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【インタビュー】 THEATRE E9 KYOTO 支配人・蔭山陽太

        

 まちの中の巣

 

  「人」として、地域に巣づく

ーー東九条に劇場をつくることになり、地域住民の方々の理解を得るためにどのような活動をされましたか。

まず住民説明会をクリアできないと、審査会で専門家の人に認められても建てることはできません。

特に小劇場は防音設備が十分ではない場合が多く、時に場内の音が外に漏れてしまったり、公演の前後で観客が劇場周辺に集まったりすることで近隣住民にとってそれが「騒音」となる「迷惑施設」になりがちです。33年続いた「アトリエ劇研」でさえもそうしたクレームは閉館まで度々ありました。ですが本質的に重要なのは「音」の音量ではなく、その施設と周辺住民、地域との関係性なのだと思います。

「100年続く劇場」をやっていくためには、たとえ劇場から音が漏れても、多くの来場者の話し声が聞こえてきても、周辺住民から「騒音」「迷惑」と感じられない、出来れば「劇団の人たち、頑張ってるね」「たくさん人が来て賑やかで良かったね」と思われるところまでの関係性を築いていかなければならないと思っています。なので劇場建設に向けてまずは、地域の人たちに直接コンタクトを取るところから始めました。

 

ーー劇場の建設を説得するのではなく、まずは「人」として認めてもらうことが重要だということですね。

劇場の人格を体現するのはそこにいる「人」です。どんな公演をするかなどの難しい話を理解してもらう前に、「ここに劇場をつくりたい」と言っている姿をきちんと見てもらうことが大切なのだと思います。この地域は、個人的にも大好きな映画『パッチギ!』の舞台にもなっているのですが、日韓併合以来、今も幾世代にも渡って在日コリアンの家族が多く生活しています。そしてこれまで実に長い間、理不尽な差別・抑圧を被ってきた歴史をもつまちでもあります。その一方で東九条の住民は、生活の中での「多文化共生」をテーマにすることで、様々な国籍や人種、障がいがある人たちが助け合って安心して暮らせる「多様性」をとても大切に考えています。私たちがここで劇場にする物件に出会えたことは意図しない偶然でしたが、そんなまちだからこそ、まさに異文化ともいえる「芸術」「芸術家」「劇場」を受け入れてくれたのだと思っています。

 

  THEATRE E9 KYOTO の設計

ーーこれまでの劇場でのご経験から、「E9」の設計に反映されたことはありますか。

一つは客席の椅子ですね。2時間くらいの観劇の間、「座っている」ことが気になって鑑賞への集中力を下げてしまうことが無いように、座り心地にはとてもこだわって選びました。昔は小劇場というとギュウギュウ詰めで小さな折りたたみ椅子か堅いベンチに座って、というのがむしろ「らしい」ということだったのですが、今は小劇場でも団塊世代、ビートルズ以降の世代の観客も多く、上演される公演の内容も多様になっています。なのでたとえ小劇場であっても鑑賞環境の良し悪しはとても重要です。THEATRE E9 KYOTOの客席の椅子はスタッキング出来る「コトブキシーティング株式会社」さんのものを使っているのですが、

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小劇場用に開発されたスタッキングが可能な椅子。底つき感がなく、座り心地がいい

東京の本社に行って実際にいろいろな椅子に座ってベストなものを選びました。小劇場での観賞用に開発、設計されたもので、劇場やスタジアム、映画館などの椅子を専門につくり続けてきたこの会社の経験と技術が凝縮されています。

舞台芸術は舞台と観客が共に創り上げる作品です。観客が座り心地を気にせずに目の前の舞台に集中できるかどうかは、その作品のクオリティに少なくない影響を与えるのです。

ーー「E9」は既存倉庫をリノベーションされたということですが、建築設計はどのように進みましたか。

設計にあたっては、私たちと舞台芸術に関する共通言語をもっていて、劇場の機構をきちんと分かっている人にまとめ上げてもらう必要があると考えていました。そこで優れた舞台美術家でもある設計家の木津潤平さんにお願いしました。木津さんは世界的にも高く評価されている演劇作品の舞台美術をいくつも手掛けてきた方で、過去に私が支配人をしていた劇場で何度か仕事をご一緒させていただいていました。ただ、半世紀前に工場として建てられた古い建物をリノベーションして、劇場としての建築基準をクリアするための設計は、大変な作業の連続でした。元々の鉄骨構造はしっかりしていましたが、地面を全部掘り返して基礎から固め直さなければなりませんでした。壁は住居専用地域での防音性能を確保するために40cmほどの厚みを加え、2階のコワーキングの足音などが1階の劇場に漏れないようにするために天井は特殊な防音材を何重にも設置した分厚いものにしました。また換気設備も、劇場基準を満たすために5分に1回、空気が完全に入れ替わる高性能なものを高額な費用をかけて設置しています。

劇場のトイレを考えるシンポジウムを経て、トイレはジェンダーフリーに。機能のみを表示したサイン
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建物内サイン表示のフォントはバウハウスの誌面から引用して作成したもの
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ーー大きな吹き抜けのホワイエも大変印象的でした。

ホワイエは、鴨川の遊歩道の桜が見えるように開放的なガラス張りにしました。2階の床に使っていた板材を壁に使うというのは、木津さんのアイディアです。長年、このまちにあった建物なので、地域の歴史を大切にしていきたいという私たちの思いもあって、外見はほぼ原形のままリノベーションされています。ホワイエも、工場や倉庫であった頃の搬入スペースがもっていた吹き抜けや柱をそのまま生かしています。トタンが使われていた部分の壁は同じ印象になるような素材と色を使っています。また1階のカフェは工場だった頃の事務所スペースだったのですが、窓枠の鉄のサッシやガラスのブロックも原形のままです。

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カフェ正面。コワーキングスペース利用者や「E9」職員、地域住民が集う
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既存倉庫の吹き抜けが生かされたホワイエ。2階はコワーキングスペースになっている
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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