【インタビュー】 建築家・宮本佳明

        

 「終わり」のない建築

聞き手:谷重飛洋子、大橋茉利奈、阪口一真、宮原陸
2019.7.30 「ゼンカイ」ハウスにて

建築に欠落が生じた時、その建築は可能性を帯びる。
阪神大震災で生まれた「ゼンカイ」ハウスで設計活動を行っている建築家 宮本佳明氏。
建築に終わりはあるのか、終わらせないために何ができるのか。建築の欠落に挑戦的に向き合ってきた宮本氏に問う。

 

 船-土建空間論-

 ― 宮本さんの作品にはインフラ(土木)とインフィル(建築)をそれぞれで設計している作品が多くありますが、それらはどのように区別されていますか。残り続けるものと代謝していくものの線引きはどこにあるのでしょうか。
 
宮本 ― インフラとインフィルの線引きに決まりはなく、どこかに引けるということだけは確かで、それがどこかというのは相対的なもので、むしろ考え方の問題だと思います。
 『SHIP』では生えるように作ることを考え、コールテン鋼で斜面地に住宅を作りました。当初、『SHIP』は全部コールテン鋼で設計していたのですが、鉄がすごく値段が上がる時期でコストが合わず、部分的にコンクリートに置き換えたということがありました。竣工時に、敷地の裏側の普段見えない所をカメラマンがたまたま見つけて、このようなアングルの写真(下写真)を撮りました。僕にはこれが4階建て住宅に見えました。ここからが土建空間論の話になりますが、コンクリートの肌が土木の部分と建築の部分とで一緒ですから、どこから下がインフラでどこから上がインフィルとみるのか、線引きは自由に動かすことができるのかもしれないとこのとき気が付きました。『SHIP』と名付けたのは、中間の層のところが抜けていて、断面構成がフェリーボートのようだったからです。ところで、船には喫水線というものがあります。荷物があるとグーと船が沈んで、船体に対して水面が上がり、逆に荷物を下ろすと船体がぐっと浮いて水面が下がります。この喫水線の上下とインフラとインフィルの境界線の上下が重なりました。普段あまり見えないアングルの写真をきっかけに、考え方次第で線引きは変わるなと思いましたね。この頃から土木と建築の距離ということについて考え初めました。

『SHIP』

宮本 ― もう一つ事例があります。『クローバーハウス』という住宅は、元々あった石積みの擁壁をくり抜いて鉄板を立てて作りました。元々の地盤面が擁壁の上面ですから住宅はほとんど半地下なんです。コストの配分は、掘るのに3分の1、鉄板に3分の1で、建築といえるのは残りの3分の1だけです。そうなると、どこまでがインフラでどこまでがインフィルかを考えると、まあほとんどインフラに住んでいることになります。全てはものの考えようであって、こういった実例が重なっていくうちに、「Do-Ken marriage」と呼んでいますが、土木と建築の幸せな結婚があるんじゃないかと思うようになりました。残っていくようなインフラもあれば代謝していくようなインフィルもあり、その境目は気持ちの持ちよう次第ですね。インフラ寄りかインフィル寄りかという方向性は間違いなくありますが、どこに線引きをするかというのは自由じゃないかと思います。

『クローバーハウス』

  ― 一方で、「インフラやインフィル」と地形の違いをどう考えていますか。
 
宮本 ― 『bird house』がわかりやすいと思いますが、ここでインフラといえそうなのは、断面図で色の濃い部分の基礎です。鳥の巣箱を斜面に置くと転がり落ちますが、木の幹の股のところをうまく探してぽんと置いたら安定して乗ります。幹の股のところに乗った家型の鳥の巣箱のイメージから、『bird house』と名付けています。この股の役目が急斜面におけるインフラに必要とされていることだろうと思います。地形という「自然」と、建築という「人工」をいきなり隣接させてもうまくいかないので、間に入るのがインフラです。
 津波被害に遭って基礎だけが残った東北沿岸の風景は、地形に近いように感じられました。境目は動かせるけれども、少なくとも方向性があるので、建築本体よりは基礎の方がより地形に近いということはいえますね。

『bird house』断面図
『bird house』

 

  建築に終わりはあるのか

 ― 次に建築の終わりとは何か、建築の終わりをどう扱っていくのか、どう乗り越えていくのかについてお話をお聞きしたいと思います。宮本さんの作品のなかに使用者がいなくなったり、役目を終えたりしたものはありますか。

宮本 ― 建築のなかでも解体されたものはありますが、それ以上にインテリアがすぐなくなりますね。インテリアは更新の周期が短いです。建築を終わらせない方法もあると思うんですよ。『「ゼンカイ」ハウス』に引きつけていうと、木造の部分はやはり古いぶん朽ちていきます。それでも大きな地震が来ない限り、木造だけでも多分まだ建っていると思います。今は木造と鉄骨、両方それぞれで建っているんですね。だんだん木造がヘタってきて、鉄骨に頼っていったときに、だれかがまた将来改修してくれたら嬉しいですね。今、日本の建築の寿命は人間の寿命よりも短いですから。世代を超えて継承していってほしいですね。北九州の八幡の市民会館の保存改修に関わっているんですけど、五十嵐太郎さんを呼んでシンポジウムをしたんです。そこで五十嵐さんはオルセー美術館について、「使い道がわからなかったら一回封印しておけばいい。そして100年くらい経ってだれかが使い道を見つけるかもしれないから」と話していました。ただ、日本の場合は空き家になるとすぐ朽ちていきますよね。そこに問題はあるのですが、ただなぜ即解体するのかがわかりません。市民の方が解体を望んでいますからね。


 ― 建築の終わりはできるだけ引き延ばすべきだと考えていますか。

宮本 ― 引き延ばしたいと思うんですけどね、建築は「記憶の器」ですから。先ほどの東北の大震災での家の思い出の話とかもそうですが、空間と体験は一体に記憶されています。昔、阪急今津線に乗って中学・高校に通っていました。試験のときには単語帳をめくりながら電車に乗っていました。で、いざ試験のときになったら単語の意味は思い出せないのに、あそこの踏切を通ったときの単語ということだけは覚えているんですよね。場所と記憶はセットなんです。場所を消してしまうというのは本人の記憶が何らかの形で棄損されるということです。だから、場所や建築は残すべきだと思います。

 ― 最近建築をデジタルで保存しようという試みが行われていますよね。形を保存して、場所と「もの」自体は無くなってしまうというのは、「記憶の器」としての建築が本当に保存されているのかという懸念があります。

宮本 ― 同じ懸念を感じました。むしろ、基礎だけでも本物が残っていた方が良いのではないか。そこから、イマジナリーに上に空間を立ち上げることができますから。根があったらそこからもう一回生える気がするわけですよ。記憶のよすがというか、そういう意味で基礎に気持ちがいくのかもしれないなと思います。

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