【対談】 鈴木まもる×大崎純

        

 鳥から学ぶ巣の形

聞き手:雨宮美夏 石原佳苗 竹岡里玲英 久永和咲
2020.8.4 ZOOMにて

 一般に動物の住処を指す「巣」のなかで、この企画では鳥の巣に注目する。身の回りの物を拾い集め、構造的な知識をもたず設計図も描かずして生まれた巣の形態には、目を見張るものがある。巣の研究の多くは環境や生態に関するものであるが、今回は構造的な視点からの追究を試みる。

 対談に先立ち、鈴木氏の著書である『鳥の巣の本』『世界の鳥の巣の本』『生きものたちのつくる巣109』『鳥の巣いろいろ』から大崎教授に興味をもった形態の巣を選んでいただき、鈴木氏にはそれらの巣のつくられ方、その鳥の習性等について資料をご用意いただいた。

鈴木まもる(左)大崎純(右)以降敬称略

大崎――私は構造の形を決めるような研究をしてきたので、建築の中では特殊な形状に興味があります。生物に学ぶということも、以前から研究のなかで色々と調査していました。今回このような機会をいただいて、非常に嬉しく思っています。


鈴木――僕は子ども向けの絵本を描いています。30年くらい前に今住んでいる伊豆の山の中で暮らすようになり、家の周りで、使い終わった鳥の巣を目にするようになりました。僕は絵も描くことも動植物も、物をつくるということも好きなので、最初鳥の巣を見つけて造形として興味をもち、鳥の巣の世界に入り込んでいったんです。自分なりに造形的なことを調べたり、鳥の巣関係の本も出したり、展覧会で実物の巣を見てもらったりしています。

鈴木氏のアトリエ (提供:鈴木まもる)

 

 鳥の巣の形を読み解く

多様な鳥の巣

――まずは、大崎先生が興味をもたれた巣についてお話しいただきます。

 

【キジバト ー雑然とした巣ー】

 

大崎――キジバトの巣(図1)は雑然とした形で、単に枝を積んだだけのように見えますが、力学的にどのように成り立っているのでしょうか。建築の構造に、割り箸を交互に組み合わせてつくる屋根のようなレシプロカルストラクチャーという構造(図2)がありますが、これは力学的には弱いので日本ではほとんど見ませんし、恒久的な建物には使われないと思います。摩擦と接触による機構で成立しているのですが、キジバトもそのようなことを知っているのでしょうか。キジバトの巣材の細い枝がどのように組み合わさっているのかお聞きしたいです。

 

鈴木――枝の分かれ目などに、棒を置くようにしています。おわん型の巣と違って、キジバトさんの巣は平たいので細い枝を木の枝にとめずに乗せていく感じですね。ですから、おっしゃるように構造的には弱いです。少しずつ差し込んだり、上から押したりしていくことで、だんだん定着していく。キジバトさんの場合、巣づくりの最初はメスがいつも巣をつくる場所にいて、オスが巣材を運ぶんです。

 

大崎――大きい巣材を持ってくるわけではないですよね。どのように置いていくのですか。

 

鈴木――オスが巣材をくわえて持ってきて、メスに渡すとメスが自分の体の中に差し込んでいき、体で押して維持していくような感じです。だから、他の巣に比べるとかなり壊れやすいです。

図1 キジバトの巣 (提供:鈴木まもる)
図2 レシプロカルストラクチャー
 (提供:Dr. Yan Su and Prof. Yue Wu, ハルビン工業大学)

【セアカカマドドリ -固い泥の巣-】

 

大崎――セアカカマドドリの巣(図3)は泥でできているのですね。枯れ草に泥をかけていくのですか。

 

鈴木――ツバメさんも口の中で土と藁を混ぜて運びますが、これもそうですね。泥の割合が高くて、結構重いです。土をクチバシでくわえてペタペタとこねていったり、足で踏んだりしています。

 

大崎――藁を混ぜて強度をあげているわけですか。木造の家の土壁みたいですね。

 

鈴木――はい、これは本当にカチンカチンです。もうものすごい固さです。この鳥が生息する地域の人はこの鳥の巣を真似して土に藁を混ぜて土壁をつくるようになったといわれています。

 

大崎――コンクリートは普通、鉄筋を入れますが、最近は繊維補強という細かい繊維を混ぜる方法もあります。ですから、土壁のような構造にも似ているということですね。

建築や機械構造にはシェル構造という曲面によって強くする構造があります。この巣もシェル構造みたいなものだと思います。非常に頑丈ですね。

 

