【インタビュー】 「アーキテクチャーフォト®」編集長 後藤連平

        

 今、建築をいかに伝えるか

 

  現代を生きる学生たちへ

ーー現在、建築情報に限らずあらゆる情報が私たちのまわりにあふれていますが、情報を受け取る際にどのような意識をもつべきなのでしょうか。

 

 情報の偏りを無くしていく意識をもつといいのかなと思いますね。例えば、あるトピックに対して一つの意見だけをみるというよりも、その全く反対方向にある意見もみるようにすることが大事なのではないかと思っています。


 片方だけの意見をずっとみていると、そこに正当性があるような感覚を覚えますが、全く逆の意見をみてみると、こういう意見もあるんだなという新鮮な感覚を得られると思うんです。自分がこういうふうに信じたいという想いは人間の誰しもがもっていると思うんですが、振れ幅のあるなかで真逆の価値観を知ってみると相対化できるようになる、つまり、自分の立ち位置を測れるようになると思います。


 僕の経歴とも重なると思うんですが、大学院でアカデミックに建築を研究した後に、組織設計事務所でマンションは売るためにつくるものだという価値観の世界にいったことによって、建築を歴史的に意味のあるものだと捉える考え方と、完全に商品として捉える考え方という、ある種真逆な2つの価値観を知ることができました。


 それと同じで、情報収集をするときも、一つの意見だけではなく、その反対側にあるものも知ることで、多面的に考えられるようになり、結果として自分の立ち位置が決めやすくなるのではないでしょうか。

ーー自己の判断基準が確立されていない学生の場合、どのように情報と向き合うべきなのでしょうか。

 一つ僕が思いついたのは、メンターのような、この人の言っていることは信頼できるなという人を探すことですね。


 建築家でもTwitter とかSNS をやっている人がいて、それぞれ個性があるんですよね。だから共感する建築家をフォローして、その人が読んだ本を読んでみるとか、そういうロールモデルのような人をネット上で見つけて、その人が興味をもっている情報を追跡していくとか、そういうところから始めていくといいかなと思います。


 建築家でなくとも、自分がこの人は信頼できるなと思った人の発信を追いかけていくと、学びの出発点になると思うんです。それでだんだんこの人と考え方が違うなと思ったら、そこを掘り下げていけばいいし、その違う部分が自分の個性になっていくのではないかと思います。
 これは情報に限らないですが、学生のうちは自分で判断が難しいのだとしたら、既に社会的に認められているものについて、何がいいといわれているんだろうと考えることも大切だと思います。いいっていわれているものも、全てが同じではなくて、違う良さなんですよね。


 なので、やっぱりたくさん見て、経験することかなと思います。例えば、すごく斬新な空間で、写真一枚見ただけですごいなって思うものだったら、文章は読まなくてもいいのかもしれません。でも、アーキテクチャーフォトには、空間が劇的でない作品も結構載ってると思うんです。そこには、また別の良さやすごさがあるんです。なので何故それが載っているか、この作品はどんないいところがあるのかといった、ポジティブな深読みをしてもらって自分なりの答えを見つけて欲しい。だんだんとそういう経験が積み重なっていくと作品を相対化できていくんじゃないかなと思います。


 僕は毎日建築家の作品写真を見ているし、たくさんの建築にも足を運んでいます。そういう経験があるからこそ、他の人が気付かないような作品の違いや特質みたいなものを解像度高くみられるようになっているのかなと思います。

ーー建築家を目指す学生がこれから生き抜いていくためにどのような工夫をするべきなのか、編集者の立場からのご意見を伺いたいです。

 僕は、建築設計者としての生き方はいろいろあると思っています。例えば、空間の新規性を追究して雑誌の表紙を飾るような空間づくりを目指すというのも一つだと思いますし、より幅広くクライアントとなる人が住みたいと感じるような住宅に建築の価値を見出して、そういう建築をつくる設計者を目指してもいいと僕は思うんです。


 もしかしたら、学生の立場からすると、クライアントがお金を払いたくなるような住宅が作品として見えてないということはあるかもしれません。それは実務経験を積まないとやっぱり理解できない部分でもあり、僕も自分で設計をしてみて、こういうデザインだとお施主さんが価値を感じてくれるんだということがようやく分かるようになったんです。

 

  「建築業界の共有財産」として

ーーアーキテクチャーフォトは今後どのように展開していくのでしょうか。

 

 規模を拡大していくというよりも、どうすれば、先に残していくことができるのかという意識があります。例えば、個人名を冠した設計事務所は、その方が亡くなったらたたんでしまう場合もあるし、組織として残っていく場合もあると思います。


 僕はアーキテクチャーフォトという媒体をここまで育ててきて、作品を預かっているという認識がすごくあります。今のままだと、僕がいなくなったらサイトがクローズしてしまう可能性が高いので、先に残していけるような体制づくりをしないといけないなと、ここ最近思うようになりました。法人化したことや、編集パートナーの方々と特集記事の構築を進める仕組みを始めたのもそういう理由です。


 この活動を僕だけでやっていけるわけではないので、考えていることを理解してくれる人に協力してもらって、僕自身の経験をフィードバックして得られた知見を仕組み化すれば、ある程度は継続性をもっていくのではと考えています。
 そうやって引き継いでいくフェーズを視野に入れなければいけないのかなとは思います。「建築業界の共有財産」として残っていくことがアーキテクチャーフォトの目標なのかもしれないです。

