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【エッセイ】 布野修司

 アレクサンドロスの都市

 ​Cities of Alexander the Great

 

 アジア三部作(『曼荼羅都市-ヒンドゥ-都市の空間理念とその変容』(2006 年)『ムガル都市-イスラ-ム都市の空間変容』(2008 年)『大元都市-中国都城の理念と空間構造-』(2015 年))を上じょうし梓して、『世界都市史』も射程に入ったなあと思っていたところ、『世界都市史』(仮)執筆の依頼があって一気に書き出した。そして、世界中の都市にそれぞれの歴史がある、本の骨格を彩る形でコラムとか、囲み記事で都市を紹介したらどうかと思いついたのが運のつきであった。編集部にいっそのこと『世界都市史事典』(仮)にしようと言われて、総計2000 頁近くになる企画になってしまった。二冊分になるという。その全体構想を紹介したいのだけど、紙数が限られるというから、ひとつの都市だけ紹介しようと思う。つい最近(2016年2 月)訪れる機会があったエジプトのアレクサンドリアである。アレクサンドリアを設計したのは、言うまでもなくアレクサンドロス大王である。彼の名を冠する都市は一説に拠れば数十に上るという。それを追いかけてみよう。彼に匹敵するほど多くの都市を建設した建築家は世界史上何人いるのであろうか註1

 

― アレクサンドリア

 アレクサンドロス大王(紀元前356 年~ 323 年)が建設したアレクサンドリアの数は、プルタルコス『対比列伝』『アレクサンドロス伝』は70 以上といい、ストラボン(紀元前63 年頃~ 23 年頃)(『地理書(誌)』全17 巻)は8、ローマ帝国の歴史家ユニアヌス・ユスティアヌス(『ピリッポス史』)は12 という。N.G.L.Hammond(1981)は18 というが、Fraser, P.M.(1996)は、諸文献から57 の候補を挙げた上で12 の場所を同定する 註2

 アレクサンドリアは、アレクサンドロスの軍事拠点であり植民都市である。既存の都市を拠点とした場合も少なくないし、70 という場合は当然それを含んでいる。しかし、アレクサンドロス自ら計画した都市となるとそう多くはない。滞在は1 年を超えることはなかったから、建設を見届けるということはなかったはずだ。森谷公俊(2000a)は、新たに建設されたアレクサンドリアは、

①エジプトのアレクサンドリア(アル・イスカンダレーヤ)、

②アレクサンドリア・アレイアAria(na)(アリアナ:現ヘラート)、

③アレクサンドリア・ドランギアナ(フラダ:現ファラーFarah)、

④アレクサンドリア・アラコシアArachosia(アラコシオルム:カンダハル近郊シャル・イ・コナ)、

⑤アレクサンドリア・カピサ(カウカソス(コーカサス):現ベグラム?)、

⑥アレクサンドリア・オクシアナ(オクソス:現アイ・ハヌム?)、

⑦アレクサンドリア・エスカテEschate(最果てのアレクサンドレイア、ホジェント、現レニナバード)、

⑧アレクサンドリア・アケシネス、

⑨アレクサンドリア・オレイタイ(旧ランバキア:現ソンミアニ)、

⑩スーサ南部のアレクサンドリア(スパシヌ・カラクス)

の10 都市という(図1)。

図1 アレクサンドロス の長征とアレクサンドリア 出典:森谷公俊(2000a) 作図:古田博一

1)ホセ・デ・エスカンドンが、ヌエヴォ・サンタンデール入植地(メキシコ、タマウリパス)に建設したのは25 都市である。( 布野修司, ヒメネス・ベルデホ, ホアン・ラモン『グリッド都市-スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生』京都大学学術出版会,2013)

2)最も信憑性が高いとされるアリアノス(2001)を邦訳で読んでみたが、辛うじて8つを確認できた。

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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