【エッセイ】 小見山研究室 学部4回生 岩見 歩昂

 4年弱の備忘録

​図1 4回生studio課題(意味としての巣)

 2020年6月四回生前期設計課題-スタジオ課題-が終了し、設計をtraverseに掲載していただけることになった。と、同時にtraverseの学生エッセイ寄稿の話を知った。学部生でもエッセイの寄稿ができ、また今年のテーマが「巣」であるという。偶然にも三回生時とスタジオ課題の過去2回、設計課題で巣に結びつく設計をしていた自分としては親近感があり、何が書けるか考えてみた。思えば建築学科に入学して4年目、設計課題が始まってからだと丸2年以上が経ち、当然ながら随分と自分の考え方や視点にも変化があるなと気付く。そこで、まだ設計を始めたての、何も見えない中ただひたすらにもがいていた頃の実感が残っているうちに所感を整理し残しておきたいと思い寄稿させていただくことにしました。

― 設計課題におけるメタファー

 実際の建築や、設計課題においてしばしばメタファーが用いられる。それは、設計を局所的に説明するために用いられることもあれば、設計全体を丸ごと何かに喩えるために用いられることもある。メタファーの定義や意義に関しては様々な分野の学者から多くの意見が出されている。ここでは、便宜上言語学者リチャーズの表現を借りて、喩えられるもの(建築における設計)を趣意、喩えるものを媒体、として記述していく。ここで、「媒体」は“vehicle”の訳語なのであるが、まさに何かを伝えるための「乗り物」としての役割を果たす媒体にとってふさわしいメタファーである。

 設計において異分野の言葉を使ったのならばそれこそアナロジーやメタファーに該当する行為である。

 前述したようにこれまでに行った設計の2つが偶然にも「巣」に関するテーマであった。つまりは巣を媒体として設計をしたといえる。一つは設計演習Ⅳの集合住宅、もう一つは小見山研究室スタジオ課題である。

 例えばひとえに「巣をコンセプトにした」といっても全く違うコンセプトの使い方がなされている。

 集合住宅では居住者が自ら間取りをデザインでき、代謝できるメタボリズム的な建築を考え、「巣」を設計段階ではなくプレゼンテーション時に、メタファーの媒体として用いた。巣を動物の住居と捉え、動物は自分の巣を自分の手で制作するという要素を抽出し、それをメタボリズムのイメージとして設計に写像したのである。「動物が自らの手で巣を創るように、居住者が自由に間取りを計画できる…」などといった口調で説明したのではないだろうか。

 打って変わってスタジオ課題では巣を設計のコンセプト的に用い、アリの巣の生成過程を建築設計に応用することを試みた。つまりはプレゼンテーション時ではなく、設計時に巣も使ったのだ。

 さて、両者ともコンセプトは「巣」だといってしまえるような気がするが、出来たものはもちろんのこと、その内容、過程さえ全く違う。集合住宅においては、成果物を分かりやすく説明するために巣を借りてきただけである。つまり設計段階においては巣のことなど特に考えてはいなかったが、趣意を説明する便宜上、借りてきたのだった。それに対しスタジオ課題では真に巣と向き合い、その情報を建築に変換しようとした。しかしここで、両者は設計者である私以外の人にとって何が違うのであろうか。聞き手にはどちらの設計も巣について構想することから生まれたような印象を与えるのではないだろうか。

 両者の違いは、趣意の制作過程を見せるのか否か、という部分から生まれるように思う。これは個人の設計演習の記憶だが、思えば二回生時は作品の制作過程、趣意の変遷を伝えることに重きを置いていた。自分の考えを丸ごと聞いて欲しかったのだ。演習を重ねるにつれ、今度は出来上がった設計と向かい合い、どう見せたらいいのかを考えるようになった。より近道で、趣意を相手に伝えるために様々な媒体を用いる。プレゼンボードの雰囲気や、模型の空気感も媒体の一つになっていく。集合住宅では、巣を媒体に用いることで制作過程の見え方を変えたのである。

