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【対談】鈴木まもる×大崎純

        

 鳥から学ぶ巣の形

 

 

【キムネコウヨウジャク -揺れを受け流す巣ー】

 

大崎――キムネコウヨウジャクの巣(図8)は、風で揺れても卵が落ちないのですか。

 

鈴木――はい。産座(註:卵を産み、ヒナを育てる場所)はお椀型に区切られているので卵は落ちません。キムネコウヨウジャクの巣自体は数グラムじゃないですかね。鳥の巣で重いのはセアカカマドドリくらいで、あとは本当に軽いです。でも強度的にはしっかり枝に固定されているので、巣も落ちることはありません。

 

大崎――軽さと強度には、内部構造も関係すると思います。風が吹くと揺れるわけですよね。細いところを固くつくると、ポキッと折れてしまいますが、柔らかくすると、風や地震で揺れても、なかなか折れない。建築の力学でいう柔構造です。例えば、建築の超高層のビルは揺れるようにつくってあるので、それと似ていると思います。そういうことも鳥は知っているわけですね(笑)。

 

鈴木――ええ、キムネコウヨウジャクのなかには巣の中に泥を塗ってるものがいるんです。時々泥を入れて、あまり揺れすぎないように考えているのかもしれません。

 

大崎――はい、風には揺れにくいと思います。

 

鈴木――ハチドリの仲間の鳥で、巣の下の方に小さい石をクモの糸で巻き込んで重しにする鳥もいます(図9)。先の方は揺れやすいんですけど、これだと揺れが少なくなるんです。

 

大崎――場合によりますが、重しを入れている方が安定するということですね。長さによって固有周期が変わるので、揺れ方も変わると。重りを入れて張力が変わる効果があるというのは、非常に面白いですね。

図8 キムネコウヨウジャクの巣(提供:鈴木まもる)

左:下の筒状部分が入り口、左の丸い部分が産室。人間の妊婦さんのお腹の形と同じ

​右:巣の形成過程

図9 コシアカユミハチドリの巣 (提供:鈴木まもる)

【アカガシラモリハタオリドリ・シャカイハタオリドリ ー気候に適応した巣ー】


 

大崎――鳥の巣は、暑いところと寒いところで性質が違うんですよね。

 

鈴木――環境はものすごく大切で、それぞれの環境に適応した形や材質になっていると思います。

 

大崎――例えば、アカガシラモリハタオリドリの巣(図10)は通気性が良いと『生きものたちのつくる巣109』に書かれていますが、生息地はアフリカですか。

 

鈴木――はい、南アフリカですごく暑いところです。なので、よく見ると結構粗い枝で出来ているんです。鳥さんは、細い枝の皮を剥いて、その皮を他の枝に結んでつくっています。

ハタオリドリというのは総称で、ほとんどはヤシの葉っぱを編んでいくのですが、この種は枝と枝の接点を結んでつくっています。

 

大崎――すごい技術ですね。

 

鈴木――だから、見た目はスカスカしているのですが、触るとガッチリしています。風通しが良いけれど、壊れない。その環境に適応して、いろいろその場で工夫した巣をつくっているように感じられますね。

これはシャカイハタオリドリという鳥の巣(図11)で、アカガシラモリハタオリドリの巣がいっぱい集まったと思ってください。10mくらいあります。一羽の鳥の巣じゃなくて、何百羽がみんなで共同して、大きな巣をつくっていきます。なぜかというとここは砂漠地帯だからです。日中気温は40度以上になりますが、夜は-10度以下になってしまう。ところが巣と巣の間を草がびっちり埋め込んでいて壁が厚いので巣の中はいつも26度に保たれているんです。人間が草を集めてつくる茅葺屋根と、見た目は同じですね。

日中は巣の中で涼んで、夜は巣の中でおやすみするということで。この子たちに限って、巣立った後もここで一年中暮らすので、毎年繁殖期に新しい巣を増築し、巣は年々大きくなっていくのです。

図10 アカガシラモリハタオリの巣

(提供:鈴木まもる)

枝の先の皮をむき、他の枝に結びつけている。形自体はキムネコウヨウジャクと同じで、下の筒状の部分が入り口

図11 シャカイハタオリの巣(提供:鈴木まもる)

