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【エッセイ】 上住 彩華

 フランス歴史建築考 

― Architecte des Bâtiments de France

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 フランス建造物建築家 Architecte des Bâtiments de France( 以下ABF と略) は、建築家の国家資格保持者の中から試験によって選抜される、フランス文化省所属の公務員建築家である。1946 年に設立されたABF は、1993 年に国家都市計画家 Urbaniste de l’État とともに国家建築家・都市計画家 Architectes et Urbanistes de l’État の組織に吸収され、その「建築・都市・景観遺産」部門がABF の役割を引き継いでおり、190 人ほど 4 の建築家が所属している。試験合格者は1年間文化財建築修復の高等教育機関で教育をうけたのち、 各県の地域建築・文化財部 STAP - Service Territorial de l’Architecture et du Patrimoine に配属され、担当地域の歴史的建造物および景観の保存維持の役割を担っている。


 ABF の主な役割には次のようなものがある。一つ目は、文化財建造物の保護である。ABF は文化財建造物の管理維持の役割を担い、文化財建造物の保存修復工事を行う場合もある。また自治体や所有者に文化財建造物保護のための助言を与え、予算編成、工事監理などの手助けを行う場合もある。次に、歴史的建造物保護区域の管理がある。ABF は国家の代行として保護区域内で現行法にのっとった認可・承認・忠告の権限を持っている。したがって、 文化財建造物周縁区域 Périmètre de Protection Adapté 5、保護区域 Espaceprotégé、保全地区 Secteur sauvegardé、建築・文化財活用地域 AVAP において、法規が遵守されているかを監督するのである。


 フランスで建築設計をする上で主に関わってくるのは、この二つ目の役割のほうである。ABF はこれらの管轄区域内でのすべての工事申請( 建設許可、解体許可、電線設置、樹木伐採、看板設置など) に対して、 デザイン、色、素材などについて承認あるいは不承認の通告を与える。この ABF による通告は許可を出す自治体に対して強制力を持つものであり、ABF が不承認の決定を下した場合、申請は許可されない。新築、改築を問わず建築物が既存の歴史景観に調和しているかどうかを、法規に照らし合わせて管理しているのである。極端な例をあげれば、ABF がある素材について承認を与えたにも関わらず実際には違う素材を使って工事されている場合などは、強制執行をもって工事を差し止め、該当素材を撤去できる権限をも持っている。この ABF の権限によって、フランスの歴史的景観は保たれているとも言える。したがって、建築家は建設予定地が、これらABF の管轄地域にある場合、建築許可申請のまえにABF とコンタクトを取り、設計趣旨を説明する機会を作ることが多い。

 ここで私がインターンで関わることになったシャルトル市立図書館の例を紹介したいと思う。当時の教育制度では第三課程で最低4ヶ月のインターンが必須であった。私は、C+H+(Chemetov+Huidobro) 建築事務所でインターンをすることになり、この市立図書館のプロジェクトを担当させてもらうこととなった。フランスの公共事業の場合、一般的にAPS・APD・PRO・DCE 6 という設計プロセスをたどるのだが、そのうちの、APD からDCE までを経験することとなった。

 シャルトルはパリから南西80km、電車で一時間ほどの小さな町で、シャルトル大聖堂はフランスでもっとも美しいゴシック建築の一つに数えられる。 その大聖堂から歩いて5分ほどおよそ500m の距離にある、郵便局として使われていた建物を改修し、市立図書館として生まれ変わらせるというのがそのプロジェクトだった。旧郵便局 Hôtel desPostes は建築家ラウル・ブランドン Raoul Brandon の設計により1923 〜 1928 年に建設された、ゴシック・リバイバル様式とアール・ヌーヴォー様式の融合した建築である。高さ33m、幅55m ほどのコンクリートと鉄骨構造の建造物で、南側の広場に面してロトンドを、北側には時計塔をそなえており、ファサードには郵便の歴史を物語るモザイク画が施されている。ゴシック様式の採用は、すぐ近くに位置しバルコニーからも目に入る大聖堂を意識してのことであると考えられている。ファサード、屋根、そしてPTT -Postes Télégraphes Téléphones のロゴをかたどった格子は、折衷主義の特徴的な建造物として1994 年に文化財建造物として登録された。完成以来、当初の用途である郵便局として使われていたが、市立図書館として生まれ変わることが決定し、2005 年にシャルトル市によって買い上げられ、ポール・シュメトフ Paul Chemetov とC+H+ 建築事務所は2004年4月におこなわれた設計コンペによって、設計者に選定された。