― 見せること

 つまるところプレゼンテーションは衣服のようである。人は各人異なる人間性を持つが、趣意としての人間性がそのまま他者に伝わることはなく、常に何らかのイメージ印象とともに受け取られる。その際衣服が媒体のようにはたらく。スーツを着ているとしっかりした印象を与え、場違いなところにパジャマなどで現れた暁にはその人の情報は「パジャマで現れる人間」だけで埋め尽くされてしまうことだろう。趣意は同じでも媒体次第で他者にとっては受け取る「趣意」自体にまでも影響が与えられる。

 設計演習においても、設計内容という趣意は設計者の中に事実として存在する。それを相手に伝えるために図面という建築言語を用い、プレゼンボードで華をもたせる。とすると二回生のころは作品のありのままを伝えるべく、趣意に私服、もしくはスウェットを着せていたが、時が経つにつれて見せ方を意識しスーツを着せるようになったのだ。設計演習では趣意、つまりは設計の実態以上にそれがどう伝わるかが大事だと思う。それは設計クオリティーのメタファーとしてプレゼンボードの質が影響するのはもちろんのこと、作品の説明方法も含めてだ。自分の思考の過程ではなく、客観的に分かりやすく設計が伝わるように説明を組み直す。設計内容という趣意を模型、プレゼン、図面、説明方法といった媒体を使って伝えることになる。だからこそ趣意にスーツを着せるのは正しい行為である。しかしその反面、これはある程度無茶な設計をしてもスーツで取り繕えてしまうということになる。

 設計者としても作品の装いを整えているうちに何だか思っていた以上にいいモノにみえてきてしまうことはよくある。これは結構危険なことではないだろうか。本心ではないところで趣意の合理化がなされてしまっているのである。馬子にも衣装というがまさにそのとおりで、仮に駄作が出来てもそれらしく見せることができてしまう。趣意をより分かりやすく伝えるために用いるべきだった媒体にいつの間にか、趣意そのものが支配されうるのではないだろうか。何もここでいう媒体とは表現方法に限らず、設計論理や説明過程も含んでいる。

 集合住宅についての部分でも触れたとおり、設計の道筋と、プレゼンテーションでの道筋を変えることはよくある。あくまで設計は論理ではなくモノを作る行為なので、成果物に対してフィードバックを行いその見せ方について検討すべきである。また、どこか言語化が難しくてもいいものはいいし全てが説明可能である必要性は無い。ただ、他者を納得させるための言葉で自分を納得させたくはないと思う。建築を学ぶほど、いろいろな要素に設計の良さを見出せるようになる反面、自身の設計においてはある程度でその設計に合理性をこじつけ、自分を満足させてしまえるようになる。いつしか知識に埋もれて自分の本心の所在が分からなくなってしまうかもしれないことを恐ろしく思う。

 最近の設計課題では私服でざっくばらんにありありと表現したい気持ちを抑え、時には自分の本心を偽ってでもスーツで着飾り見栄えを良くしていたのかもしれない。しかしスーツばかり着ているうちに自分の本当に好きな服が分からなくなってしまうのではないか。設計の見え方を意識するあまり、自分を見失いたくはない。自分が本心から納得できる設計をすると共に、個性の全てを曝け出しても恥ずかしくないものをつくってみたい。自分の中から溢れる何かをありのまま作品にしてみたい。ぜひ卒業設計には自分の中で一番お気に入りの私服で臨みたい。

​図2 3回生集合住宅課題 (表層としての巣)

『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2018.10 | 112p
19
インタビュー:米沢隆
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竹山研究室「驚きと喜びの場の構想」
平田研究室「建築が顔でみちるとき」
布野修司,竹山聖, 金多隆, 牧紀男, 柳沢究,小見山陽介
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2014.10 | 112p
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ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
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2020.01 | 112p
インタビュー:
   木村吉成&松本尚子
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​木村吉成&松本尚子, 宮本佳明,伊藤東凌,井上章一
竹山研究室「オブジェ・アイコン・モニュメント」
神吉研究室「Projects of Kanki lab.」
​金多研究室「自分の仕事を好きにならな」
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