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【リレーインタビュー】 インテリアプランナー・藤江和子 

  家具-そこに座るものがあること

 

 

 建築家との協働 

〜家具制作を取り巻くもの〜

 

ーーここからは建築家と家具という関係性に着目していきたいと思います。藤江さんは様々な建築家と協働されていることが多いように見受けられますが、そのなかでも伊東豊雄さんとの協働作品である多摩美術大学の図書館は印象的だと感じました。前回のリレーインタビューに登壇していただいた満田さんともこの時に出会われたとお伺いしています。このような建築家との関係性のなかで作品が生まれていくプロセスについていくつか質問していきたいと思います。

ーー作品集では、例えば建築の基本設計や工事中など様々な段階からプロジェクトに参加されているというお話が書かれていましたが、制作に携わるタイミングによって家具デザインの構想に違いはあるのでしょうか。

 

違うと思いますね。コンペを一緒に行うときと、基本設計や実施設計の段階、もうすぐ建物が出来上がる竣工前では、それぞれ考え方が大きく違います。例えば、よくご存知の岐阜のメディアコスモスは、コンペのときから一緒にやっています。そうすると共有できることも幅広く深く、目指すところにずれが生じません。

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みんなの森 ぎふメディアコスモス 内観 (Photo Credit:浅川敏)

ーー藤江さんの側から建築に働きかけることはあるのでしょうか。

 

同列にいるわけではないけれども、意見は申し上げますね。使う側の感覚というのに近いのだと思います。建築の方はもっと広く大きな視点で、大きなところまで意識を持っているとは思いますけれども。つまり、全部総括的にものを考えると思います。テキスタイルの人はテキスタイルのことを考えていますけれど、彼らも建築家の大きな範囲のなかで動いているという意識をもっていると思うのです。そのような意味では、私たちは他のデザイナーとは併走するというか、そうするとはいっても一つの中にいるから、目指すものは同じところになるということになりますね。

ーー具体的に、多摩美術大学の図書館についてお伺いします。建築家である伊東豊雄さんとどのように協働し空間を構成されたのでしょうか。

伊東さんのことは昔からよく知っていたのだけど、仕事をするのは多摩美術大学図書館が初めてでしたね。この作品は、とにかく時間がありませんでした。最初にお話をいただいた時点で、既に建築が着工していたのです。そのようなスケジュールのなかでも良い空間をつくることができたのは、建築がもっている特徴が明確だったから、それと伊東さんと私の考えに共通する部分があったからだろうと思いますね。伊東さんは当時多摩美術大学で客員教授をされていたのだけれど、たまたま私も客員で同時期に同じように学生に接していました。体験的に、また経験的に、学生や周辺環境への視点が似ていたのだと思います。

ーー時間がなく言葉で綿密に意思疎通を取ることが難しい状況のなかでも、お二人の共通の観点があって建築と家具の向かう方向が一つになったのですね。

 

そうですね。伊東さんからは図面を渡され、家具を見てほしいと一言あっただけでした。最初にいただいた図面がこれ(下図)です。先程も言いましたが、この時もう着工していたのですよ。

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多摩美術大学図書館  伊東豊雄建築設計事務所による家具配置案 旧図面 (図面提供:藤江和子アトリエ)

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藤江和子アトリエによる家具配置検討 初期スケッチ  (スケッチ提供:藤江和子アトリエ)

ーー家具のレイアウトが入っていますね。

 

そう、これで一応図書館として成り立ちますよ、という家具の配置計画が書かれていました。このとき想定されていた本棚は、7段か8段くらいの背の高いものでしたね。まず建築の簡単な模型を制作して空間の理解をするのですが、私の目にはこの図書館が森のように映りました。そうなると、本棚は考え直す必要があります。このように直線的に本棚が並んでいると、森を歩くようには移動できないからですね。また、せっかく建築がガラスで周りの風景が見えるよう計画されているのに、背の高い本棚で視線が遮られてしまうのは非常に勿体ないと感じました。そこから、約1週間で私が提案できることをおおまかにまとめ、こういうことが実現できるのであれば、このプロジェクトに参加しますと伊東さんにお見せしました。これで本が入るのか、と驚いていましたね。

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多摩美術大学図書館  藤江和子アトリエによる家具配置 新図面 (図面提供:藤江和子アトリエ)

ーー伊東さんは、蔵書を収納するためには本棚に高さが必要だと考えていたのですね。

 

私は、提案するにあたって蔵書の入れ方から考え直しました。美術学生が主に利用するので彼らが手に取る頻度の高い芸術系の本を中心となる空間に置くことにし、そこに背の低い曲線的な本棚を設計しました。そうすることで、建築の特徴が活きて、窓の外の風景を感じながらも森の中を散策するように本に出逢うことができるのです。文学や工学系の難しい本があっても手に取ることが必要となる機会は少ないので、大きく開けた窓とは逆側に配置し、収納能力の高い背が高く直線的な本棚を密に配置しています。もう一つデザインについて言わせていただくと、美術系を入れる曲線的な本棚では、棚の有効高さ寸法を大きくとっています。小さな本も美術系の大判の本も入るし、そうでなくても隙間が多くできるので、見通しが良くなりますよね。

ーープロジェクト一つといっても考案された家具はたくさんの種類がありますね。

 

そうですね。取り組んだ期間は1年ほどだったので、短い時間で一挙にできましたね。本棚に加えて机や椅子の数々を設計しましたが、そのどれもが一つの感覚と思想のなかから出てきています。繋がりがあるので、違和感がないのだと思います。

ーー複数の家具も一つの思想から出てくるというお話がありましたが、その思想は建築や利用者、また敷地環境、つまり設計の条件から出てくるものとおっしゃられているように聞こえました。藤江さんの内に存在する思想から作品をつくることはありますか。

それはほぼないと言っていいですね。建築が先にあらわれるところから、私の家具設計は始まります。自分が作家であるという意識はありませんので、何らかの場、ヴォイドとしての環境が必要であり、そこからインターフェイスやインフルエンスする思想が起ります。

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多摩美術大学図書館 内観 (Photo Credit:浅川敏)

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2017.10 
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2020.01 
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2020.11 | 
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2021.11 | 
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