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【リレーインタビュー】 構造家・満田衛資 

  住宅という巣

―「巣ごもり」の期間を経て 

ーースキップフロアのある空間で、自粛期間はどう過ごされましたか。

 

上の子どもが大学生なので自分の部屋でオンラインの授業を受けている傍ら、僕は地下の書斎からオンラインで授業をしているという光景は、今までにない生活シーンでした(笑)。気配は相互に感じられるようにしておきたいという妻のリクエスト通り、狭い家なので、気配はやっぱり感じられます。コロナで皆が家にいる時でも大体リビングにいるんですよね。しかし自分の場所へ戻りたければ戻っていけますし、リビングで遊びながら人が抜けたり入ったりということのしやすさはあるのかなと思います。

 

 

ーー家族が家に集って過ごす時間が増え、これから住宅はどう変わっていくでしょうか。

 

リモートが進んだことと、企業の働き方改革とが重なったことで、住宅に関する価値観を変えようと意識するまでもなく、強制的に変えられています。価値観を変えましょうと口で言っても無理ですが、今回半ば強制的に価値観の変容を体感できたことで新しい可能性に気付き、自分の価値観を改める人は一定数出てくるはずだと考えています。その時に感じ取ったことをいかに形にできていくかが重要ですよね。それが個々の建物の平面の話なのかもっと街区的な話になるのか、そこまではわかりませんが、それが住宅の中にどう入り込んでくるかですよね。家の中に閉じ籠ってテレワークをしようとした時、それは情報の回路が繋がっていて初めて成立する話です。なので家の中の様々なネットワークの充実度も当然問われてくることになりますし、ほとんどは無線LANのような技術的な話で解決されそうな気もします。とはいえ、個々のスペースは必要なんですよ。子どもが授業を受けながら僕が授業を発信してというのも、同じ空間の隣同士だと絶対にダメなんです。その時にはそれぞれのスペースに戻らないといけない。たまたまうちの場合は予め適切な空間が用意されていたと言えるのですが、ちゃんと充実した個室があればそれでいいのでしょうか。都市と地方でも考え方が変わってくる話だと思います。

 

ーーリモート化によって、皆がいる公共を求める人たちと、家に家族が多くてテレワークする場所がないなどの理由から一人になりたいという人たちと、ベクトルが両方向に進み始めているのかもしれませんね。

 

一人の空間を充実させることの意味が大きく関わってきそうです。この家に関していうと、子どもたちの個室も決して快適な空間として用意してあげられたわけではありません。快適な場所はいくらでもあるから出ておいで、というようなつくりにしているんです。たぶん子どもはそういった親の目論見に気づいて、自分たちで交渉し合ってカスタマイズする方向になっていったんですよね(笑)。それこそもっと大きな規模で都市のように賑やかでキラキラして見える場所に出て行きたくなるタイプの人と、自分の居心地のいい場所があればそれでいいという人と、それはどちらも有り得ると思います。だから僕は家づくりに関しては、家族が家の中でちゃんと集まれるスペースを設けることはかなり優先度が高いと考えています。やはり、空気の質を区分するという意味を除いて、基本的に壁は少ない方が良いんですよね。壁を建てるとそれだけまたお金もかかりますし(笑)。それは構造のこととも関係しています。木造でこのサイズの住宅を中に柱を通さずに建てるのはそう簡単ではないんですよ。梁せいは普通より大きくし、柱も幅が105mm、奥行きが普通の3倍近くある300mmのものを使ってラーメン構造にしています。その辺は自分の構造の知識を総動員して、壁なしで一室空間にするということを達成できています。

 

 

ーー次につくるとしたらどんな住宅をつくりたいですか、最後にお聞かせください。

 

次はもう子育ても終わっているので、趣味に徹した家ですね(笑)。今の家を建てたときは経済的にゆとりがあったわけでもないので、これが限界でした。もう全部真っ白に塗ってしまっていて、素材感もあまりないんです。ただ、一般的な京都の家の側面のデザインしてなさが気になっていたので、全部同じデザインでニュートラルに回すということは注力しました。一番長尺で取れる材が継ぎ目の見えないようにするにはどこに窓を配置すべきかも検討したりして。なので次はある種、藤森照信さんのように、色々な素材を試しながら道楽的な感覚で建築をつくってみたいという思いがあります。もう一度くらい設計するチャンスがあるんじゃないですかね。

比叡山を望む開口
上階からの光が差し込む階段
満田衛資 Eisuke MITSUDA
 

Eisuke MITSUDA, born in Kyoto, Japan in 1972, is a professor of the Faculty of Design and Architecture, Kyoto Institute of Technology.

He studied at Kyoto university, where he received master's degree in 1999 and Ph.D in 2014.

After working for SAPS/ Sasaki and Partners, he established his design office, Mitsuda Structural Consultants, in 2006.

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
BACK NUMBER
18
2017.10 
インタビュー:五十嵐淳
interview:
project:
essay:
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,
五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
17
インタビュー:野又穫
2016.10 
interview:
project:
essay:
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
16
2016.1
interview:
project:
essay:
中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
特集:アートと空間
2014.1
14
interview:
project:
essay:
松井冬子,井村優三,豊田郁美,アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
竹山聖,布野修司,小室舞,中井茂樹
特集:建築を生成するイメージ
2015.1
15
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
interview:
project:
essay:
20
2020.01 
takeyamalab.jpg
Traverse.jpg
​満田衛資, 蔭山陽太, 鈴木まもる×大崎純
学生座談会
小椋・伊庭研究室
小林・落合研究室
平田研究室
三浦研究室
​井関武彦, 布野修司, 竹山聖, 古阪秀三, 牧紀男, 柳沢究,  小見山陽介, 石井一貴, 菱田吾朗, 岩見歩昂, 北垣直輝
interview:
 
project:
 
 


 essay:
インタビュー:満田衛資
2020.11 | 
21
ABOUT
インタビュー:
   木村吉成&松本尚子
discussion:
 
project:
 
 
 
essay:
​木村吉成&松本尚子, 宮本佳明,伊藤東凌,井上章一
竹山研究室「オブジェ・アイコン・モニュメント」
神吉研究室「Projects of Kanki lab.」
​金多研究室「自分の仕事を好きにならな」
布野修司,竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究,清山陽平,成原隆訓,石井貴一
2018.10 
19
インタビュー:米沢隆
workshop:
discussion:
project:
 
 
 
essay:
池田剛介, 大庭哲治, 椿昇, 富家大器, 藤井聡,藤本英子
倉方俊輔,高須賀大索,西澤徹夫
竹山研究室「驚きと喜びの場の構想」
平田研究室「建築が顔でみちるとき」
布野修司,竹山聖, 金多隆, 牧紀男, 柳沢究,小見山陽介
22
2021.11 | 
インタビュー:藤江和子
interview:
 

project:
 
 

 essay:
山岸剛,後藤連平,
岸和郎×平田晃久,
竹山聖×小見山陽介
​平田研究室
ダニエル研究室
高野・大谷研究室
西山・谷研究室
布野修司, 古阪秀三, 竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究, 小見山陽介,大橋和貴, 大山亮, 山井駿, 林浩平
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