 ファサードは登録文化財建造物ということでほぼ現状のまま保存されたが、内部は保存対象ではなかったため、図書館としての機能を受け入れられるよう比較的大きな変更が加えられた。その設計には、郵便局として使われていた当時には忘れられていた内部空間の価値を再び見出すことが重要視された。まず、後世に付加されていた中間階を取り除くことにより、本来の階高と窓の高さを取り戻した。その代わりに、必要な床面積を確保するために、新しくメザニンフロアが追加された。建物の背後の中庭は配送車庫として使われていたのだが、その部分に二階建ての増築がされ、その屋上は屋外テラスとしても利用できるように整備された。また、使われていなかった屋根裏部分も閲覧室として一般に開放されることとなり、本来の鉄骨の骨組みと天井高に再びスポットライトが当てられることとなった。そしてこの屋根の一部をガラス張りにすることによって、この最上階の閲覧室よりシャルトル大聖堂が望むことができるようになった。

シャルトル市立図書館 外観 ©Arnauld Duboys Fresney- Paul Chemetov - adagp

 このプロジェクトでは、既存建物は登録文化財ではあったものの重要文化財ではなかったため、設計チームに文化財建築家は必要ではなかった。その代わり、前述のABF が設計プロセスをフォローしており、4 〜 5 回の対話を経て最終的なデザインが承認された。特に文化財として登録されていた屋根をガラス張りにすることに関しては、ABF との話し合いの重要なテーマのひとつであった。コンペ当初の案では大聖堂を望む東面を全面ガラス張りにする計画だったのだが、 既存屋根との調和を考えて同じスレート素材のルーバーを追加するということになり、最終的にはガラスの面積は破風との取り合いを考えて下部の三分の一のみに縮小されることとなった 。また、同じく登録文化財であったファサードに関しては大きな変更点はなかったのだが、断熱性能向上のため窓枠はすべて新しく取り換える必要があった。そのため、各窓枠一つひとつにつき既存の状態と変更後の状態を図面で提出し、ABF の承認を受ける必要があった。


 性能面の話をすれば、改修工事とはいえ、現代の防災や熱効率の基準 7 に適応していなければならず、壁や屋根への断熱材の追加、アスベスト除去、そして階段や避難経路の再計画は、すべての改修プロジェクトで共通の課題となっている。 例えば、このシャルトル市立図書館の場合、メインエントランスは道路面よりも高い位置にあり正面階段でアクセスするようになっていたが、バリアフリーに対応するため、既存ファサードの隙間をうまく利用してエレベーターが設置されている。

4 http://anabf.archi.fr より。
5 以前は文化財建造物から半径500 メートル以内の区域だったが、現在は地形などに応じて定められている。

― シャルトル市立図書館

 また、メイン階段も既存の壁にそって現在の基準にあった階段を設計する必要があり、独立した鉄骨構造が選択された。改修プロジェクトにおいては、既存建物の状態を知ることが重要であり、調査・診断は適宜行われるが、通常の設計とは異なり正確な寸法や状態は実際に蓋を開けてみなければわからない面もある。後日談になるが、工事に入ってから、図面上では50cm 以上のコンクリート構造壁だと考えられていたファサードの壁が実はハリボテで、コンクリートの厚さが10cm ほどしかないことがわかり、急遽構造計算をやり直し、柱で補強しなくてはいけなくなったそうである。 このように見てみると、この改修プロジェクトにおいては、近代修復の原則である「可視性」「可逆性」の原則が守られていることがわかる。新たに付け加えられた要素はすべて容易に識別可能であり、ガラスの屋根やメザニンを含め必要であればいつでも元の状態に戻すことができる。このことは、ポール・シュメトフの次の言葉にも表れている 。「私はブランドンの作品をできる限り尊重し、それに識別可能な21 世紀の層を一枚追加した。しかしながら建物自体は何も変わっていない。」 8

シャルトル市立図書館 閲覧室よりシャルトル大聖堂を望む ©Arnauld Duboys Fresney- Paul Chemetov - adagp
8 L’Écho Républicain 2007/05/10

APS - Avant Projet Sommaire
APD - Avant Projet Définitif
PRO - Projet
DCE - Dossier de Consultation des Entreprises
DCE が工事を担当する施工業者を入札するための書類となる。
7 ただし既存建物の改修の場合、寸法などの条件が緩和されている。
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
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竹山研究室「脱色する空間」
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インタビュー:野又穫
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