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【エッセイ】 小室 舞

 現在進行形バーゼル建築奮闘記 

​ Progress in Progress

― コミュニケーション

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伝えるということ。プレゼンテーションを含めてそれはつまりコミュニケーションということです。コミュニケーションにはいくつもの方法がありますが、その最も基本となるのは言語です。しかしそれが自分にとっては最初の壁として立ちはだかりました。チューリヒでの一年間の留学を経てそれなりに英語力は伸びていたものの、事務所では学生インターンでさえ大半が自分より堂々と上手く英語を話します。自分の英語なんか全く物足りません。最初に入ったのは全員が国籍も母国語も違うというインターナショナルなチームでしたが、周りの喋りに圧倒されて自分は劣等感だらけでした。一対一の会話では相手も理解しようとしてくれるので問題ないのですが、グループでの議論となるとついていくのに精一杯で、意見を言うタイミングさえうまくつかめません。


建築デザインではありがたいことに言葉が足らずともスケッチや模型でコミュニケーションがとれるので、それにはかなり助けられました。とにかく口は立たなくとも作ったもので何とか要求に応えて伝えようと必死でした。そのおかげで手はよく動くようになったと思います。京大で勉強していた頃「口で何も説明しなくとも伝わるようなプレゼンを心がけよ」という教えを受けていたことのありがたさ。と同時に、アメリカなどの大学で話すプレゼンを鍛えられてきたような同僚たちとの大きな差。とにかくよく喋り意見を主張する人たちを見ているとつい関心してしまうのですが、それはどうも英語力の差だけではないようにも思えてきました。積極的な気持ちの持ちようというか、勢いやハッタリに乗っかってでも思い切って発言しようとする心意気が大事なのではないかと。口ばかりを動かすのがよいとは思いませんが、周りの同僚たちを参考にしながら、間違いを恐れずに思い切って意見を言うように心がけるようになりました。


コミュニケーションの第一歩となるのは、デザインをクライアントに伝える以前に、事務所内で考えを共有するということです。基本的に各プロジェクトはチーム単位で設計を進めるため、デザインの意図を共有して効率よくチームを機能させるためにはチーム内での密なコミュニケーションが欠かせません。さらにクライアントやコンサルタントなど多くの関係者が関わる場面では、内容を伝えるのみならず説得も必要となってきます。ただのミーティングであっても、一つのプレゼンテーションのように内容をわかりやすく組み立てて明確に説明して伝えなければなりません。


多くの人々を巻き込みながら長い時間を経て完成を目指す建築の設計には、数えきれないほどのコミュニケーションが欠かせません。 コミュニケーションという土壌が整っていてこそ、アイデアという種はそこから芽を出し花開くことができるのだと思います。他者との対話を許容できる柔軟性のあるデザイン、その過程に淘汰されることのない強く説得力のあるデザイン、建築部外者の不特定多数の人にも伝わるデザイン、などなど。コミュニケーションという視点が加わって、こうありたいなと思うデザインに幅がでてきました。

事務所でのコーヒーブレイク

― 模型

プレゼンテーションやコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしてくれる建築模型。実際に作って試してみるわけにもいかない、時間もお金もかかる建築にとって、模型は三次元でアイデアを代弁する貴重な存在です。事務所の初期に関わったもう一つのプロジェクトは単一の建築ながら超大型複合施設でした。大規模ながら大まかにしか要項が決まっていないため、柔軟性を持たせながら抽象的にアイデアを練る必要がありました。マスタープランに引き続きどう取り組んでいいのかもよくわからない上に、当時はそれまで使用したことのなかったAutoCAD に不慣れで図面を描くことさえままなりません。喋りに弱くCAD も使えない、そんな自分にできたのは模型作りくらいでした。


というわけで、まずできることとしてミーティングで出たぼんやりしたアイデアを図面も描かずに直接スタイロフォームで形にしていきました。模型を目の前にするとチーム全員がすぐに共通理解を持つことができます。ミーティングでも中心にあるのは模型であり、そこから意見が生まれて議論が進みます。HdM の本や展示にも使われているように、事務所ではさまざまな素材の模型を作って設計を進めていきます。学生の頃から模型は好きでよく作っていたので、それが事務所内で重要な役目を果たすのは嬉しいことでした。模型作りの材料や設備が非常に充実していて、手で作ることが積極的に推奨されているのは素晴らしい環境です。


模型でならば自分でも何かはできると思っていろいろ作っていたら、その模型の一つがプロジェクトのメインコンセプト模型となり、その後のディベロップメントを牽引することとなりました。 それから数年が経ち模型も数多く作られ数十人規模で働くようになった今でも、そのときの模型写真がコンセプトの説明に使われています。大した模型でもなかったのですが、人それぞれ得意なスキルが違う中、意外なことが評価されて思わぬ成果となりました。模型の力を実感した貴重な機会でした。


日本にいた頃、模型作りにおいて重要視されるのは図面にあるものをいかにきれいに正確に作るかという点だと感じていました。それはもちろん間違ってはいないのですが、事務所内にはきれいで正確とはいえないような模型もたくさんあります。ただ、扱う素材や表現方法がうまくかみ合って、訴えかけてくるのです。紙・スタイロ・木・金属・アクリル・石膏などの多様な素材をさまざまに加工したオブジェのような模型たち。図面と合っていなくとも、接着がきれいでなくとも、全部が出来上がってなくとも、やりたいことが伝わって見る者の想像力をかき立て、クリエイティビティを刺激するのです。時間とお金がかかったとしてもこの事務所が模型にこだわる意図が伝わってきました。


建築という三次元構造物のアイデアを提案するには、やはり三次元で表現するのが最も説得力を持ちます。ただ、模型は単に実物を縮小して見せるためだけではなく、表現の一つでもあります。同じアイデアの模型でも素材や表現方法が変われば伝わるものも変わるので、それがうまく合致した模型はデザインを一気に牽引することができます。模型とプレゼンはいかに表現して伝えるかという意味では似た側面も多く、そこが面白くて奥が深い。模型はバイトに任せるという状況も多いと思いますが、デザインを進めるような模型を作ることはそう簡単でもなく、良いものができるなら立場は関係ありません。ワクワクさせられるような模型を周りで見るたびに、良い勉強になり自分ももっと作ろうという意欲が高められます。考えながら作り、作りながら考えること。他の仕事が忙しい立場になっても、手を動かしてアイデアをすぐにカタチにするよう常に心がけたい。模型力は今もなお鍛えたいと思っています。

模型を並べたHdM のシャウラガーでの展示(2004)
展示されたさまざまな素材を用いた模型
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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特集:建築を生成するイメージ
2014.10 | 112p
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
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中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
2015.10 | 96p
インタビュー:石山友美
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インタビュー:野又穫
2016.10 | 128p
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
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2017.10 | 112p
インタビュー:五十嵐淳
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
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2013.10 | 120p
特集:アートと空間
松井冬子,井村優三,豊田郁美,
アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
​竹山聖,布野修司,小室舞,
中井茂樹
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2017.10 | 112p
インタビュー:米沢隆
池田剛介, 大庭哲治, 椿昇, 富家大器, 藤井聡,藤本 英子
倉方俊輔,高須賀大索,西澤徹夫
竹山研究室「驚きと喜びの場の構想」
平田研究室「建築が顔でみちるとき」
布野修司,竹山聖, 金多隆, 牧紀男, 柳沢究,小見山陽介