何百羽もの鳥が毎年増築していく。外の気温は日中40度以上。夜間は-10度以下だが、室内は常時26度

【ニワシドリ -求愛の舞台-】

 

鈴木――ニワシドリの東屋(図12)というのは巣ではなくてオスがメスを呼ぶためにつくるものなんです。ニワシドリは、この東屋づくりが上手かどうかでオスを選びます。ここでは卵も産まないし、暮らすこともないんです。巣はメスがこのそばにつくります。

 

大崎――チャイロニワシドリの東屋は、柱のまわりにつくっている訳ですね。

 

鈴木――はい、そうです。この写真は、東屋の中の柱の根っこの部分なんですよ。

 

――元から生えている枝のうち1本を太くしていくのですか?

 

鈴木――1本自然な木があって、そこに苔などで柱を太くしていく感じです。

 

大崎――中心となる柱を先に作って、それから屋根をつくるのですか。

 

鈴木――正確な手順は分からないですね。ニワシドリの東屋は一発で仕上げるというよりは、ずっとつくり続けていくもので、途中経過しか見られないんです。ただずっと増築していくから、少しずつ補強を積み重ねていってるのかなという感じはします。

 

大崎――シェルのようなものではなくて、普通の枝が絡み合うことによる剛性で出来ているということですね。

図12 チャイロニワシドリの東屋(提供:鈴木まもる)

巣の役割​

鈴木――鳥の巣というと、鳥さんのお家だと思っている方が多いですが、そうではなくて、卵とヒナを安全に育てる場所だと思うんです。キムネコウヨウジャクの巣(図8)を見ると分かりますが、筒状の部分が入り口なんです。で、膨らんでいる部分が産座といって卵が入っているところなんです。要するに、人間の妊婦さんのお腹の形と同じだと思うんですよね。人間はお腹の中で赤ちゃんを育てますが、鳥さんはそうすると体重が増えて飛べなくなってしまうので、子宮の役割をもつ部分を別のところにつくって、子どもを育てるようになったのではないかと思います。

けれども卵やヒナは栄養があるので他の動物が食べたがります。敵に見つからず、暑さ寒さに耐える環境をつくるために工夫を重ねて、こういう形になったのではないかと思います。

 

大崎――鳥の巣が卵やヒナを育てるためのものだというのは、多分、普通の人は十分に理解していないと思います。私も鳥が住むところのように思っていました。ですから、他の生物の巣や人間の家とは目的が全然違うということですね。

 

 

巣の成り立ち

大崎――一般的な話ですが、鳥の巣づくりというのは、つくり始めると決まりきった動作を続けていくだけなのか、あるいは場合によっては途中で方法を変えることがあるのか、教えていただけますか。

 

鈴木――そもそもどうやって鳥が巣をつくるかというと、人間がろくろを回してお茶碗をつくるように、鳥さんは自分を中心として回りながら巣をつくっていくんです(図13)。コチドリさんという、地面に卵を産む鳥がいます。その鳥さんは丸い卵が転がっちゃう不安が出てくると、転がらないように石を持ってくるんです。更に、別の方向から蛇が来て食べられちゃうんじゃないか、風が吹いてきて飛ばされるんじゃないかという不安が出てくるたびに石をいろいろな方向に対して置く。

 

大崎――形が最初から端的に決まっているのではなくて、それぞれの段階で本能的に判断しながら形が出来ていくということですね。形そのものではなく、つくり方を本能として知っていると。


鈴木――そうですね、鳥の種により巣のつくり方は違いますが、基本的には外装(大きさや長さのある巣材)から始まり、内部にいくに従い細かく繊細な材料になっていきます。何か出来上がりのイメージがあるのだと思います。環境に合わせて、どういう場所で何を集めると安心できるかというのが、本能的に受け継がれているのではないかと思います。

回りながら石を集める

①周りながら石を集めるので、石を集めた平たい巣ができる。 

積み上げて

②周りながら、積み上げていく。お椀型になる。

回りながら.jpg
入り口が下

③周りながら、もっと自分を囲うように集めると、球体の巣になる。入り口を、横に出していった巣。(左)

 入り口が下向きになった巣。枝先で外敵が近づけない巣。キムネコウヨウジャクの巣。(右)

図13 巣の成り立ち (画:鈴木まもる)

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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