(濃い緑の地区)
写真3 大槌町町方地区(2017年12月撮影)

<参考文献>

1. 磯崎新、建築の解体—一九六八年の建築情況、鹿島出版会、1997

2.紀男、堀江 啓、林 春男、阪神・淡路大震災の公費解体と災害廃棄物−どのような物理的被害の建物が解体されたのか−、日本建築学会計画系論文集、第81巻、第730号、pp.2723-2729、2016.12

3. https://www.jgran.jp/shimogamo/outline/index.html、2018年9月27日閲覧

4. 野澤千絵、老いる家崩れる街−住宅過剰社会の末路−、講談社現代新書、2016

5. 内田祥士、営繕論:希望の建設・地獄の営繕、NTT出版、2017

6.陳海立、牧紀男、林春男、地域人口特性に基づく地域復興の評価−阪神・淡路大震災と新潟県中越地震の地域特性と復興像−、地域安全学会論文集、No.13、pp. 347-355、2010

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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