応急仮設住宅の温熱環境

修士課程1回生 難波良樹

(左)軽量鉄骨造の仮設住宅(岡山県倉敷市)、(右上)木造の仮設住宅(岡山県倉敷市)、

(右下)トレーラーハウス型仮設住宅(岡山県倉敷市)

仮設住宅の温熱環境に関する現状と課題について

 災害大国である日本では近年、地震や豪雨など、特定の地域に甚大な被害をもたらす自然災害が毎年のように起こっている。災害によって住む場所を失った人々に対し、応急仮設住宅(以下、仮設住宅)が建設され、供与される。仮設住宅の建設時には低コストで短工期かつ大量供給といった要素が優先されるため、恒久住宅と同等の環境性能を与えることは難しい。これまで仮設住宅の環境に関して多くの研究がなされてきており、その成果もあってか、環境性能は近年かなり向上してきたといえる。しかし、夏の暑さ、冬の寒さや結露やカビの発生など、入居者が温熱環境について抱える問題はなくならないのが現状である。そこで仮設住宅の仕様を決める都道府県等の自治体や建設を行う業者に対し、単に「もっと断熱材を増やしてくれ」などと求めれば良いという話でもない。上述の通り災害時にはできるだけ早くたくさんの人々を助けるために、短期間で多くの仮設住宅を建設することが求められる。断熱材など仕様の変更があった場合、コストの増大や工期の遅れに繋がり、被災者への供与が遅れる恐れがある。また利用終了後の再利用システムにも支障が生じてくるという。

研究での取り組みについて

 こうした制約の中で、筆者らが取り組んでいる研究では仮設住宅の温熱環境改善のためにできるアプローチの一つとして、「入居後において、入居者自身の住まい方の工夫や、入居者あるいはボランティア等、専門ではない人でも実践できる改善策」を提案することを重視している。具体的には、2018年西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市に建設された仮設住宅について、実際の仮設住宅の環境や住み心地がどのようなものかを把握するために、入居者への聞き取りや温湿度実測といった現地調査、住宅モデルに気流解析手法を適用した室内の温湿度分布の評価を行っている。また倉敷市ではプレハブ(軽量鉄骨造)・木造・トレーラーハウスといった異なる構造の仮設住宅が建設されているため、それぞれに対し温熱環境の課題を明らかにした上で、改善策を示したいと考えている。

被災者の生活環境を改善するために

 仮設住宅はあくまで仮設であり、恒久住宅ではないため、ある程度環境性能が低くても仕方がないと考える人もいるかもしれない。しかし仮設住宅は、被災者の生活手段の確保だけでなく、被災者が災害から立ち直り、人生の新たな一歩を踏み出す「復興」の前段階を担う場という大きな役割があると考える。したがって、その新たな一歩を踏み出す準備の場として、その環境をより快適なものにすることは極めて重要だろう。上述のとおり、供給側に対し仮設住宅の高性能化を単に求めるだけでは現実的でないが、より住み心地のよい住宅を提供することの必要性を訴え続けていくことが大切であると考える。仮設住宅供給を所管する内閣府では柔軟に運用できる制度の設計であったり、設置者である都道府県等の自治体では用地の確保や迅速な対応体制の強化であったりと、それぞれの役割がある。筆者らは建築環境工学の立場から、入居後における効率的な温熱環境改善手法を検討し、被災者に示すことに加え、実際に建設・供給を行う事業者には、居住後にも環境改善を図ることが出来る余地を残しておくことを提案し、被災者の生活改善に貢献したいと考えている。

 

 

 

 

【参考文献】

1) 難波良樹, 伊庭千恵美, 小椋大輔:「倉敷市のトレーラーハウス型応急仮設住宅における温熱環境の改善点の検討」,日本建築学会近畿支部研究発表会,vol.60,pp.273-276,2020

2) 大水敏弘:「実証・仮設住宅 東日本大震災の現場から」, 学芸出版社, 2013

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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