鈴木――そうですね。鳥はある一定期間は巣に住みますが、巣立ってしまうともう使いません。巣立つまでの間きちんと維持されるように巣をつくります。セアカカマドドリの巣は固めてあるので今も壊れていませんが、通常は雨風で壊れてしまうので、その度につくるということになっているのだと思います。

 

大崎――では、この頑丈な巣も1回しか使わないのですね。

 

鈴木――はい、巣立ちまでの2ヶ月くらいですね。飛べるようになったら外の方が安全なんですよ。万が一、蛇とかが来てしまうと逃げられないじゃないですか。

 

――壊れないのに1回しか使わないのは、自分でつくった巣の方が安心だからですか。

 

鈴木――そう、やはり自分でつくったということが安心感を生むので、他の個体がつくった巣が残っていたとしてもそれは巣として認知しません。これもセアカカマドドリの巣なんですけど、巣が積み重なっているでしょう(図4)。下の巣はもちろん壊れていませんが、自分でつくらないと安心できないのだと思います。この巣(図5)も同じです。使い終わった巣の下に全く別の種が、巣をつくりますが、場所として利用しただけで、繋がっているわけではありません。

 

大崎――巣をつくるのに適した場所というのがあるわけですね。

 

鈴木――セアカカマドドリの巣だと高い枝の上や、人間の建物の壁にもつくってしまうようです。僕が持っているセアカカマドドリの巣は、牧場の杭の上にあったそうです。敵が襲ってこない、安全だと思える場所に巣をつくります。

図3 セアカカマドドリの巣(提供:鈴木まもる) 穴の奥の壁面に入り口があり左側の部屋にはいれる
図4 積み重なったセアカカマドドリの巣
 (提供:鈴木まもる)
図5 コメンガタハタオリの巣(提供:鈴木まもる)
左側は昨年の巣の下に別個体が新しいものをつくった巣。二階建てではなく、途中でふさがっている

【カンムリオオツリスドリ ー上から吊られた大きな巣ー】

 

大崎――カンムリオオツリスドリの巣(図6)は最初に見たときつくる順番が分かりませんでしたが、上からつくっていくんですね。ぶら下げながら編むということですが、鳥はどのように編むのでしょうか。

 

鈴木――これが実物です。

 

大崎――すごく大きいですね。

 

鈴木――もっと大きいものもありますよ。上から順に繊維を絡めていって下に下に垂らしながら、クチバシで編み込んでいきます。適当な長さになったらおわん型をつくって閉じます。

 

大崎――植物の繊維を編むのですか。

 

鈴木――はい、枯れ草や根を使っています。

 

大崎――カンムリオオツリスドリの巣は一番上に重さが全部かかってますので、上が丈夫である必要があると思うのですが、どのようになっていますか。

 

鈴木――一番上は枝に絡めて巻きつけるような感じ。枯れ草は細いですけれど、かなりの数が絡み合ってるので、相当な強度だと思います。

ハタオリドリ(図7)だと、ヤシの葉っぱを細くさいて、枝先の二股に絡めて編んでいきます。やっていることがものすごく細かいですね。

 

大崎――接着はしていないですね。

 

鈴木――クチバシで入れたり出したりして、編み込んでいます。


大崎――巣づくりにはすごく時間がかかりそうですが、どれくらいの時間でつくるのですか。

 

鈴木――交尾したあと卵を産むまでのあいだだから、そんなに長い時間ではないです。おおよそ2、3週間くらいでしょうか。個体差もありますし、鳥の種類によっても異なりますが、何ヶ月もかかるものではありません。

 

大崎――私の部屋のクーラーの排気口のところにツバメが巣をつくったんですよ、今年(笑)。5月ごろヒナが鳴いてうるさかったんですけれども、そのときも2、3日で、一瞬のうちに出来たんですね。

 

鈴木――ツバメさんはかなり速いですよね。あれは水を混ぜているので、あまり一度につくると落ちてしまうから、半日くらいで中断して乾かした後、また付け足していきます。

図6 カンムリオオツリスドリの巣
(提供:鈴木まもる)
高い木の枝先にぶら下がっている
図7 ハシブトハタオリの巣(提供:鈴木まもる)
ハタオリドリの一種。水の上に出たパピルスの茎に巻き付けてつくるため外敵が近づけない
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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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