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三泉商店街再生プロジェクト「のきさきあるこ」

 

修士課程2回生 菅野拓巳

商店街の衰退

 商店街を取り巻く環境は、人口減少、少子高齢化、IT化等の商店街外部の要素と、経営者の高齢化、人手不足等の商店街内部の要素の両方から大きく変化しており、小売業の事業所数は近年大きく減少している。特に、地域住民の利用が主となっている近隣型・地域型商店街1)において、空き家数は年々増加しており、閉店してシャッターを下ろした状態の商店が並ぶ様子は「シャッター商店街」と呼ばれ、久しく問題視されている。商店街実態調査報告書によると、商店街の空き店舗が増加の一途をたどる要因の一つとして、店舗所有者が閉店後も倉庫や住居として利用して、新たな事業主に店舗空間を貸す意思がないことが挙げられている。こうした店舗兼住宅の職住機能の分離は全国的に取り組まれているが、商店街だけでは調整が進まないというのが現状であり、店舗部分に新しいテナントが入ることは簡単ではない。

「のきさきあるこ」の開催

 三浦研究室では、昨年度大阪市大正区三泉商店街を対象に「のきさきあるこ」というイベントを開催した。当商店街は大正駅から徒歩5分のところに位置しているため人通りは多いが、空き店舗の割合が高く自転車の通行動線となってしまっており、現在そういった空き店舗を対象とする事業者による空き家活用が進められている。

 「のきさきあるこ」は、商店街の空き店舗の前に屋台を設置し、そこに同大正区の店舗を呼び込んだイベントである。当イベントは、①三泉商店街のエリア的なポテンシャルを上げること②部分的な貸借によって盛り上がりが生まれる姿を拡散すること、という2つのコンセプトをもって開催された。来場者や売り上げの増加により空き店舗への出店希望者を増やすことと同時に、軒先を貸すことによって生まれた盛り上がりを見た空き店舗の所有者が一部だけでも店を貸そうという気持ちを持ち始めることを目指した。

 また一方で、商店街の活性化を志したイベントは全国的に多く開催されているが、それらのほとんどが一時的な活性化に留まってしまっているという問題がある。その理由としては、高齢化が進む商店街にイベントを継続する余力がないことや、イベントに対するモチベーションが低下すること等が挙げられている。これに対し今年度開催予定の第2回のきさきあるこでは、商店街の外からのイベント時出店者を主体としたイベント開催を行うことにしている。イベントの運営に商店街の外の店舗を組み込むことで継続的にイベントを開催し続ける力が生まれる可能性が高い。また商店街の店舗にも商品の出店を依頼することで両者がイベントを通じて交錯し、地域が一体となったイベントになっていくことを期待している。

 

 

 

 

商店街のこれから

 商店街がなくなってよいのかという問いに対して、「寂しい」「残るべきだ」といった意見はしばしば見られる。若者は商店街で買い物をしなくなっている一方、街路の賑わいやコミュニケーションの場、地域コミュニティを担う場として商店街を慕う声は多く、商店街の役割はモノを買う場所としての役割から「集まる場」としての役割へと変わってきているようである。「のきさきあるこ」はそういった商店街の「集まる場」としての力を重視している。当イベントによって、商店街のこれからの在り方について思い巡らす機会になればと思う。

​注釈

1)近隣型商店街:最寄品中心の商店街で地元主婦が日用品を徒歩又は自転車等により買い物を行う商店街

地域型商店街:最寄品及び買回り品が混在する商店街で,近隣型商店街よりもやや広い範囲であることから,徒歩,自転車,バス等で来街する商店街(中小企業庁(2016)『商店街実態調査報告書「商店街の4分類」』 より)

図1 のきさきあるこ会期中の写真

図3 試作した屋台、桂キャンパスC2棟の2階に少しの間置かせてもらっていた

図2 買い歩きをする子供の写真

図4 大正区の木材会社で木材を購入し、加工場の提供や施工のアドバイスなどの協力をいただいた

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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