ーー後藤さんご自身の目標についてもお聞かせください。

 アーキテクチャーフォトでの建築作品の発信とは別に、建築のビジネスの側面について、何か建築家の方へのヒントになるようなものが本としてまとまったらいいなとも考えています。例えば、自分たちのデザインをどのように価値として伝えられるか、ビジネスとして成立させられるか、というようなものです。実際に僕もそうでしたが、経営的な側面も考えて仕事に取り組むことは、アカデミックに建築を学んできた人達には、恥ずかしいというメンタリティがどうしてもあるように思うんです。


 でも、広く社会を見渡したり他分野の経営者と交流するなかで、お金を得ることはその分の価値提供をしているからだと分かりましたし、そうやって考えていくことにより、建築家が仕事を積み重ねることができれば、作品としてみてもクオリティが上がっていくと思っています。そういうビジネスの側面でも自分に伝えられることがあるのでは、と考えています。


 ただ、アーキテクチャーフォトは建築家が作品を発表する、ネット上のハレの場みたいな存在でありたいと僕は思っているので、そこに同時に経営やビジネスの話が入ってくると、サイト自体のコンセプトが分かりにくくなるのではないかなと思っていて、別のチャンネルが必要なのだと思います。
 アーキテクチャーフォトでは純粋に作品としての側面を取り上げていきながら、それを補完する別の形で発信もしていけたらいいのかなという感じです。note やFacebookでは既にそういう発信を始めているのですが、建築を生業として生き残っていくための考え方とかスキルについて、ヒントが得られる発信を拡大していきたいという意欲がありますね。

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ZOOM にて行われた後藤氏へのインタビューの様子
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アーキテクチャーフォト® の歴史
後藤連平(建築系ウェブメディア「architecturephoto®」代表)

1979年静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。建築と社会の関係を視覚化するメディア「アーキテクチャーフォト®」編集長。アーキテクチャーフォト株式会社代表取締役。組織系設計事務所勤務の後、小規模設計事務所に勤務。2003年からウェブでの情報発信を行い2007年にアーキテクチャーフォト®の形式に改編。現在はウェブメディアの運営等に専念し、建築系求人情報 サイト「アーキテクチャーフォトジョブボード」、古書・雑貨のオンラインストア「アーキテクチャーフォトブックス」の運営等も手掛ける。 著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)等、編著に『“山"と“谷"を楽しむ建築家の人生』(ユウブックス)等がある。
『traverse 新建築学研究』は京都大学建築系教室が編集・発行している機関誌です。17年度より紙媒体での出版を止め、web上で記事を発信していく事となりました。
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2018.10 
19
インタビュー:米沢隆
workshop:
discussion:
project:
 
 
 
essay:
池田剛介, 大庭哲治, 椿昇, 富家大器, 藤井聡,藤本英子
倉方俊輔,高須賀大索,西澤徹夫
竹山研究室「驚きと喜びの場の構想」
平田研究室「建築が顔でみちるとき」
布野修司,竹山聖, 金多隆, 牧紀男, 柳沢究,小見山陽介
18
2017.10 
インタビュー:五十嵐淳
interview:
project:
essay:
三谷純,奥田信雄,魚谷繁礼,
五十嵐淳
竹山研究室「脱色する空間」
竹山聖,​大崎純, 小椋大輔, 布野修司,古阪秀三, 牧紀男, 
Galyna SHEVTSOVA
17
インタビュー:野又穫
2016.10 
interview:
project:
essay:
野又穫,松井るみ,石澤宰,柏木由人
​竹山研究室「無何有の郷」
​竹山聖,山岸常人,布野修司,三浦研,牧紀男,古阪秀三,川上聡
16
2016.1
interview:
project:
essay:
中野達男,石山友美,TERRAIN architects
竹山研究室「コーラス」
​竹山聖,布野修司,大崎純,古阪秀三,牧紀男
特集:アートと空間
2014.1
14
interview:
project:
essay:
松井冬子,井村優三,豊田郁美,アタカケンタロウ
竹山研究室「個人美術館の構想」
竹山聖,布野修司,小室舞,中井茂樹
特集:建築を生成するイメージ
2015.1
15
ホンマタカシ,八島正年+八島夕子,高橋和志,島越けい子
ダイアグラムによる建築の構想
​竹山聖,布野修司,大崎純,
古阪秀三,平野利樹
interview:
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essay:
20
2020.01 
インタビュー:
   木村吉成&松本尚子
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project:
 
 
 
essay:
​木村吉成&松本尚子, 宮本佳明,伊藤東凌,井上章一
竹山研究室「オブジェ・アイコン・モニュメント」
神吉研究室「Projects of Kanki lab.」
​金多研究室「自分の仕事を好きにならな」
布野修司,竹山聖, 大崎純, 牧紀男, 柳沢究,清山陽平,成原隆訓,石井貴一
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​満田衛資, 蔭山陽太, 鈴木まもる×大崎純
学生座談会
小椋・伊庭研究室
小林・落合研究室
平田研究室
三浦研究室
​井関武彦, 布野修司, 竹山聖, 古阪秀三, 牧紀男, 柳沢究,  小見山陽介, 石井一貴, 菱田吾朗, 岩見歩昂, 北垣直輝
interview:
 
project:
 
 


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インタビュー:満田衛資
2020.11 | 
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