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【エッセイ】 小見山 陽介

 「鉄とガラス」のクリスタル・パレスにおいて

             木材が果たした役割

​ Roles of Timber for the construction of the Crystal Palace in relation to Iron and Glass

― 木材使用箇所① 負担荷重の比較的小さい大梁

 特徴的な格子形状を持つ大梁は、屋根を支えるだけではなく構造全体の水平力も負担していた。重量をむやみに増加したり逆に材の厚みを削ったりすることなく適した形状を得るため、鋳造が使用された。様々な装飾的形状が検討されたが、必要な力を経済的に発揮するために3次元的な格子形状が採用された。格子の斜材断面は負担応力に合わせて連続的に変化し、フランジの幅も負担が大きくなる部材中央部で広くなるようデザインされている。

 大梁は建物における位置によって役割や働きが異なるため、この24フィート長の鋳鉄製大梁を原型として、その強さ、構法、材料が異なる9つのバリエーションがつくられた。すなわち24フィート長の鋳鉄製大梁(必要な許容応力度に応じて3種類)、24フィート長の木製トラス、24フィート長の錬鉄製トラス、48フィート長の錬鉄製トラス、72フィート長の錬鉄製トラス(必要な許容応力度に応じて3種類)である。なお、『The Building Erected』では一体鋳造された部材を大梁、組み立てによるものをトラスと使い分けて表現している。

図版2.jpg

図版2 木製トラス(上)と鋳鉄製大梁(下)

 24フィート長の木製トラスは、上弦材をオーク材とディール材の組み合わせ、鉛直材をオーク材、斜材のうち引張材をオーク材で圧縮材をディール材、下弦材をディール材(端部では一部オーク材)で構成されていた。なお、ディール材とは主としてヨーロッパアカマツを原料とする安価な木材を指す。上下弦材と垂直材、斜材は錬鉄製のストラップを介して互いにボルト留めされていた。これらの木製大梁は、負担する上部荷重の小さい平屋部分の長手方向で屋根架構に用いられた

― 木材使用箇所② トラス部材

 屋根を支えるために建物の短手方向に架けられた48フィート長及び72フィート長の錬鉄製組み立てトラスは、鋳鉄製の垂直材と、錬鉄製の上弦材・下弦材・斜材(アングル材やフラットバーをリベット接合で組み立てられた)で構成されたが、鋳鉄製大梁と同様の格子形状に見た目を合わせるため、斜材のうち構造に寄与しない箇所でも、木製の板材がフェイクとして付加された。板材は上弦材・下弦材とはリベットによって、交差する斜材とは木ねじによって固定された。なお、錬鉄製組み立てトラスの上弦材上部には木製の主樋がボルト留めで固定され剛性に寄与した。

 鋳鉄梁の3次元的な断面形状は発明的だったが、その形状が木製トラスや錬鉄製トラスの形状までも、いわば構造的な合理性を超えて規定していたのである。

図版3.jpg

図版3 錬鉄製トラスの木材使用箇所

― 木材使用箇所③ 翼廊のアーチ状リブ

 翼廊では、屋根を支えるアーチ状のリブとそれを支える桁が木製であった。メイン構造となるリブは鋳鉄柱に、サブ構造となるリブは鋳鉄製大梁と錬鉄製トラスに、それぞれ錬鉄製のストラップによって固定された。アーチ状のリブはいくつかの木材をくぎ打ちとボルト留めによって集成することで構成され、ほぼすべての箇所で引張力が働く方向と木の繊維方向が一致し材料の性能を最大限に引き出せるよう工夫されていた。鋳鉄柱とリブは錬鉄製のストラップを介してボルト接合された。

図版4差し替え.jpg

図版4 翼廊のアーチ状リブの木材使用箇所

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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