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ユニット型特養のユニットプランはなぜホール型が主流か 

制度からみた平面計画

 

博士後期課程 眞鍋明子

 居住系の高齢者福祉施設には、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、認知症高齢者グループホーム、介護付き有料老人ホームなどがある。これらは、「入居者が有する能力に応じ自立した日常生活を営めるようにする」という基本方針は同様であるが、これらの施設整備基準は施設類型ごとに異なっており、厚生労働省の研究事業ではこれらの見直しが検討されたこともある。

 これら4つの施設類型の中で、設計条件としての施設整備基準項目が多いユニット型特別養護老人ホーム(以下、ユニット型特養)では、時に創意工夫ある計画やユニット化改修整備などが基準によって阻まれる事例が報告されている。指摘される基準の一つに「居室は(中略)ユニットの共同生活室に近接して一体的に設けること」と、それに関する厚生労働省の解釈通知がある(図1)。仮に、この基準と解釈通知を機械的に用いて共同生活室や10の居室を配置した場合、共同生活室に面する居室の数が多くなり、共同生活室がホール的空間になりやすいユニット図が容易につくられる(図2)。実際に、全国のユニット型特養やユニット型老健の平面をみると、共同生活室がホール的空間になりやすい平面構成が多くみられる。

図1 ユニット型特養の近接基準とその解釈通知

図2 解釈通知を機械的に用いて共同生活室と居室を配置した平面例

 ユニット型特養の設計の過程では事業者や施設設計者のみならず、許認可権を持つ自治体の意向も反映されている。公募による事業者選定の前後における図面協議や図面審査の際に、施設整備基準を満たしているか、ユニットケアを実施する空間としてふさわしいか、各自治体の福祉系担当部局が確認し、必要に応じて設計が修正される。過去には、自治体の担当部局が当該基準を機械的に運用し指導した事で、必要以上に空間構成に制限を与えられた事例も現場から報告されている。ユニット型特養は公共性の高い建物であるにもかかわらず、各自治体が平面構成に対して課している具体的な制限は公表されていないことも多く、その全国的な実態は明らかになっていない。

 本研究は、ユニット型特養(広域型)の整備における許認可権をもつ121自治体(47都道府県、20政令指定都市、54中核市)を対象に、具体的な基準運用の実態や考えについて調査を行い、自治体がユニット内の空間構成に与えている制限の実態を分析した。調査は、主に電話によるヒアリングを行い、平面構成の隣接ルールの有無、具体的な運用や指導、談話コーナー等による緩和の3点を主たる項目として設定した。その他、各自治体の平面構成に関する考えやイメージ、制限される具体的な平面構成例、過去の事例等を確認した。なお、本調査においては調査内容のばらつきを抑えるため、過去に設計者の立場から図面協議に参加した事のある実務経験者1名で行った。

 分析の結果、共同生活室の独立性の確保が難しい平面構成が主流であると推察される自治体が約半数を占める事が分かった。また、具体的に方針を決めていない自治体の中でも、基準を機械的に運用する事を避け柔軟に個別判断する自治体がある一方で、これまで具体的な運用方針を定める必要性が無かった自治体もあり、考えの差異がある事も分かった。

 高齢者福祉施設のような公共性の高い建築物は一定の質の確保も必要だが、同時に個々の質の向上も図っていく必要がある。自治体や設計者が施設基準の文言に囚われるあまり、現場の要求や質の追求が阻まれる事があってはならない。個々の計画について3者で柔軟に議論し、相互に理解を深めていく事が求められる。

図3 複数の居室に囲まれている、独立性の低い共同生活室

図4 居室とは廊下で繋がれている、独立性の高い共同生活室

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『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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